アトピーに水を飲むことは効果がある?水分補給と肌の関係について

アトピー

水をたくさん飲むと肌がきれいになるという話を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

アトピー性皮膚炎を持つ方の中には、水を飲むことで症状が改善するのではないかと期待される方もいるかもしれません。

「1日2リットル飲むと良い」「水分補給で乾燥肌が改善する」など、様々な情報を目にすることもあるでしょう。

アトピー性皮膚炎の改善のために、水を飲む習慣を取り入れようか迷われることもあるかもしれません。

水分補給と肌の関係について正しい知識を持つことは、適切なスキンケアを行う上で重要とされています。

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水を飲むことでアトピー性皮膚炎は改善するの?

水を飲むことだけでアトピー性皮膚炎が改善するという科学的根拠は現時点ではなく、水分補給は健康維持に重要ですが過度な期待は禁物とされています。

「水を飲むと肌が良くなる」という説について

「水をたくさん飲むと肌がきれいになる」「水分補給で乾燥肌が改善する」という説は、美容や健康の分野でよく耳にします。モデルや芸能人が「毎日2リットルの水を飲んでいる」と発言することもあり、広く信じられている面があります。

この説の背景には、「身体の水分が増えれば、肌の水分も増える」という単純な発想があるようです。しかし、人間の身体はそれほど単純ではなく、飲んだ水がそのまま肌の水分になるわけではありません。

科学的根拠の有無

「水を飲むことでアトピー性皮膚炎が改善する」ということを示す、信頼性の高い科学的研究は現時点では存在しません。水分摂取量と皮膚の状態の関係を調べた研究はいくつかありますが、明確な因果関係は証明されていません。

飲んだ水は、消化管で吸収され、血液を通じて全身に運ばれ、腎臓で処理されて尿として排出されます。皮膚への水分供給は、このシステムの一部として行われますが、水を多く飲んだからといって、皮膚の水分量が直接的に増えるわけではないとされています。

水分補給と肌の関係

水分補給が全く肌に関係ないわけではありません。脱水状態になると、血液循環が悪くなり、皮膚への栄養供給も低下する可能性があります。また、重度の脱水では、皮膚の弾力性が低下することが知られています。

しかし、これは「脱水を避けることが重要」ということであり、「水をたくさん飲めば肌が良くなる」ということとは異なります。通常の生活で適切な水分を摂取していれば、それ以上に水を飲んでも、肌への追加的な効果は期待しにくいとされています。

過度な期待への注意

水を飲むことでアトピー性皮膚炎が改善するという過度な期待は、適切な治療から遠ざかる原因となる可能性があります。水分補給だけで症状が改善することを期待して、保湿や外用薬などの標準的な治療をおろそかにしてしまうと、かえって症状が悪化することがあります。

水分補給は健康維持の基本として重要ですが、アトピー性皮膚炎の治療法としては位置づけられていないことを理解することが大切です。

このように、水を飲むことだけでアトピー性皮膚炎が改善する科学的根拠はなく、水分補給は大切ですが過度な期待は避けるべきとされています。

続いて、水分補給が身体と肌に与える影響について見ていきましょう。

水分補給が身体と肌に与える影響

水分補給は身体の機能を維持するために重要であり、脱水は肌にも悪影響を与えますが、水を飲むだけで肌の乾燥が解決するわけではありません。

身体における水分の役割

人間の身体の約60%は水分で構成されており、水は生命維持に不可欠な要素です。水分は、体温調節、栄養素や酸素の運搬、老廃物の排出、関節の潤滑、細胞の機能維持など、様々な役割を担っています。

身体は常に、呼吸、発汗、排尿などにより水分を失っており、これを補うために水分補給が必要です。適切な水分バランスを維持することは、身体全体の健康にとって重要です。

脱水が肌に与える影響

脱水状態になると、身体は重要な臓器への水分供給を優先するため、皮膚への水分供給が後回しになることがあります。その結果、皮膚の弾力性が低下したり、乾燥が進んだりする可能性があります。

