熱があるのに汗が出ないという状態を経験されたことはないでしょうか。
発熱時には汗をかくものだと思われがちですが、実際には汗が出ない時期もあります。
このことが危険なサインなのか、それとも正常な反応なのか、判断に迷うこともあるでしょう。
発熱と汗の関係を理解することで、適切な対処ができるようになります。
発熱で汗が出ない原因と、どのような場合に注意が必要かを知っておくことが大切とされています。
発熱で汗が出ない状態とその原因は?
発熱で汗が出ない主な原因は、体温がまだ上昇している最中であり、これは正常な身体の反応です。
体温上昇期には汗が出ない
発熱の過程において、体温が上昇している段階では汗は出ません。これは身体の正常な反応であり、異常ではありません。
体温調節中枢が「体温を上げよ」という指令を出している間は、身体は熱を逃がさないように働きます。そのため、汗腺からの発汗は抑制されます。
この段階では、むしろ寒気を感じ、震えることで筋肉を動かして熱を産生します。汗が出ないことで、産生された熱が体外に逃げるのを防いでいます。
熱が上がっている最中の身体の状態
体温が上昇している最中の身体は、様々な変化が起こっています。
血管が収縮し、皮膚表面からの放熱を抑えます。このため、手足が冷たく感じることがあります。筋肉が震えることで、熱を産生します。これが悪寒や震えとして感じられます。
心拍数が増加し、代謝が上がります。呼吸も速くなることがあります。これらはすべて、体温を目標値(設定温度)まで上げるための身体の反応です。
悪寒や震えとの関係
発熱で汗が出ない時期には、多くの場合、悪寒や震えを伴います。これは、体温を上げるための身体の反応です。
悪寒は、実際には寒くなくても「寒い」と感じる症状です。これは、脳の体温調節中枢が「現在の体温は低すぎる」と判断し、体温を上げようとしているためです。
震え(シバリング)は、筋肉を細かく収縮させることで熱を産生する反応です。震えることで、代謝が上がり、体温が上昇します。
この悪寒や震えが続いている間は、汗は出ません。体温が目標値に達すると、悪寒や震えは止まり、その後、熱が下がる段階になると汗が出始めます。
正常な発熱の経過
正常な発熱の経過では、汗が出ない時期があることは自然なことです。
発熱の初期段階では、体温が上昇しているため汗は出ません。体温が目標値に達してしばらく高い状態が続く時期(極期)にも、多くの汗は出ないことが一般的です。
そして、体温調節中枢が「体温を下げよ」という指令を出すと、発汗が始まります。これが解熱期で、この時に大量の汗をかくことがあります。
つまり、「発熱=汗をかく」というわけではなく、発熱の段階によって汗の出方が異なるのです。
このように、発熱で汗が出ない主な原因は体温が上昇している最中であり、悪寒や震えを伴うことが多く、これは正常な身体の反応とされています。
続いて、発熱の過程における汗の役割について見ていきましょう。
発熱の過程における汗の役割
発熱の過程は体温上昇期・極期・下降期の3段階に分かれ、汗は主に体温を下げる下降期に重要な役割を果たします。
体温調節のメカニズム
人間の身体は、脳の視床下部にある体温調節中枢によって、体温が一定に保たれています。通常、体温は約37度前後に維持されています。
ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入すると、免疫システムがサイトカインという物質を産生します。このサイトカインが体温調節中枢に作用し、体温の設定温度を上げます。
例えば、通常37度に設定されていた体温が、39度に設定し直されると、身体は現在の37度を「低すぎる」と判断し、体温を上げようと働きます。
発熱の3つの段階
発熱の過程は、大きく3つの段階に分けられます。
**上昇期(体温上昇期)**は、体温調節中枢の設定温度が上がり、身体が体温を上昇させている段階です。悪寒や震えが起こり、血管が収縮し、汗は出ません。この段階では、寒いと感じ、身体が震えます。
**極期(高熱持続期)**は、体温が目標値に達し、高い状態で維持されている段階です。悪寒や震えは止まり、身体が熱く感じます。この段階でも、まだ多くの汗は出ないことが一般的です。
**下降期(解熱期)**は、体温調節中枢の設定温度が元に戻り、身体が体温を下げようとする段階です。血管が拡張し、大量の汗をかくことで熱を放散します。この段階で、汗が大量に出ます。
各段階での汗の出方
各段階での汗の出方を詳しく見ていきます。
