日常的に「風邪」と呼んでいる症状について「正式な医学的名称は何だろう」と疑問に思われる方がいらっしゃるのではないでしょうか。
風邪の正式名称は医学的には「感冒」とされており、より詳細には「急性上気道炎」や「急性上気道感染症」などの診断名が使用されることが一般的です。
風邪という俗称は非常に広く使われていますが、医療現場では症状の部位や原因に応じてより具体的な診断名が用いられるとされています。
国際疾病分類(ICD-10)でも感冒は正式に分類されており、医学的な定義と基準が明確に定められています。
風邪の正式名称を理解することで、医療従事者とのコミュニケーションや医学情報の理解がより正確になる可能性があるため、基本的な知識として知っておくことが有用とされています。
風邪の正式名称と基本的な医学用語
風邪の正式名称は医学的には「感冒(かんぼう)」とされており、これが最も一般的で正統な医学用語として国内外で使用されています。
「感冒」としての正式名称では、「感冒」という用語は中国医学に由来し、「感」は外からの邪気を受けること、「冒」は犯されることを意味し、外部からの病邪(現在でいうウイルス)により体が侵されることを表しているとされています。現代医学においても、この「感冒」という用語が風邪の最も正式で標準的な医学名称として採用されており、医学教育、医学書、学術論文などで広く使用されています。英語では「common cold」が対応する用語となり、国際的な医学文献でもこの表現が標準とされています。
「急性上気道炎」との関係では、感冒をより病理学的に詳細に表現した診断名として「急性上気道炎」が使用される場合があります。これは鼻腔、咽頭、喉頭などの上気道に生じる急性の炎症を意味し、感冒の病態をより具体的に示した表現とされています。また、「急性上気道感染症」という名称も使用され、これは感染症としての側面を強調した表現となります。これらの用語は感冒と同義で使用されることが多く、医師の専門分野や診療方針により使い分けられる場合があります。
医学辞典での定義として、主要な医学辞典では感冒を「主にウイルス感染による上気道の急性炎症で、鼻汁、鼻閉、咽頭痛、咳嗽、発熱などを主症状とする疾患」と定義しているとされています。この定義は国内外の医学教育機関で標準的に使用されており、医師国家試験や医学部教育でもこの定義に基づいた内容が出題・教育されています。また、症状の特徴、経過、予後についても標準的な記述が医学辞典に記載されているとされています。
国際疾病分類での位置づけでは、WHO(世界保健機関)が定める国際疾病分類第10版(ICD-10)において、感冒は「J00-J06 急性上気道感染症」の分類に含まれ、具体的には「J00 急性鼻咽頭炎(感冒)」として正式に分類されているとされています。この分類コードは世界共通で使用されており、医療統計、診療報酬、国際的な疫学調査などで標準的に使用されています。日本の医療現場でもこのICD-10分類に基づいた診断コードが使用されることが一般的です。
風邪の正式名称として「感冒」が医学的に確立されていますが、実際の医療現場では更に詳細な分類が使用されます。
続いて、症状や部位による分類について見ていきましょう。
症状や部位による風邪の分類と名称
風邪の症状や部位による分類では、感冒をより詳細に部位別・症状別に分けた診断名が医療現場で使用されており、これらの分類により適切な治療方針が決定されるとされています。
急性鼻炎・急性咽頭炎などの部位別分類では、感冒の症状が主にどの部位に現れているかにより細分化された診断名が使用されます。「急性鼻炎」は主に鼻の症状(鼻水、鼻づまり、くしゃみ)が顕著な場合に使用され、「急性咽頭炎」はのどの痛みや発赤が主症状の場合に用いられるとされています。「急性扁桃炎」は扁桃の腫脹や膿栓を伴う場合、「急性喉頭炎」は声枯れや咳が主症状の場合に診断されます。これらの部位別診断により、より適切で効果的な治療が可能になるとされています。
普通感冒と流行性感冒の違いでは、「普通感冒」は一般的なウイルス(ライノウイルス、コロナウイルスなど)による軽度から中等度の上気道感染症を指し、「流行性感冒」はインフルエンザウイルスによる感染症を意味するとされています。インフルエンザは感冒よりも全身症状が強く、高熱、関節痛、筋肉痛などが特徴的で、医学的には感冒とは区別して扱われます。ただし、広義の「感冒様症状」としてインフルエンザも含まれる場合があり、症状の程度や経過により鑑別診断が行われるとされています。
