目の周りの皮膚が赤くなったり、カサカサしたりして気になっているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
アトピー性皮膚炎を持つ方の中には、まぶたの症状に悩まされている方が少なくありません。
かゆくてつい目をこすってしまう、化粧がうまくのらないなど、日常生活での困りごとも多いかもしれません。
顔の中でも特に目立つ部位であるため、見た目の問題で気持ちが落ち込むこともあるでしょう。
まぶたはデリケートな部位であり、アトピー性皮膚炎の中でも特に注意が必要な場所とされています。
アトピー性皮膚炎でまぶたに症状が出る原因とは?
アトピー性皮膚炎でまぶたに症状が出やすい原因は、皮膚が非常に薄くバリア機能が弱いこと、外部刺激を受けやすいことなどが挙げられます。
まぶたに症状が出やすい理由
まぶたは、顔の中でもアトピー性皮膚炎の症状が出やすい部位の一つです。成人のアトピー性皮膚炎では、顔面、特に目の周りや口の周りに症状が出やすい傾向があります。
まぶたに症状が出やすい理由には、皮膚の構造的な特徴と、日常生活での刺激の受けやすさが関係しています。
皮膚の薄さとバリア機能
まぶたの皮膚は、身体の中で最も薄い部位の一つであり、その厚さは約0.5mmと言われています。これは、腕や脚の皮膚の約3分の1程度の薄さです。
皮膚が薄いということは、バリア機能も弱いことを意味します。外部からの刺激やアレルゲンが侵入しやすく、水分も蒸発しやすいため、乾燥や炎症が起こりやすい状態にあります。
アトピー性皮膚炎の方は、もともと皮膚のバリア機能が低下しているため、まぶたのような薄い皮膚では、その影響がより顕著に現れます。
外部刺激の影響
まぶたは、様々な外部刺激にさらされやすい部位です。花粉やハウスダスト、ペットの毛などのアレルゲンが目の周りに付着しやすく、これらがアトピー性皮膚炎の症状を悪化させることがあります。
化粧品、洗顔料、クレンジング剤なども、まぶたへの刺激となることがあります。特に、アイメイクを落とす際のこすり動作は、皮膚に負担をかけます。
目薬や点眼薬に含まれる成分が、まぶたにかぶれを起こすこともあります。
目をこする習慣の影響
目がかゆい時や疲れた時に、無意識に目をこすってしまうことがあります。この習慣が、まぶたの皮膚にダメージを与え、症状を悪化させる大きな原因となります。
こする動作により、皮膚のバリア機能がさらに低下し、炎症が悪化します。また、繰り返しこすることで、皮膚が厚くなったり(苔癬化)、色素沈着が起こったりすることもあります。
このように、まぶたに症状が出やすい原因は、皮膚の薄さとバリア機能の弱さ、外部刺激の受けやすさ、こする習慣などが複合的に関与しているとされています。
続いて、まぶたに出るアトピー症状の特徴について見ていきましょう。
まぶたに出るアトピー症状の特徴
まぶたに出るアトピー性皮膚炎の症状は、赤み、乾燥、かゆみが特徴的で、進行すると皮膚のゴワつきや色素沈着が見られることもあります。
赤み、乾燥、かゆみ
まぶたのアトピー性皮膚炎で最も多い症状は、赤み、乾燥、かゆみです。皮膚が赤くなり、カサカサと乾燥して粉を吹いたような状態になることがあります。
かゆみは、軽度のものから、我慢できないほど強いものまで様々です。特に、夜間や入浴後など、身体が温まった時にかゆみが強くなる傾向があります。
乾燥が進むと、皮膚が突っ張る感じや、細かいシワが目立つようになることもあります。
皮膚のゴワつきや色素沈着
症状が長期間続いたり、繰り返しこすったりしていると、皮膚が厚くゴワゴワとした状態(苔癬化)になることがあります。皮膚の表面がザラザラし、キメが粗くなります。
色素沈着も起こりやすく、まぶたが黒ずんで見えることがあります。これは、炎症が繰り返されることでメラニン色素が蓄積するためです。いわゆる「目の周りのくすみ」の原因となることもあります。
逆に、炎症の後に色素が抜けて白っぽくなる(色素脱失)こともあります。
腫れやむくみ
炎症が強い時期には、まぶたが腫れぼったくなることがあります。朝起きた時に特に腫れが目立つという方もいます。
まぶたの腫れは、見た目の問題だけでなく、視界に影響を与えることもあります。重症の場合は、目が開きにくくなることもあります。
他の眼疾患との関連