重度の脱水では、皮膚をつまんで離しても元に戻りにくくなる(皮膚ツルゴールの低下)という現象が見られます。これは脱水の指標として医療現場でも使用されています。

また、脱水により血液循環が悪くなると、皮膚への栄養供給も低下し、肌の健康に影響を与える可能性があります。

適切な水分補給の重要性

脱水を避けるために、適切な水分補給を行うことは重要です。喉が渇く前に水分を摂取する習慣をつけることで、脱水を予防することができます。

特に、夏場や運動時、発熱時など、水分を失いやすい状況では、意識的に水分補給を行うことが大切です。高齢者は喉の渇きを感じにくくなることがあるため、特に注意が必要です。

適切な水分補給により、身体の機能が正常に保たれ、結果として肌の健康維持にもつながるとされています。

水分補給だけでは不十分な理由

肌の潤いは、単に身体の水分量だけで決まるわけではありません。皮膚の水分は、角質層のバリア機能によって保持されています。アトピー性皮膚炎では、このバリア機能が低下しているため、水分が蒸発しやすい状態にあります。

いくら水を飲んでも、バリア機能が低下したままでは、皮膚からの水分蒸発を防ぐことはできません。肌の乾燥を防ぐためには、外側から保湿剤を塗って水分の蒸発を防ぐことが重要です。

つまり、水分補給は「内側から」のアプローチであり、保湿は「外側から」のアプローチです。両方が必要ですが、アトピー性皮膚炎の乾燥対策としては、保湿の方がより直接的な効果があるとされています。

このように、水分補給は身体の健康維持に重要ですが、肌の乾燥を改善するためには水を飲むだけでは不十分であり、保湿などの外側からのケアが必要とされています。

次に、アトピー性皮膚炎の方が水分補給で気をつけるべきことについて説明いたします。

アトピー性皮膚炎の方が水分補給で気をつけるべきこと

アトピー性皮膚炎の方が水分補給を行う際は、適切な量を守り、カフェインやアルコールの影響にも注意することが重要です。

適切な水分摂取量の目安

一般的に、成人の1日の水分摂取量の目安は、食事からの水分も含めて約2〜2.5リットルとされています。このうち、飲料からの摂取は約1〜1.5リットル程度が目安です。

ただし、適切な水分摂取量は、体格、活動量、気温、湿度、健康状態などによって異なります。「1日2リットル飲まなければならない」という画一的な基準にとらわれる必要はありません。

喉の渇きを感じたら飲む、尿の色が濃くなりすぎないようにするなど、身体の状態に応じた水分補給が推奨されます。

水の温度や種類

水分補給には、基本的に水やお茶などが適しています。常温か、やや冷たい程度の温度が、身体への負担が少ないとされています。

冷たすぎる水は、胃腸に負担をかけることがあります。一方、温かい飲み物は、身体を温めてリラックス効果がある反面、夏場は体温上昇につながることがあります。

水道水、ミネラルウォーター、浄水器の水など、特にどれが優れているという科学的根拠はありません。飲みやすいものを選べばよいでしょう。

カフェインやアルコールの影響

コーヒー、紅茶、緑茶などに含まれるカフェインには、利尿作用があります。カフェインを含む飲料を大量に摂取すると、尿の量が増え、かえって脱水につながる可能性があります。

カフェインを含む飲料は適度に楽しむ分には問題ありませんが、水分補給の主な手段としては、水やカフェインの少ない飲料を選ぶことが推奨されます。

アルコールも利尿作用があり、脱水を引き起こしやすいとされています。また、アルコールは血管を拡張させ、皮膚の温度を上昇させてかゆみを増強させることがあります。アトピー性皮膚炎の方は、アルコールの摂取は控えめにすることが推奨されます。

一度に大量に飲むことの問題

水分補給は、一度に大量に飲むよりも、こまめに少量ずつ飲む方が効果的です。一度に大量の水を飲んでも、身体が吸収できる量には限りがあり、余分な水分は尿として排出されます。

極端な場合、短時間に大量の水を飲むと、血液中のナトリウム濃度が低下し、「水中毒」と呼ばれる危険な状態になることもあります。これは稀なケースですが、注意が必要です。