上気道感染症としての総称では、鼻腔から喉頭までの上気道に生じる感染症を総称して「急性上気道感染症」と呼ぶ場合があります。この総称には感冒、急性鼻炎、急性咽頭炎、急性喉頭炎、急性気管炎(上部)などが含まれ、原因や部位が特定しにくい場合や、複数の部位に症状が及んでいる場合に使用されるとされています。下気道感染症(気管支炎、肺炎など)との鑑別診断においても重要な概念となります。
症候群としての捉え方では、感冒を単一の疾患ではなく、類似した症状を示す複数の病態をまとめた「症候群」として捉える考え方もあります。「感冒症候群」「上気道感染症候群」という表現が使用される場合があり、これは原因ウイルスや詳細な病態が特定できない場合でも、特徴的な症状パターンにより診断・治療を行うアプローチとされています。この考え方は特にプライマリケア(初期診療)において重要で、症状に基づいた実践的な医療を行う際に有用とされています。
風邪の部位別・症状別分類は医療現場での正確な診断に重要ですが、原因となるウイルス別の分類も存在します。
続いて、原因ウイルス別の正式名称について説明いたします。
原因ウイルス別の風邪の正式名称
風邪の原因ウイルス別の正式名称では、特定のウイルスが同定された場合にはそのウイルス名を冠した感染症名が診断名として使用され、より正確な病態把握と治療選択が可能になるとされています。
ライノウイルス感染症では、風邪の最も一般的な原因であるライノウイルスによる感染症は「ライノウイルス感染症」または「ライノウイルス性感冒」と診断されることがあります。ライノウイルスは100種類以上の血清型があり、感冒全体の約30〜50%の原因とされています。症状は比較的軽度で、主に鼻症状(鼻水、鼻づまり、くしゃみ)が特徴的とされています。確定診断には特殊な検査が必要ですが、一般的な臨床現場では症状パターンによりライノウイルス感染症が推定される場合が多いとされています。
コロナウイルス感染症(一般的な風邪型)として、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とは異なる従来型のコロナウイルス(HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1)による感染症は「ヒトコロナウイルス感染症」と呼ばれる場合があります。これらのコロナウイルスは感冒全体の約10〜15%の原因とされており、冬季に流行しやすい特徴があります。症状は一般的な感冒症状と類似しており、通常は軽度から中等度の上気道症状を呈するとされています。
アデノウイルス感染症では、アデノウイルスによる感染症は「アデノウイルス感染症」と診断され、感冒症状に加えて結膜炎や発熱を伴うことが特徴的とされています。「咽頭結膜熱」「プール熱」などの俗称でも知られており、夏季に流行することが多いウイルスです。アデノウイルスは50種類以上の血清型があり、型により症状の特徴が異なる場合があります。迅速抗原検査により比較的容易に診断可能で、確定診断がつけば「アデノウイルス性咽頭炎」などの具体的な診断名が使用されるとされています。
その他の原因ウイルスによる感染症として、パラインフルエンザウイルス感染症、RSウイルス感染症、ヒトメタニューモウイルス感染症、エンテロウイルス感染症なども感冒様症状を呈する場合があります。これらのウイルスが同定された場合には、それぞれ「パラインフルエンザウイルス性咽頭炎」「RSウイルス感染症」などの具体的な診断名が使用されるとされています。乳幼児や高齢者、免疫不全患者では重篤化する可能性があるため、原因ウイルスの特定が重要な意味を持つ場合があります。
原因ウイルス別の診断名は学術的・疫学的に重要ですが、実際の医療現場では実用的な診断名が使用されます。
続いて、医療現場で実際に使われる診断名について見ていきましょう。
医療現場で使われる診断名と病名
医療現場で使われる診断名と病名では、感冒に関して実用的で標準化された診断名が使用されており、診療報酬制度や医療記録の管理において重要な役割を果たしているとされています。
診療報酬での病名の扱いでは、日本の診療報酬制度において感冒関連の病名は「急性上気道炎」「感冒」「急性鼻咽頭炎」などが標準的に使用されるとされています。これらの病名は診療報酬点数表で定められた検査や治療に対応しており、適切な病名の選択により正確な診療報酬請求が可能になります。「かぜ症候群」「上気道感染症」なども一般的に使用される病名で、症状の程度や部位により医師が適切な病名を選択するとされています。
