アトピーは遺伝する?子が発症する確率と影響を防ぐためのポイント

アトピー

アトピー性皮膚炎について「親がアトピーだと子どもにも遺伝する?」「どのくらいの確率で発症するの?」といった不安をお持ちの方は多いのではないでしょうか。

アトピーと遺伝の関係については多くの研究が行われており、家族歴が発症リスクに影響することが知られています。

アトピーの発症には遺伝的素因が関与する一方で、環境要因や生活習慣なども大きく影響するとされています。

遺伝的素因を持っていても必ずしも発症するわけではなく、適切な予防対策により発症リスクを軽減できる可能性があります。

ただし、発症の予測や予防効果には個人差があるため、具体的な対応については専門的な判断が重要とされています。

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アトピーは遺伝するのか?遺伝する確率と家族歴の影響

アトピー性皮膚炎は遺伝的素因が関与する疾患であり、両親がアトピーの場合は約50〜70%、片親の場合は約20〜40%の確率で子どもに発症する可能性があるとされていますが、遺伝だけで発症が決まるわけではありません。

アトピーと遺伝の関係性について、アトピー性皮膚炎は遺伝的素因と環境要因が複合的に関与して発症する多因子疾患と考えられています。家族内での発症が多く見られることから、遺伝的要因が重要な役割を果たすことが明らかになっています。ただし、特定の遺伝子一つで発症が決まる単一遺伝病ではなく、複数の遺伝子と環境要因の相互作用により発症するとされています。

両親がアトピーの場合の発症確率では、両親ともにアトピー性皮膚炎の病歴がある場合、子どもがアトピーを発症する確率は約50〜70%と報告されています。ただし、この確率はあくまで統計的なデータであり、個々のケースでは発症しない場合も多く存在します。また、両親が重症のアトピーであっても、子どもが軽症で済む場合や、全く発症しない場合もあるとされています。

片親がアトピーの場合の影響では、父親または母親のいずれか一方がアトピー性皮膚炎の病歴を持つ場合、子どもの発症確率は約20〜40%程度とされています。両親ともにアトピーの場合と比較すると発症確率は低下しますが、一般人口における発症率(約10〜20%)よりは高い傾向があります。また、母親がアトピーの場合の方が、父親がアトピーの場合よりもやや発症リスクが高いという報告もありますが、これについては研究によって結果が異なる場合があります。

兄弟姉妹での発症パターンでは、一卵性双生児の場合、一人がアトピーを発症すると、もう一人も発症する確率は約70〜80%と非常に高いとされています。一方、二卵性双生児では約20〜30%程度とされており、遺伝的な類似性が高いほど発症の一致率が高くなる傾向があります。ただし、一卵性双生児でも必ずしも両方が発症するわけではないことから、遺伝以外の要因も発症に大きく関与していることが示されています。

このように、家族歴によって発症確率は変動し、両親がアトピーの場合で約50〜70%、片親の場合で約20〜40%とされていますが、遺伝的素因を持っていても環境要因により発症しない場合も多く存在します。

続いて、アトピーが遺伝するメカニズムについて詳しく見ていきましょう。

アトピーが遺伝するメカニズムと関連遺伝子

アトピー性皮膚炎の遺伝的メカニズムは、皮膚バリア機能に関わる遺伝子、免疫系の調節に関わる遺伝子など複数の遺伝子が関与し、これらが環境要因と相互作用することで発症に至るとされています。

遺伝子による体質の受け継ぎについて、親から子へ受け継がれる遺伝情報の中には、皮膚の構造や機能、免疫システムの働き方などに関する情報が含まれています。アトピー性皮膚炎では、これらの遺伝情報に特定の変異やバリエーションがあることで、皮膚が乾燥しやすい体質や、アレルギー反応を起こしやすい体質が形成される可能性があります。ただし、遺伝情報そのものではなく、その遺伝情報が実際に機能として現れるかどうかは環境要因にも大きく左右されるとされています。

フィラグリン遺伝子と皮膚バリア機能では、フィラグリンという皮膚の保湿や角層の形成に重要なタンパク質をコードする遺伝子の変異が、アトピー性皮膚炎の発症に関連することが明らかになっています。フィラグリン遺伝子に変異があると、皮膚のバリア機能が低下し、外部からのアレルゲンや刺激物質が侵入しやすくなり、炎症やかゆみを引き起こしやすくなる可能性があります。ただし、フィラグリン遺伝子の変異を持つ人すべてがアトピーを発症するわけではなく、変異がない人でもアトピーを発症する場合があるとされています。