1回にコップ1杯(200ml程度)の水を、1日を通じてこまめに飲むという習慣が推奨されます。

このように、アトピー性皮膚炎の方が水分補給を行う際は、適切な量をこまめに摂取し、カフェインやアルコールの影響にも注意することが大切とされています。

続いて、水を飲む以外に肌の乾燥を防ぐ方法について見ていきましょう。

水を飲む以外に肌の乾燥を防ぐ方法

アトピー性皮膚炎の肌の乾燥を防ぐためには、水を飲むことよりも保湿剤の使用、入浴方法の工夫、室内環境の調整などの方法が効果的です。

保湿剤によるスキンケア

肌の乾燥を防ぐ最も効果的な方法は、保湿剤を塗ることです。保湿剤は、皮膚の表面に保護膜を作り、水分の蒸発を防ぎ、外部からの刺激を軽減します。

アトピー性皮膚炎の治療ガイドラインでも、保湿剤によるスキンケアは基本的な治療として位置づけられています。水を飲むことは推奨される治療法には含まれていませんが、保湿は明確に推奨されています。

保湿剤は、入浴後5分以内に塗ることで、皮膚の水分を閉じ込める効果が高まります。1日2回以上、こまめに塗り直すことが推奨されます。

入浴方法の工夫

入浴は、やり方によっては肌の乾燥を悪化させることがあります。熱いお湯での長時間の入浴は、皮膚の保湿成分を流出させ、乾燥を促進します。

お湯の温度は38〜40度程度のぬるめに設定し、入浴時間は10〜15分程度にとどめることが推奨されます。ゴシゴシこすって洗うことも避け、優しく洗うことが大切です。

入浴後は、タオルで優しく押さえるように水分を拭き取り、速やかに保湿剤を塗布します。

室内環境の調整

室内の湿度が低いと、皮膚からの水分蒸発が進み、乾燥が悪化します。特に冬場は、暖房により室内が乾燥しやすくなります。

加湿器を使用して、室内の湿度を50〜60%程度に保つことが推奨されます。洗濯物を室内に干す、観葉植物を置くなども、湿度を上げる方法として有効です。

エアコンの風が直接身体に当たらないよう注意することも、皮膚の乾燥を防ぐ上で重要です。

食事からの水分・栄養摂取

水分は、飲料だけでなく、食事からも摂取されます。野菜や果物には水分が豊富に含まれており、食事を通じた水分補給も重要です。

また、皮膚の健康維持には、水分だけでなく、タンパク質、ビタミン、ミネラル、必須脂肪酸などの栄養素も必要です。バランスの取れた食事を心がけることが、肌の健康にも良い影響を与えます。

特定の食品を大量に摂取したり、極端な食事制限をしたりすることは、栄養バランスを崩す原因となるため避けることが推奨されます。

このように、アトピー性皮膚炎の肌の乾燥を防ぐためには、水を飲むことよりも保湿剤の使用、入浴方法の工夫、室内環境の調整などが効果的とされています。

次に、アトピーに効くとされる水に関する情報の注意点について説明いたします。

アトピーに効くとされる水に関する情報の注意点

水素水やアルカリイオン水など、アトピーに効くとされる水に関する情報がありますが、科学的根拠が不十分なものも多く、注意が必要です。

水素水やアルカリイオン水について

「水素水がアトピーに効く」「アルカリイオン水で肌が改善する」といった情報を目にすることがあります。これらの水は、通常の水に比べて特別な効果があると宣伝されることがあります。

水素水については、一部の研究で抗酸化作用が示唆されていますが、アトピー性皮膚炎への効果を明確に示す信頼性の高い研究は限られています。また、水素は非常に小さな分子であり、水に溶けた水素がどの程度身体に吸収され、効果を発揮するかについては議論があります。

アルカリイオン水についても、胃酸で中和されるため、飲んだ後に身体をアルカリ性にする効果があるかは疑問視されています。アトピー性皮膚炎への効果を示す科学的根拠も十分ではありません。

科学的根拠のない情報への注意

インターネット上には、「この水を飲めばアトピーが治る」「特殊な水で肌がきれいになった」といった体験談や宣伝が多数あります。しかし、これらの情報の多くは科学的根拠に基づいていません。

個人の体験談は、その方にとっては事実かもしれませんが、他の人に当てはまるとは限りません。また、アトピー性皮膚炎は症状が自然に良くなったり悪くなったりを繰り返すため、特定の水を飲み始めた時期と症状が改善した時期が偶然重なっただけという可能性もあります。

