アトピー性皮膚炎について「他人にうつるのではないか」「プールや温泉で感染するのでは」といった不安や誤解をお持ちの方は少なくありません。
アトピー性皮膚炎がうつるかどうかについては、医学的に明確な答えがあります。
アトピーがうつると誤解される背景には、家族内で複数の人が発症することや、見た目の症状に対する誤った認識があるとされています。
アトピーについての正しい理解が、患者さん本人や周囲の方々の不安軽減につながる可能性があります。
アトピーと感染症の違いを理解することで、日常生活における不必要な制限を避けることができます。
ただし、症状の判断や適切な対応については、専門的な評価が重要とされています。
アトピーはうつるのか?感染症との違いと医学的根拠
アトピー性皮膚炎は感染症ではなく体質的な要因によって生じる疾患であるため、接触、共有、近距離での生活などを通じて他人にうつることは医学的にあり得ないとされています。
アトピー性皮膚炎は感染症ではないことについて、アトピー性皮膚炎は細菌やウイルス、真菌などの病原体によって引き起こされる感染症ではありません。遺伝的素因、皮膚のバリア機能の低下、免疫系の特性など、個人の体質的な要因が発症の基盤となっています。そのため、風邪やインフルエンザのように病原体が人から人へ伝播することはなく、アトピー性皮膚炎の人と接触したり、同じものを共有したりしても感染することはないとされています。
接触や共有によって伝染しない理由では、アトピー性皮膚炎の皮膚症状は、外部からの病原体の侵入によって生じるものではなく、本人の免疫反応や皮膚の状態によって引き起こされるものです。そのため、患者さんの皮膚に触れる、同じタオルや衣類を使用する、同じプールや浴槽に入るなどの行為によって、他の人に症状が移ることはありません。また、患者さんの掻き傷から出る浸出液にも感染性はなく、それに触れても他の人がアトピー性皮膚炎を発症することはないとされています。
家族内で発症が多い理由について、家族の中で複数の人がアトピー性皮膚炎を発症することがあるため、「うつる」と誤解されることがあります。しかし、これは感染によるものではなく、遺伝的素因を共有していることが主な理由です。親から子へ、兄弟姉妹間で、アトピー体質やアレルギー体質が受け継がれることで、家族内で複数の人が発症する可能性があります。また、同じ住環境(ダニ、カビ、ペットなど)を共有することも、家族内での発症に関与する場合があるとされています。
誤解されやすいケースでは、アトピー性皮膚炎の患者さんが二次感染(細菌やウイルスによる感染)を起こしている場合、その二次感染症自体はうつる可能性があります。例えば、掻き傷から黄色ブドウ球菌が感染した場合(伝染性膿痂疹、通称「とびひ」)、これは他の人にうつる感染症です。しかし、この場合にうつるのは二次感染症であり、アトピー性皮膚炎そのものではありません。適切な治療により二次感染を予防・治療することが重要とされています。
このように、アトピー性皮膚炎は体質的要因による疾患であり、病原体による感染症ではないため、接触や共有を通じて他人に伝染することはありません。
続いて、アトピーと感染症の具体的な見分け方について見ていきましょう。
アトピーの症状と感染症との見分け方
アトピー性皮膚炎には慢性的な経過、特定部位への好発、かゆみを主体とする症状といった特徴があり、急性発症や発熱を伴うことが多い感染性皮膚疾患とは異なる症状パターンを示すとされています。
アトピー性皮膚炎の特徴的な症状では、乳児期には顔や頭部に、幼児期以降には肘の内側や膝の裏側、首などの関節部位に湿疹が現れやすいという好発部位の特徴があります。症状は慢性的に持続し、良くなったり悪くなったりを繰り返すことが多く、季節や体調、ストレスなどによって変動します。強いかゆみを伴い、掻くことで症状が悪化するという悪循環が特徴的です。皮膚は乾燥しやすく、カサカサとした状態や、ひび割れを伴うことが多いとされています。
感染性皮膚疾患との違いでは、感染症による皮膚症状は比較的急性に発症し、発熱や全身倦怠感などの全身症状を伴うことが多い点が異なります。疥癬では強いかゆみがありますが、手指の間や手首、下腹部などに特徴的な分布を示し、夜間に特にかゆみが強くなります。水虫(白癬)では足の指の間や足底に水疱や皮むけが見られ、通常は片足から始まることが多いとされています。帯状疱疹では神経に沿って帯状に水疱が現れ、強い痛みを伴うことが特徴的です。