上昇期では、汗はほとんど出ません。身体は熱を逃がさないように働いているため、発汗は抑制されます。手足が冷たく、乾燥した状態です。
極期では、少量の汗は出ることもありますが、大量の発汗はありません。体温が高い状態で維持されているため、やや汗ばむ程度です。
下降期では、大量の汗が出ます。これは体温を下げるための重要な機構で、汗が蒸発する際に気化熱として熱を奪い、体温を下げます。全身がびっしょりと濡れるほどの発汗が見られることもあります。
汗が出始めるタイミング
汗が出始めるタイミングは、体温が下がり始める時です。
悪寒や震えが止まり、「暑い」と感じ始めたら、まもなく汗が出始める兆候です。顔が紅潮し、手足が温かくなってきます。
汗が出始めたということは、発熱が解熱期に入ったサインであり、回復に向かっていることを示しています。ただし、汗が出たからといって完全に治ったわけではなく、経過観察は継続する必要があります。
このように、発熱の過程は3段階に分かれ、汗は主に体温を下げる下降期に重要な役割を果たし、上昇期には汗が出ないのが正常とされています。
次に、汗が出ないことが危険なサインとなる場合について説明いたします。
汗が出ないことが危険なサイン
発熱で汗が出ないことが危険なサインとなるのは、熱中症、重度の脱水、発汗機能の障害などの場合です。
熱中症の可能性
熱中症では、体温が40度以上に上昇しているにもかかわらず、汗が出なくなることがあります。これは非常に危険な状態です。
熱中症の重症例(熱射病)では、発汗機能が破綻し、汗が出なくなります。皮膚が乾燥して熱く、顔が赤くなります。意識障害、けいれん、呼吸困難などを伴うこともあります。
夏場の高温環境下や、室内でも換気が悪く気温が高い場所で、40度近い高熱があるのに汗が全く出ない場合は、熱中症を疑う必要があります。
熱中症が疑われる場合は、速やかに涼しい場所に移動し、身体を冷却しながら、救急車を呼ぶことが推奨されます。
脱水の進行
重度の脱水では、汗をかくための水分が不足し、汗が出なくなることがあります。
発熱により水分が失われているにもかかわらず、十分な水分補給ができていない場合、脱水が進行します。脱水が進むと、身体は限られた水分を維持しようとして、汗を出さなくなります。
脱水の兆候としては、口の渇き、尿の量が少ない、尿の色が濃い、皮膚の弾力性が低下する、目が落ち窪む、意識がもうろうとするなどがあります。
発熱があるのに汗が出ず、これらの脱水症状がある場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。点滴による水分補給が必要になることがあります。
高齢者や乳幼児の注意点
高齢者と乳幼児は、特に注意が必要です。
高齢者は、加齢により発汗機能が低下していることがあります。また、のどの渇きを感じにくくなっているため、水分不足になりやすいとされています。発熱時に汗が出ず、脱水が進行しやすいため、積極的な水分補給が必要です。
乳幼児も、体温調節機能が未熟で、発汗機能が十分に発達していません。体重に対する体表面積が大きいため、熱が失われやすい一方で、脱水にもなりやすいとされています。
高齢者や乳幼児が発熱し、汗が出ない、尿が出ない、ぐったりしているなどの症状がある場合は、早めの受診が推奨されます。
発汗機能の障害
一部の疾患や薬剤により、発汗機能が障害されることがあります。
無汗症や乏汗症といった疾患では、生まれつきまたは後天的に汗腺の機能が低下しています。このような方が発熱した場合、汗による体温調節ができないため、熱中症のリスクが高まります。
抗コリン薬などの一部の薬剤は、発汗を抑制する副作用があります。これらの薬を服用している方が発熱した場合、汗が出にくくなることがあります。
慢性的に汗が出にくい方は、発熱時に特に注意が必要で、医師に相談することが推奨されます。
重症感染症のサイン
一部の重症感染症では、循環不全により皮膚への血流が低下し、汗が出なくなることがあります。
敗血症(細菌が血液中に入り込んで全身に広がった状態)では、高熱があるにもかかわらず、手足が冷たく、汗が出ないことがあります。血圧が低下し、意識障害を伴うこともあります。
このような場合は、非常に危険な状態であり、緊急の治療が必要です。
このように、汗が出ないことが危険なサインとなるのは、熱中症、重度の脱水、高齢者や乳幼児、発汗機能の障害、重症感染症などの場合とされています。
続いて、発熱で汗が出ない時の対処法について見ていきましょう。
発熱で汗が出ない時の対処法
発熱で汗が出ない時の対処法としては、無理に汗をかかせず、適切な水分補給と体温管理を行うことが重要です。