「医学的に証明されている」「研究で効果が確認されている」といった表現があっても、その研究の信頼性や、他の研究で再現されているかを確認することが重要です。

高額な商品への警戒

アトピー性皮膚炎に効くとされる特殊な水や、水を作る機器の中には、非常に高額なものがあります。効果が科学的に証明されていないにもかかわらず、数万円から数十万円もする製品も存在します。

アトピー性皮膚炎に悩む方やその家族の切実な思いにつけ込んで、高額な商品を販売するケースもあります。購入を検討する際は、科学的根拠を十分に確認し、冷静に判断することが大切です。

不安な場合は、購入前に医師に相談することをお勧めします。

標準治療の重要性

特殊な水に頼ることで、標準的な治療がおろそかになることが最も懸念されます。アトピー性皮膚炎の標準治療は、保湿剤によるスキンケア、ステロイド外用薬などによる炎症のコントロール、悪化因子の除去という、多くの研究と臨床経験に基づいて確立されたものです。

科学的根拠のない方法に時間とお金を費やし、効果が得られないまま症状を悪化させてしまうことは避けるべきです。標準治療を基本としながら、必要に応じて医師と相談して追加的な方法を検討することが推奨されます。

このように、アトピーに効くとされる水に関する情報には科学的根拠が不十分なものも多く、高額な商品や根拠のない情報には注意が必要とされています。

最後に、水分補給で改善しない場合に医療機関を受診すべきタイミングについて説明いたします。

水分補給で改善しない場合に医療機関を受診すべきタイミング

水分補給などのセルフケアでアトピー性皮膚炎の症状が改善しない場合は、適切な医療を受けるために医療機関を受診することが重要です。

セルフケアの限界

水分補給、保湿、生活習慣の改善などのセルフケアは、アトピー性皮膚炎の管理に役立ちますが、それだけでは不十分な場合があります。炎症が強い場合は、外用薬による治療が必要です。

以下のような場合は、セルフケアの限界と考え、医療機関への相談が推奨されます。保湿をしても乾燥やかゆみが改善しない、赤みや炎症が続いている、かゆみで眠れない日が続いている、皮膚の状態が悪化している、日常生活に支障が出ているなどの状況です。

適切な治療の重要性

アトピー性皮膚炎の標準治療は、多くの研究と臨床経験に基づいて効果が確認されています。ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの抗炎症薬は、適切に使用することで、炎症を抑え、かゆみを軽減し、皮膚の状態を改善することができます。

近年は、生物学的製剤やJAK阻害薬など、新しい治療薬も使用できるようになっています。従来の治療で十分な効果が得られない場合でも、これらの新しい治療法で改善が期待できる場合があります。

適切な治療を受けることで、症状をコントロールし、生活の質を維持することができます。

民間療法に頼りすぎるリスク

特殊な水を飲むことをはじめ、科学的根拠のない民間療法に頼りすぎることには、いくつかのリスクがあります。

効果のない方法に時間とお金を費やし、症状が改善しないまま悪化してしまう可能性があります。また、標準治療を受ける機会を逃すことで、症状のコントロールが難しくなることもあります。

標準治療に不安や疑問がある場合は、治療を自己中断するのではなく、医師に相談することが大切です。なぜその治療が必要なのか、他の選択肢はないのかなど、納得がいくまで説明を受けることができます。

医師への相談

アトピー性皮膚炎の治療や日常のケアについて迷うことがあれば、皮膚科医に相談することが推奨されます。水分補給や食事、生活習慣について質問することも可能です。

「水をたくさん飲んだ方がいいですか」「この水は効果がありますか」といった質問も、遠慮なく医師に聞いてみてください。医師は、科学的根拠に基づいた情報を提供し、個々の状況に応じたアドバイスをすることができます。

医師と良好なコミュニケーションを取り、疑問や不安を解消しながら治療を続けることが、アトピー性皮膚炎の長期的な管理には重要です。

このように、水分補給などのセルフケアで症状が改善しない場合は、民間療法に頼りすぎず、医療機関を受診して適切な治療を受けることが重要とされています。


※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。

監修医師

理事長・院長
今村 英利
Imamura Eli

略歴

2014年10月神戸大学博士課程入学
2019年3月博士課程卒業医師免許取得
2019年4月赤穂市民病院
2021年4月亀田総合病院
2022年1月新宿アイランド内科クリニック院長
2023年2月いずみホームケアクリニック