アトピー性皮膚炎、特にまぶたに症状がある方は、目の病気を合併するリスクが高いことが知られています。
アトピー性角結膜炎は、目の表面(角膜や結膜)に炎症が起こる疾患で、目のかゆみ、充血、目やになどの症状があります。重症化すると視力に影響することもあります。
白内障や網膜剥離も、アトピー性皮膚炎の方に多いことが報告されています。目をこする習慣との関連が指摘されています。
円錐角膜は、角膜が円錐状に変形する疾患で、視力低下の原因となります。これも、繰り返し目をこすることとの関連が疑われています。
このように、まぶたのアトピー症状は赤み、乾燥、かゆみから始まり、進行すると皮膚の変化や他の眼疾患との関連も考慮が必要とされています。
次に、まぶたのアトピー症状を悪化させる原因と注意点について説明いたします。
まぶたのアトピー症状を悪化させる原因と注意点
まぶたのアトピー症状を悪化させる原因として、目をこする行為、化粧品の刺激、アレルゲンの付着などがあり、これらを避けることが重要です。
目をこする・掻く行為
まぶたの症状を悪化させる最大の原因は、目をこすったり掻いたりすることです。かゆみがあるとつい手が行ってしまいますが、この行為は皮膚にダメージを与え、症状を悪化させます。
こすることで、皮膚のバリア機能がさらに低下し、炎症が悪化するという悪循環に陥ります。また、繰り返しこすることで、皮膚が厚くなったり、色素沈着が起こったりします。
さらに、目をこすることは、白内障や網膜剥離などの眼疾患のリスクを高める可能性も指摘されています。
化粧品やクレンジングの刺激
アイシャドウ、アイライナー、マスカラなどのアイメイク製品は、まぶたへの刺激となることがあります。特に、落ちにくいタイプの製品は、クレンジング時にこする必要があり、皮膚への負担が大きくなります。
クレンジング剤自体も、成分によっては刺激となることがあります。オイルタイプやシートタイプのクレンジングは、こすり動作が必要なため、まぶたには負担がかかりやすいとされています。
洗顔料も、洗浄力が強すぎるものは、まぶたの皮脂を奪いすぎて乾燥を悪化させる可能性があります。
花粉やハウスダストの付着
花粉やハウスダスト、ペットの毛などのアレルゲンが目の周りに付着すると、アレルギー反応が起こり、症状が悪化することがあります。
花粉シーズンには、外出時に花粉が目の周りに付着し、帰宅後も残っていることがあります。目がかゆくなり、こすってしまうことで、まぶたの症状も悪化します。
寝具に付着したダニやほこりも、夜間に目の周りに触れることで症状を悪化させる可能性があります。
コンタクトレンズの影響
コンタクトレンズを使用している方は、レンズの装着や取り外しの際にまぶたを触る機会が多くなります。手指の清潔が不十分だと、雑菌やアレルゲンをまぶたに付着させてしまうことがあります。
また、コンタクトレンズ自体やケア用品が、目やまぶたに刺激を与えることもあります。アレルギー性結膜炎を併発している場合、コンタクトレンズの使用が症状を悪化させることがあります。
睡眠不足やストレス
睡眠不足やストレスは、アトピー性皮膚炎全般を悪化させる要因ですが、まぶたの症状にも影響します。疲れている時ほど目をこすりやすく、免疫機能の低下により炎症も起こりやすくなります。
また、睡眠不足自体がまぶたの腫れやくすみの原因となり、アトピー性皮膚炎の症状と相まって見た目の悪化につながることがあります。
このように、目をこする行為、化粧品の刺激、アレルゲンの付着、ストレスなどがまぶたの症状を悪化させる原因となるため、これらを意識して避けることが重要とされています。
続いて、まぶたのアトピー症状への適切なケア方法について見ていきましょう。
まぶたのアトピー症状への適切なケア方法
まぶたのアトピー症状へのケアは、優しい洗顔と保湿を基本とし、こすらない、刺激を避けるという原則を守ることが重要です。
優しい洗顔と保湿
まぶたを洗う際は、低刺激性の洗顔料を使用し、こすらずに優しく洗うことが基本です。泡で包み込むように洗い、すすぎは十分に行います。
熱いお湯は皮膚の乾燥を促進するため、ぬるま湯で洗うことが推奨されます。洗顔後は、清潔なタオルで押さえるように水分を拭き取ります。
洗顔後は速やかに保湿を行います。まぶたは乾燥しやすいため、保湿は特に重要です。
目の周り専用の保湿剤