無理に汗をかかせない
昔は「厚着をして汗をかかせると良い」と言われることがありましたが、現在では推奨されません。
体温が上昇している最中に厚着をすると、熱がこもってさらに体温が上昇してしまう危険があります。また、無理に汗をかかせることで、脱水が進行するリスクもあります。
汗は、身体が「体温を下げよう」と判断した時に自然に出るものです。無理に汗をかかせようとする必要はありません。
身体が寒いと感じている時(体温上昇期)は、無理に冷やさず、適度に温かくして、震えが止まるまで待つことが推奨されます。震えが止まり、暑いと感じるようになったら、薄着にして自然に汗が出るのを待ちます。
適切な水分補給
発熱時には、汗が出ていなくても、呼吸や皮膚から水分が失われています。こまめな水分補給が重要です。
水、麦茶、経口補水液、スポーツドリンクなど、飲みやすいものを少量ずつ頻繁に摂取します。1時間にコップ1杯(200ml)程度を目安にします。
汗が出始めてからは、さらに多くの水分が失われるため、より積極的な水分補給が必要です。経口補水液は、水分と電解質をバランス良く補給できるため、発熱時に適しています。
水分が取れない、嘔吐が続くなどの場合は、医療機関を受診して点滴を受ける必要があります。
体温管理の方法
体温を定期的に測定し、経過を記録することが推奨されます。朝、昼、夕、就寝前など、1日4回程度測定します。
体温の推移を見ることで、上昇期か極期か下降期かを判断できます。汗が出始めたタイミングも記録しておくと、医療機関を受診する際に役立ちます。
室温は20〜22度程度に保ち、湿度は40〜60%程度が適切です。換気も適度に行います。
解熱剤の使用タイミング
解熱剤を使用するタイミングは、体温の高さだけでなく、全身状態を考慮して判断します。
一般的には、38.5度以上の発熱があり、症状が辛い場合に使用が検討されます。汗が出ていないからといって、必ずしも解熱剤が必要というわけではありません。
解熱剤を使用すると、体温が下がり始め、汗が出やすくなります。ただし、解熱剤は一時的に熱を下げるだけで、病気を治すものではありません。
解熱剤を使用した後は、水分補給をより積極的に行い、汗で濡れた衣服をこまめに着替えることが大切です。
衣服や室温の調整
身体が寒いと感じている時(悪寒がある時)は、適度に温かくします。ただし、厚着をしすぎないよう注意します。布団を1〜2枚かける程度で十分です。
悪寒が止まり、暑いと感じるようになったら、薄着にします。通気性の良い衣服を選び、汗をかき始めたらこまめに着替えます。
汗で濡れた衣服をそのまま着ていると、身体が冷えて不快感が増します。また、風邪をひく原因にもなるため、乾いた衣服に着替えることが重要です。
このように、発熱で汗が出ない時は、無理に汗をかかせず、適切な水分補給と体温管理、必要に応じた解熱剤の使用、衣服や室温の調整を行うことが重要とされています。
次に、汗が出始めた後の注意点について説明いたします。
汗が出始めた後の注意点
汗が出始めた後も、水分補給の継続、衣服の交換、体温の記録など、適切なケアを続けることが重要です。
水分補給の継続
汗が出始めたということは、体温が下がり始めているサインですが、同時に多くの水分が失われています。汗が出始めてからも、積極的な水分補給を続けることが重要です。
大量に汗をかいている時は、1時間にコップ1〜2杯(200〜400ml)程度の水分を摂取することが推奨されます。汗と共に電解質も失われるため、経口補水液やスポーツドリンクが適しています。
水分補給が不十分だと、脱水が進行し、めまいや立ちくらみ、意識障害などを起こす可能性があります。
衣服の交換
汗で濡れた衣服は、こまめに着替えることが大切です。濡れた衣服をそのまま着ていると、身体が冷えて不快感が増します。
寝具(シーツや枕カバー)も汗で濡れている場合は、可能であれば交換します。快適な環境を保つことで、休養の質が向上します。
着替えの際は、通気性の良い、吸湿性に優れた衣服(綿などの天然素材)を選ぶことが推奨されます。
体温の記録
汗が出始めてからも、体温の測定を続けます。体温が順調に下がっているかを確認します。
通常、汗をかき始めてから数時間で、体温は平熱近くまで下がります。ただし、完全に平熱に戻るまでには、数日かかることもあります。
体温が一度下がった後、再び上昇する場合は、細菌感染の合併や別の感染症の可能性があります。再発熱があった場合は、医療機関への受診が推奨されます。
脱水予防