処方箋や診断書での記載では、処方箋には通常「感冒」「急性上気道炎」などの簡潔な診断名が記載されることが多く、診断書や紹介状ではより詳細な「急性鼻咽頭炎」「ウイルス性上気道感染症」などの表現が使用される場合があります。患者さんが理解しやすいよう、括弧内に「(かぜ)」という説明を付加する医師も多いとされています。職場への提出書類では「感冒」「急性上気道炎」などの正式な医学用語が使用されることが一般的です。
ICD-10分類での正式コードでは、国際疾病分類第10版において感冒関連疾患は以下のようにコード化されているとされています。J00「急性鼻咽頭炎(感冒)」、J01「急性副鼻腔炎」、J02「急性咽頭炎」、J03「急性扁桃炎」、J04「急性喉頭炎及び気管炎」、J06「急性上気道感染症(多発性及び部位不明)」などがあります。これらのコードは世界共通で使用され、国際的な医療統計や疫学調査で重要な基準となっています。
医師間で使用される専門用語では、医療従事者間のコミュニケーションでは「URI」(Upper Respiratory Infection:上気道感染症)、「URTI」(Upper Respiratory Tract Infection)などの略語が使用される場合があります。また、「viral syndrome」(ウイルス症候群)、「viral URI」(ウイルス性上気道感染症)などの表現も専門的な文脈で使用されるとされています。電子カルテや医療記録では、これらの標準化された用語により正確で効率的な情報管理が行われています。
医療現場での診断名は実用性と正確性を重視して使用されますが、これらの知識の意義と注意点も理解しておくことが重要です。
最後に、風邪の正式名称を知ることの意義について説明いたします。
風邪の正式名称を知ることの意義と注意点
風邪の正式名称を知ることの意義は、医療従事者との適切なコミュニケーション、正確な医学情報の理解、類似疾患との区別などにおいて重要な役割を果たすとされています。
医療従事者とのコミュニケーションでは、「感冒」「急性上気道炎」などの正式名称を理解していることで、医師の説明をより正確に理解し、適切な質問をすることができるとされています。処方箋や診断書に記載された病名の意味を理解することで、自分の病状について正確な把握が可能になります。また、医師に症状を説明する際にも、「のどの痛み」「鼻水」などの具体的な症状を部位別に整理して伝えることで、より正確な診断につながる可能性があります。
正確な情報収集への活用では、インターネットや医学書で情報を検索する際に、「風邪」ではなく「感冒」「急性上気道炎」などの正式名称を使用することで、より信頼性の高い医学情報にアクセスできるとされています。学術論文や専門的な医学サイトでは正式名称が使用されることが多いため、適切なキーワードでの検索により質の高い情報を得ることができます。ただし、医学情報の解釈については専門的な知識が必要な場合があるため、医師への相談と組み合わせることが重要です。
類似疾患との区別では、「感冒」と「インフルエンザ」、「アレルギー性鼻炎」、「副鼻腔炎」などの類似疾患を正確に区別するためには、それぞれの正式名称と特徴を理解することが有用とされています。症状が似ていても原因や治療法が異なる場合があるため、正確な病名の理解により適切な対処法を選択できる可能性があります。また、薬局で市販薬を選択する際にも、自分の症状に最も適した薬剤を選ぶための参考になるとされています。
適切な受診や相談のポイントとして、風邪の正式名称や分類を理解することで、症状の重症度や緊急性をより客観的に判断できる可能性があります。「急性上気道炎」の一般的な経過を理解していれば、通常の範囲内の症状なのか、医療機関への受診が必要な状態なのかの判断材料となります。ただし、医学的な自己診断には限界があるため、心配な症状がある場合には専門的な診断を受けることが最も重要とされています。職場や学校への報告においても、正式な病名を理解していることで適切な手続きを行うことができます。
風邪の正式名称についての知識は有用ですが、この知識を医学的な自己診断に使用することは適切ではないため、適切な医療機関での相談と組み合わせることが重要です。正確な診断と治療により、症状の改善と健康の維持が期待できる場合があります。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
2019年4月 | 赤穂市民病院 |
2021年4月 | 亀田総合病院 |
2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
2023年2月 | いずみホームケアクリニック |