まぶたには、目の周り専用の低刺激性の保湿剤を使用することが推奨されます。一般的な顔用の保湿剤でも使用できますが、まぶたは皮膚が薄いため、より低刺激なものを選ぶことが大切です。
ワセリンやプロペトは、添加物が少なく、まぶたにも比較的安全に使用できる保湿剤です。ただし、べたつきが気になる場合は、薄く伸ばして使用します。
保湿剤を塗る際も、こすらずに優しく押さえるように塗布することが重要です。
かゆみを和らげる工夫
かゆみを感じた時に掻いてしまわないための工夫も大切です。冷やしたタオルやアイマスクを当てると、かゆみが軽減することがあります。
爪は短く切り、やすりで滑らかにしておくことで、無意識に掻いてしまった時のダメージを軽減できます。
花粉シーズンなど、目がかゆくなりやすい時期は、外出時にメガネを着用して花粉の付着を減らす、帰宅後に顔を洗って花粉を落とすなどの対策が有効です。
メイクをする際の注意点
まぶたに症状がある時でも、メイクをしたいという方は多いでしょう。メイクをする場合は、以下の点に注意することが推奨されます。
低刺激性、無香料、アレルギーテスト済みの製品を選ぶ、新しい製品を使う前にパッチテストを行う、落としやすいタイプの製品を選ぶ、クレンジングは優しく、こすらずに行う、症状が悪化している時はメイクを控えるなどです。
お湯で落とせるタイプのマスカラや、石鹸で落とせるタイプのアイシャドウは、クレンジングの負担を軽減できます。
日常生活での予防策
日常生活での予防策も重要です。寝具を清潔に保ち、ダニやほこりの対策を行う、部屋の湿度を適度に保つ、十分な睡眠を取る、ストレスを溜めないようにするなどが挙げられます。
コンタクトレンズを使用している方は、症状が悪化している時期は眼鏡に切り替えることも検討します。コンタクトレンズを使用する場合は、手指を清潔にしてから装着します。
このように、まぶたのアトピー症状へのケアは、優しい洗顔と保湿を基本とし、こすらない、刺激を避けるという原則を守ることが重要とされています。
次に、まぶたへの外用薬使用の注意点と不安への対応について説明いたします。
まぶたへの外用薬使用の注意点と不安への対応
まぶたへの外用薬使用については、ステロイドへの不安を持つ方も多いですが、適切に使用すれば安全であり、医師の指示に従うことが重要です。
まぶたへのステロイド外用薬
ステロイド外用薬は、アトピー性皮膚炎の炎症を抑える効果的な治療薬です。まぶたにも使用されますが、皮膚が薄いため、通常は弱めのステロイドが選択されます。
まぶたは皮膚が薄いため、ステロイドの吸収率が高く、効果も出やすい反面、副作用のリスクも相対的に高い部位とされています。そのため、顔用や目の周り用として、弱いランクのステロイドが処方されることが一般的です。
医師は、症状の程度と部位を考慮して、適切な強さのステロイドを選択します。処方された薬を、指示された期間、指示された方法で使用することが大切です。
タクロリムス軟膏の活用
タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)は、ステロイドとは異なる作用機序で炎症を抑える外用薬で、顔や首などの皮膚が薄い部位に適しているとされています。
ステロイドで懸念される皮膚萎縮などの副作用が起こりにくいため、まぶたを含む顔面の症状に対して、長期的な使用が可能です。
ただし、使用開始時に灼熱感(ヒリヒリする感じ)を感じることがあります。多くの場合、使用を続けるうちに軽減していきますが、症状が強い場合は医師に相談することが推奨されます。
眼圧への影響について
まぶたへのステロイド外用薬使用について、「緑内障になるのではないか」「眼圧が上がるのではないか」という不安を持つ方がいらっしゃいます。
ステロイドの点眼薬を長期間使用すると、眼圧が上昇するリスクがあることは知られています。しかし、まぶたの皮膚に塗る外用薬の場合、適切な使用量であれば、眼圧への影響は限定的とされています。
ただし、まぶたに塗ったステロイドが目の中に入らないよう注意することは大切です。塗布後は手を洗い、目をこすらないようにします。不安がある場合は、眼科での定期的な検査を受けることも一つの方法です。
自己判断での使用を避ける重要性