二次感染が起きた場合の注意点では、アトピー性皮膚炎の掻き傷から細菌感染が生じると、黄色いかさぶた、浸出液の増加、発熱などの症状が現れます。この状態は「とびひ(伝染性膿痂疹)」と呼ばれ、他の人にうつる可能性があります。ヘルペスウイルスの感染(カポジ水痘様発疹症)では、広範囲に水疱が多発し、高熱を伴うことがあります。これらの二次感染は適切な治療が必要であり、放置すると重症化する可能性があるとされています。
医療機関での診断の重要性では、アトピー性皮膚炎と感染性皮膚疾患の鑑別は、症状の経過や分布、随伴症状などを総合的に評価する必要があります。特に初めて症状が現れた場合や、症状が急激に変化した場合、通常の治療で改善しない場合などには、専門的な診断が重要です。必要に応じて、皮膚の一部を採取して顕微鏡検査や培養検査を行うこともあります。
このような慢性経過、特定部位への好発、かゆみを主体とする症状という特徴的なパターンにより、感染性疾患との鑑別が可能です。
次に、アトピーの人との日常生活における注意点について説明いたします。
アトピーの人との日常生活で気をつけること
アトピー性皮膚炎はうつらないため、プールや入浴施設の利用、タオルや衣類の共有、スキンシップなどの日常的な接触において特別な制限は必要なく、通常の生活を送ることができるとされています。
プールや入浴施設の利用について、アトピー性皮膚炎そのものは感染症ではないため、プールや温泉、銭湯などの共用施設を利用しても他の人にうつることはありません。ただし、二次感染(とびひなど)を起こしている場合や、掻き傷からの出血や浸出液が著しい場合には、感染症拡大防止や傷の保護の観点から、一時的に利用を控えることが推奨される場合があります。また、プールの塩素や温泉の成分が皮膚を刺激し、症状を悪化させる可能性があるため、利用後は十分に洗い流し、保湿ケアを行うことが大切です。
タオルや衣類の共有では、アトピー性皮膚炎がうつることはありませんが、衛生管理の観点から、タオルや寝具などの共用は避けることが一般的に推奨されます。これはアトピー性皮膚炎だけでなく、他の皮膚トラブルや感染症の予防のためにも重要です。患者さん自身にとっても、他人の皮膚常在菌や汗などが刺激となり症状が悪化する可能性があるため、個人専用のタオルや寝具を使用することが望ましいとされています。
スキンシップや接触について、家族や友人、パートナーとのスキンシップ(握手、ハグ、添い寝など)によってアトピー性皮膚炎がうつることはありません。通常の社会生活や人間関係において、アトピー性皮膚炎を理由に接触を避ける必要はないとされています。ただし、患者さん本人が皮膚の状態や感覚に敏感になっている場合があるため、強くこすったり、長時間密着したりすることで症状が悪化する可能性があることに配慮することが大切です。
周囲の理解と配慮では、アトピー性皮膚炎について正しく理解し、患者さんが不必要な差別や偏見を受けることのないよう配慮することが重要です。特に学校や職場などの集団生活の場では、周囲の理解が患者さんの心理的負担を軽減し、症状のコントロールにも良い影響を与える可能性があります。患者さん自身も、必要に応じて周囲に病気について説明し、理解を求めることが、より良い人間関係の構築につながるとされています。
このように、アトピー性皮膚炎は感染しないため日常生活における特別な制限は不要であり、通常の社会生活を送ることができます。
続いて、アトピーに似ているがうつる可能性がある皮膚疾患について見ていきましょう。
アトピーに似てうつる可能性がある皮膚疾患
皮膚症状を呈する疾患の中には、アトピー性皮膚炎と見た目が似ていても実際には感染性を持つものがあり、疥癬、真菌感染症、ウイルス性皮膚疾患、細菌性皮膚疾患など、適切な鑑別診断が必要とされています。
感染性の皮膚疾患について、疥癬(かいせん)はヒゼンダニという寄生虫が皮膚に寄生することで生じ、強いかゆみを伴う皮疹が現れます。接触によって他人にうつる可能性があり、特に高齢者施設などで集団発生することがあります。白癬(水虫・たむし)は真菌(カビ)の感染症で、足だけでなく体や頭部にも発症し、接触や共用物を介してうつる可能性があります。これらは見た目だけではアトピー性皮膚炎との区別が難しい場合があるため、専門的な診断が重要です。