免疫系の遺伝的要因では、免疫応答を調節するサイトカインに関連する遺伝子や、IgE抗体の産生に関わる遺伝子などの変異も、アトピー性皮膚炎の発症に関与するとされています。特にTh2型免疫応答が優位になりやすい遺伝的背景を持つ人は、アレルギー反応を起こしやすく、アトピー性皮膚炎だけでなく、喘息やアレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を併発するリスクも高いとされています。これらの遺伝的素因により、免疫バランスが崩れやすい体質が形成される可能性があります。

遺伝的素因と体質では、アトピー性皮膚炎に関連する遺伝子は一つではなく、現在までに100以上の関連遺伝子が報告されています。これらの遺伝子のさまざまな組み合わせによって、個人の発症リスクや症状の重症度、治療への反応性などが決まると考えられています。また、遺伝的素因は「アトピー体質」として受け継がれることが多く、アトピー性皮膚炎だけでなく、喘息、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーなどのアレルギー疾患全般に対する感受性が高まる可能性があるとされています。

このように、皮膚バリア機能に関わる遺伝子や免疫調節遺伝子など複数の遺伝的要因が関与しており、これらが環境と相互作用することで発症リスクが形成されます。

次に、遺伝以外の発症要因について説明いたします。

アトピー発症に関わる遺伝以外の要因

アトピー性皮膚炎の発症には、遺伝的素因だけでなく、生活環境、アレルゲンへの曝露、ストレス、腸内環境など多様な環境要因が大きく影響し、これらが複合的に作用することで発症リスクが変動するとされています。

環境要因の影響について、住環境の清潔度、大気汚染、気候条件などがアトピー性皮膚炎の発症に関与することが知られています。都市部での発症率が高い傾向があり、これは大気汚染物質や化学物質への曝露が多いことが一因と考えられています。また、過度に清潔な環境で育つことで免疫システムが適切に発達せず、アレルギー疾患を発症しやすくなるという「衛生仮説」も提唱されています。一方で、ダニやカビなどのアレルゲンが多い不衛生な環境も発症リスクを高めるとされており、適度な清潔さのバランスが重要です。

生活習慣やストレスの関与では、睡眠不足、不規則な生活、過度なストレスなどが免疫バランスを乱し、アトピー性皮膚炎の発症や悪化につながる可能性があります。特に乳幼児期の生活リズムや、親のストレスが子どもの発症に影響することも指摘されています。また、過度な入浴や石鹸の使い過ぎなど、誤ったスキンケア習慣が皮膚バリア機能を低下させ、発症リスクを高める場合もあるとされています。

アレルゲンとの接触では、食物アレルゲン(卵、牛乳、小麦など)、吸入アレルゲン(ダニ、花粉、ペットの毛など)、接触アレルゲン(金属、化学物質など)への曝露が発症の引き金となる場合があります。特に乳幼児期の食物アレルギーとアトピー性皮膚炎は密接に関連しており、適切な離乳食の進め方が重要とされています。ただし、過度なアレルゲン除去は必ずしも予防につながらないという研究結果もあり、適切なアレルゲン管理についてはご相談ください。

腸内環境や食生活では、腸内細菌叢のバランスが免疫システムの発達に重要な役割を果たすことが明らかになっています。妊娠中や授乳期の母親の食事、帝王切開での出産、抗生物質の使用などが腸内細菌叢に影響を与え、結果的にアトピー性皮膚炎の発症リスクに関与する可能性があります。母乳育児はアトピー予防に効果的という報告がある一方、母親の食事内容や子どもの体質によっては効果が異なる場合もあるとされています。

このように、生活環境、アレルゲン曝露、ストレス、腸内環境など多様な環境要因が発症に影響し、遺伝的素因を持っていても適切な環境管理により発症を予防できる可能性があります。

続いて、遺伝的素因がある場合の具体的な予防対策について見ていきましょう。

遺伝的素因がある場合の予防と対策

家族にアトピー性皮膚炎の病歴がある場合、妊娠期からのケア、生後早期からの適切なスキンケア、環境整備、早期発見と早期対応が発症リスク軽減の重要なアプローチとされています。

妊娠中・授乳期のケアについて、妊娠中の母親の食事制限がアトピー予防に効果的かどうかは研究によって結果が分かれていますが、過度なアレルゲン除去は栄養バランスを崩す可能性があるため推奨されていません。バランスの取れた食事と適度な運動、ストレス管理が重要とされています。授乳期では、母乳育児が推奨される一方、母親が摂取した食物が母乳を通じて乳児に影響を与える場合もあるため、乳児の症状を観察しながら対応することが大切です。プロバイオティクスの摂取がアトピー予防に効果的という報告もありますが、効果については個人差があるとされています。