大量に汗をかいた後は、脱水のリスクが高まります。以下のような症状がないか確認します。
口の渇きが強い、尿の量が少ない、尿の色が濃い、めまいや立ちくらみがする、頭痛がする、皮膚の弾力性が低下しているなどです。
これらの症状がある場合は、脱水が進行している可能性があります。水分補給を強化し、改善しない場合は医療機関を受診する必要があります。
再発熱への警戒
汗をかいて解熱した後も、数日間は再発熱の可能性があります。体温を定期的に測定し、再び上昇しないか確認します。
再発熱があった場合、特に一度下がった後に再び39度以上の高熱が出た場合は、細菌感染の合併や、より重篤な疾患の可能性があります。
このような場合は、医療機関を受診して、原因を調べることが必要です。抗生物質などの追加治療が必要になることがあります。
このように、汗が出始めた後も水分補給の継続、衣服の交換、体温の記録、脱水予防、再発熱への警戒など、適切なケアを続けることが重要とされています。
最後に、汗が出ない発熱で医療機関を受診すべき場合について説明いたします。
汗が出ない発熱で医療機関を受診すべき場合
汗が出ない発熱で医療機関を受診すべきなのは、高熱が続く、意識障害がある、脱水症状がある、熱中症が疑われる場合などです。
高熱が続く場合
38度以上の発熱が3日以上続いているのに汗が出ない場合は、医療機関への受診が推奨されます。通常、発熱から2〜3日で解熱期に入り、汗をかき始めることが多いためです。
長期間高熱が続き、汗が出ない状態が続く場合は、重篤な感染症や、体温調節機能の異常などの可能性があります。
特に、39度以上の高熱が続いている場合は、早めの受診が必要です。インフルエンザ、肺炎、尿路感染症などの診断と治療が必要になることがあります。
意識障害がある場合
発熱があり汗が出ない状態で、意識がもうろうとしている、呼びかけに反応が鈍い、意味不明なことを言うなどの意識障害がある場合は、非常に危険な状態です。
髄膜炎、脳炎、敗血症、重度の脱水、熱中症などの可能性があり、緊急の治療が必要です。速やかに救急車を呼ぶことが推奨されます。
小児では、インフルエンザ脳症の可能性もあります。異常行動(急に走り出す、飛び降りようとするなど)が見られた場合も、速やかな受診が必要です。
脱水症状がある場合
発熱があり汗が出ない状態で、以下のような脱水症状がある場合は、医療機関への受診が必要です。
尿が半日以上出ない、口の中がカラカラに乾いている、皮膚をつまんで離しても元に戻らない、目が落ち窪んでいる、めまいや立ちくらみが強い、意識がもうろうとするなどです。
重度の脱水では、点滴による水分補給が必要になります。水分が全く取れない、嘔吐が続くなどの場合も、早めの受診が推奨されます。
熱中症が疑われる場合
夏場の高温環境下や、室内でも気温が高い場所で、40度近い高熱があるのに汗が全く出ず、皮膚が乾燥して熱い場合は、熱中症を疑う必要があります。
意識障害、けいれん、呼吸困難などを伴う場合は、重症の熱中症(熱射病)の可能性があり、命に関わる状態です。
熱中症が疑われる場合は、すぐに涼しい場所に移動し、身体を冷却しながら、救急車を呼ぶことが推奨されます。首、脇の下、鼠径部などを冷やし、可能であれば水分補給を試みます。
慢性的に汗が出にくい場合
無汗症や乏汗症などで慢性的に汗が出にくい方が発熱した場合は、熱中症のリスクが高いため、早めに医療機関に相談することが推奨されます。
抗コリン薬などの発汗を抑制する薬を服用している方も、発熱時には注意が必要です。薬の調整が必要かどうか、医師に相談することが大切です。
高齢者や乳幼児など、体温調節機能が十分でない方も、発熱時に汗が出ない場合は、早めの受診が推奨されます。
このように、汗が出ない発熱で医療機関を受診すべきなのは、高熱が続く、意識障害がある、脱水症状がある、熱中症が疑われる、慢性的に汗が出にくい場合などとされています。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
| 2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
| 2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
| 2019年4月 | 赤穂市民病院 |
| 2021年4月 | 亀田総合病院 |
| 2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
| 2023年2月 | いずみホームケアクリニック |