ウイルス性の皮膚疾患では、伝染性軟属腫(水いぼ)は主に小児に見られるウイルス感染症で、接触や共用物を介してうつります。伝染性膿痂疹(とびひ)は細菌感染により水疱や痂皮が形成され、急速に広がる特徴があります。カポジ水痘様発疹症は、アトピー性皮膚炎の患者さんがヘルペスウイルスに感染した状態で、広範囲に水疱が多発し高熱を伴うことがあります。これは他人にヘルペスウイルスをうつす可能性があるため注意が必要とされています。
細菌性の皮膚疾患では、蜂窩織炎(ほうかしきえん)は皮膚の深い層に細菌感染が広がった状態で、発赤、腫脹、発熱を伴います。毛嚢炎は毛穴に細菌が感染して炎症を起こした状態で、アトピー性皮膚炎の患者さんでは二次感染として発症しやすいとされています。これらの細菌感染症は、掻き傷からの感染が多く、適切な治療が必要です。
適切な鑑別の必要性では、これらの感染性皮膚疾患は、見た目だけではアトピー性皮膚炎と区別が困難な場合があります。特に、症状の経過が通常と異なる場合、急激に悪化する場合、発熱や全身症状を伴う場合などには、感染症の可能性を考慮する必要があります。顕微鏡検査、培養検査、血液検査などにより正確な診断を行い、適切な治療を受けることが重要とされています。
このように、疥癬、真菌感染、ウイルス性・細菌性皮膚疾患など感染性のある疾患との鑑別が重要であり、専門的な診断により適切な治療につながります。
最後に、医療機関を受診すべきタイミングについて説明いたします。
アトピーの症状で医療機関を受診すべきタイミング
医療機関での相談が必要なアトピー性皮膚炎の症状かどうかは、症状の急激な変化、二次感染の兆候、通常の治療への反応性、生活への影響度を多角的に検討して判断することが大切とされています。
早急な受診を検討すべき症状として、急激に症状が悪化し広範囲に湿疹が拡大した場合、高熱を伴う皮膚症状、黄色いかさぶたや膿を伴う皮膚病変(とびひの可能性)、広範囲に水疱が多発した場合(カポジ水痘様発疹症の可能性)があります。また、皮膚の痛みが強い、発赤と腫脹が急速に広がる(蜂窩織炎の可能性)、呼吸困難や全身の強いかゆみを伴う場合(アナフィラキシーの可能性)には緊急性が高いとされています。これらは二次感染や重篤な合併症の可能性があるため、速やかな対応が必要です。
継続的な観察が必要なケースでは、適切なスキンケアや市販薬を使用しても症状が改善しない場合や、症状が徐々に悪化している場合があります。かゆみのために睡眠が著しく妨げられている、日常生活や学習・仕事に支障をきたしている、顔や目立つ部位の症状により心理的ストレスが大きい場合には、生活の質への影響が大きいため専門的な治療が推奨されます。また、これまでと異なる症状パターンが現れた場合、他のアレルギー症状(喘息、食物アレルギーなど)を併発している場合にも、総合的な評価が必要とされています。
特に注意が必要な方として、乳幼児では皮膚バリア機能が未熟で二次感染を起こしやすいため、軽度の症状でも早めの相談が推奨されます。免疫抑制薬を使用中の方や基礎疾患をお持ちの方では、感染症のリスクが高いため注意深い観察が重要です。また、初めてアトピー性皮膚炎と思われる症状が現れた場合には、他の皮膚疾患との鑑別のために専門的な診断を受けることが大切です。症状が急激に変化した場合や、周囲で感染性皮膚疾患が流行している場合にも、早めの受診が推奨されます。
このような症状の急激な変化、二次感染の兆候、通常の治療への反応性、生活への影響度の多角的検討に基づく適切な対応については、ご相談ください。早期の適切な対応により、症状のコントロール、二次感染の予防、生活の質の向上が期待できる場合があります。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
2019年4月 | 赤穂市民病院 |
2021年4月 | 亀田総合病院 |
2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
2023年2月 | いずみホームケアクリニック |