まぶたは皮膚が薄くデリケートな部位であるため、外用薬の選択と使用方法には注意が必要です。自己判断で市販のステロイド外用薬をまぶたに使用することは避け、医師の処方を受けることが推奨されます。
「ステロイドは怖いから使いたくない」という理由で外用薬を使用せず、症状を悪化させてしまうケースもあります。適切に使用すれば、ステロイドは安全で効果的な治療薬です。
不安や疑問がある場合は、医師に率直に相談することが大切です。なぜその薬が処方されているのか、どのように使えばよいのか、説明を受けることで、安心して治療を続けることができます。
このように、まぶたへの外用薬使用は適切に行えば安全であり、ステロイドへの過度な不安を持たず、医師の指示に従って使用することが重要とされています。
最後に、まぶたの症状で医療機関を受診すべきタイミングについて説明いたします。
まぶたの症状で医療機関を受診すべきタイミング
まぶたのアトピー症状が長引く場合、目の症状を伴う場合、セルフケアで改善しない場合は、医療機関を受診して適切な診断と治療を受けることが重要です。
症状が長引く・悪化する場合
セルフケアを行っても、まぶたの赤み、乾燥、かゆみが2週間以上改善しない場合、症状が悪化している場合、腫れが強くなっている場合などは、医療機関への相談が推奨されます。
まぶたの症状は、アトピー性皮膚炎以外の原因(接触性皮膚炎、眼瞼炎、感染症など)で起こっている可能性もあります。正確な診断を受けることで、適切な治療を受けることができます。
症状が長期間続くと、色素沈着や皮膚の肥厚など、治りにくい変化が起こることがあります。早めの受診と治療が、このような変化を防ぐことにつながります。
目の症状を伴う場合
まぶたの症状に加えて、目自体の症状がある場合は、早めに受診することが推奨されます。
目のかゆみが強い、充血している、目やにが多い、涙が出やすい、目がゴロゴロする、見えにくいなどの症状がある場合は、眼科的な問題を併発している可能性があります。
アトピー性角結膜炎、白内障、網膜剥離などは、早期発見・早期治療が重要です。目の症状を伴う場合は、皮膚科だけでなく、眼科も受診することが推奨されます。
皮膚科と眼科の連携
まぶたは、皮膚と目の境界に位置する部位であり、皮膚科と眼科の両方が関わる領域です。症状によっては、両方の科で診てもらうことが必要な場合があります。
まぶたの皮膚の症状には皮膚科、目自体の症状には眼科が対応します。両方の症状がある場合は、両科が連携して治療を行うことが理想的です。
どちらを先に受診すればよいか迷う場合は、まず皮膚科を受診し、必要に応じて眼科への紹介を受けるという流れも一つの方法です。
適切な診断と治療の選択肢
皮膚科では、まぶたの症状を診察し、アトピー性皮膚炎か、他の原因(接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎など)かを診断します。必要に応じて、パッチテスト(アレルギー検査)などが行われることもあります。
治療としては、適切な強さのステロイド外用薬、タクロリムス軟膏、保湿剤などが処方されます。かゆみが強い場合は、抗ヒスタミン薬の内服が追加されることもあります。
症状が重症の場合や、従来の治療で改善しない場合は、生物学的製剤やJAK阻害薬などの新しい治療法が選択肢となることもあります。
定期的な受診により、症状の変化を確認し、治療内容を調整していくことも重要です。まぶたの症状は、適切な治療により改善が期待できますので、諦めずに医師と相談しながら治療を続けることが大切です。
このように、まぶたの症状が長引く場合、目の症状を伴う場合は、皮膚科や眼科を受診して適切な診断と治療を受けることが重要とされています。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
| 2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
| 2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
| 2019年4月 | 赤穂市民病院 |
| 2021年4月 | 亀田総合病院 |
| 2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
| 2023年2月 | いずみホームケアクリニック |