乳幼児期のスキンケアでは、生後早期からの保湿ケアがアトピー性皮膚炎の発症予防に効果的という研究結果が報告されています。入浴後や乾燥が気になる時には、低刺激性の保湿剤を全身に塗布し、皮膚のバリア機能を保つことが推奨されます。ただし、製品によっては皮膚に合わない場合もあるため、異常が現れた場合には使用を中止しご相談ください。また、入浴時には石鹸の使い過ぎを避け、ぬるめのお湯で優しく洗うことが大切です。爪は短く切り、掻きむしりによる皮膚の損傷を防ぐことも重要とされています。

環境整備のポイントでは、室内の温度と湿度を適切に保ち(温度20〜25度、湿度40〜60%程度)、皮膚の乾燥を防ぐことが効果的です。ダニやカビの繁殖を防ぐため、寝具の定期的な洗濯や掃除、換気を心がけることが推奨されます。ただし、過度な殺菌・消毒は免疫システムの発達を妨げる可能性もあるため、適度な清潔さを保つことが大切です。衣類は刺激の少ない綿素材を選び、洗濯時には洗剤の残留を避けるため十分にすすぐことが重要とされています。

早期発見と早期対応の重要性では、家族にアトピーの病歴がある場合、乳児期から皮膚の状態を注意深く観察し、乾燥や湿疹の兆候が現れた際には早期に対応することが症状の悪化を防ぐために重要です。軽度の皮膚症状でも放置すると悪化する可能性があるため、気になる症状が現れた場合には早めにご相談いただくことが推奨されます。適切な治療とスキンケアにより、症状のコントロールが可能な場合が多いとされています。

このような妊娠期からのケア、生後早期からのスキンケア、環境整備、早期対応による予防対策の具体的な方法については、個人の状況に応じてご相談ください。

最後に、医療機関を受診すべきタイミングについて説明いたします。

アトピーの症状で医療機関を受診すべきタイミング

医療機関での相談が必要なアトピー性皮膚炎の症状かどうかは、症状の重症度、かゆみの程度、生活への影響度、二次感染の有無を多角的に検討して判断することが大切とされています。

早急な受診を検討すべき症状として、広範囲にわたる湿疹や強い炎症、掻きむしりによる出血や浸出液を伴う皮膚症状、全身に広がる発疹がある場合があります。また、かゆみのために睡眠が著しく妨げられている、発熱を伴う皮膚症状、皮膚が化膿して黄色いかさぶたができている(二次感染の疑い)場合には早急な対応が必要とされています。乳児期に重度の湿疹が現れた場合や、食物アレルギーを伴う症状がある場合も、専門的な評価と治療が重要です。

継続的な観察が必要なケースでは、市販の保湿剤やスキンケアを行っても皮膚の乾燥や湿疹が改善しない場合や、症状が徐々に悪化している場合があります。かゆみのために日常生活や学習に支障をきたしている、夜間のかゆみで睡眠不足が続いている、皮膚症状が顔や関節部位など目立つ場所に現れている場合には、生活の質への影響が大きいため相談が推奨されます。また、家族にアトピーの病歴があり、乳児に皮膚の乾燥や軽度の湿疹が見られる場合には、早期からの予防的なケアについてご相談いただくことが効果的です。

特に注意が必要な方として、乳児では皮膚バリア機能が未熟なため、早期からの適切なスキンケアと症状管理が将来のアレルギー疾患予防につながる可能性があります。家族にアトピー性皮膚炎や喘息、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患の病歴がある場合には、子どもの皮膚状態を注意深く観察し、予防的なケアについて相談することが推奨されます。また、食物アレルギーを併発している場合や、他のアレルギー疾患を持っている場合には、総合的なアレルギー管理が必要となるため、専門的な評価が重要です。

このような症状の重症度、かゆみの程度、生活への影響度、二次感染の有無の多角的検討に基づく適切な対応については、ご相談ください。早期の適切な対応により、症状のコントロール、生活の質の向上、将来的なアレルギー疾患の予防が期待できる場合があります。


※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。

監修医師

理事長・院長
今村 英利
Imamura Eli

略歴

2014年10月神戸大学博士課程入学
2019年3月博士課程卒業医師免許取得
2019年4月赤穂市民病院
2021年4月亀田総合病院
2022年1月新宿アイランド内科クリニック院長
2023年2月いずみホームケアクリニック