「アトピーでかゆいだけでなく痛い」「皮膚がヒリヒリして痛くてつらい」といった経験をされた方は少なくありません。
かゆみが主症状と思われがちですが、実際には痛みを伴うケースも多くあります。
アトピーによる痛いという症状には複数の原因があり、適切な対処法も異なります。
痛みの程度や種類には個人差があり、日常生活に大きな影響を与える場合もあります。
症状の評価や適切な治療については、専門的な判断が重要とされています。
アトピーで痛い症状が起こる原因とメカニズム
アトピー性皮膚炎で痛みが生じる主な原因は、掻き壊しによる皮膚損傷、炎症反応、乾燥やひび割れ、二次感染などが挙げられます。
掻き壊しによる皮膚損傷について、強いかゆみのために掻いてしまうと、皮膚表面が傷つき痛みが生じます。特に爪で掻くことで皮膚に傷ができ、出血や浸出液を伴うようになると、ヒリヒリとした痛みやズキズキとした痛みが現れます。掻き壊しを繰り返すと、皮膚のバリア機能がさらに低下し、外部刺激に対して敏感になるため、衣類が触れるだけでも痛みを感じることがあります。また、傷口から細菌が侵入すると感染を起こし、より強い痛みにつながる可能性があるとされています。
炎症反応による痛みでは、アトピー性皮膚炎の炎症自体が痛みを引き起こす場合があります。炎症により皮膚組織が腫れ、神経が圧迫されることで痛みが生じます。また、炎症性サイトカインなどの化学物質が痛覚神経を刺激し、痛みの感受性を高めることが知られています。急性期の強い炎症では、赤みや腫れと共に強い痛みを伴うことがあり、特に皮膚が薄い部位(顔、首、関節部位など)では痛みを感じやすいとされています。
乾燥やひび割れによる痛みについて、アトピー性皮膚炎では皮膚のバリア機能が低下し、極度に乾燥した状態になります。乾燥が進むと皮膚の柔軟性が失われ、ひび割れ(亀裂)が生じることがあります。特に手指、かかと、関節部位などの動きが多い部位では、皮膚が引っ張られることでひび割れが深くなり、強い痛みを引き起こします。ひび割れから出血することもあり、水や石鹸などが触れると激しい痛みを感じることがあるとされています。
二次感染による痛みでは、掻き壊しや皮膚バリア機能の低下により、細菌やウイルスが侵入し二次感染を起こすことがあります。黄色ブドウ球菌による細菌感染(伝染性膿痂疹、通称とびひ)では、水疱や膿疱ができ、強い痛みを伴います。ヘルペスウイルス感染(カポジ水痘様発疹症)では、広範囲に水疱が多発し、激しい痛みと発熱を伴うことがあります。二次感染を起こすと、通常のアトピー性皮膚炎の症状とは異なる強い痛みが特徴的です。
このように、掻き壊しによる傷、炎症反応、乾燥とひび割れ、二次感染といった複数の要因が重なり合って痛みが発生し、これらの原因を特定することが適切な対処への第一歩となります。
続いて、アトピーの痛みにはどのような種類があるか見ていきましょう。
アトピーの痛みの種類と特徴
アトピー性皮膚炎の痛みには、ヒリヒリ感、ズキズキ感、チクチク感など複数のタイプがあり、それぞれ原因や対処法が異なります。
ヒリヒリとした痛みについて、最も一般的な痛みのタイプで、皮膚表面がヒリヒリと焼けるような感覚です。この痛みは、皮膚バリア機能の低下により神経終末が露出し、外部刺激に対して過敏になっている状態で生じます。入浴時、汗をかいた時、化粧水や外用薬を塗布した時などに特に強く感じることが多いとされています。軽度の掻き傷や炎症がある部位に典型的に現れ、持続的な不快感として感じられます。この痛みは、適切な保湿と炎症のコントロールにより改善することが多いとされています。
ズキズキとした痛みでは、脈打つようなズキズキとした痛みは、炎症が強い場合や感染を起こしている場合に現れやすい症状です。この痛みは、血管の拡張や組織の腫れにより神経が圧迫されることで生じます。夜間に痛みが強くなる傾向があり、睡眠を妨げることもあります。特に、掻き壊した部位が化膿している場合や、広範囲に炎症が広がっている場合に顕著です。このタイプの痛みは、炎症や感染の治療が必要なサインであることが多いとされています。
チクチクとした刺激痛について、針で刺されるようなチクチクとした痛みは、皮膚の表層が損傷している場合や、神経が過敏になっている状態で感じられます。衣類の繊維が触れる、風が当たる、髪の毛が触れるなど、わずかな刺激でも痛みを感じることがあります。この痛みは、皮膚のバリア機能が著しく低下している証拠であり、外部刺激から皮膚を保護する必要があります。保湿と適切な外用薬により皮膚のバリア機能が回復すると、この痛みも軽減することが多いとされています。
痛みとかゆみの違いでは、アトピー性皮膚炎では痛みとかゆみが混在することが多く、区別が難しい場合があります。医学的には、痛みとかゆみは別の神経伝達経路を持つ異なる感覚ですが、同じ皮膚病変から両方の症状が生じることがあります。一般的に、表層の軽い刺激はかゆみとして、深部や強い刺激は痛みとして感じられます。掻くことでかゆみが一時的に和らぐことがありますが、これは痛み刺激がかゆみ信号を遮断するためと考えられています。しかし、掻くことで皮膚が損傷すると、今度は痛みが主症状となる悪循環に陥ることがあるとされています。
このように、ヒリヒリ、ズキズキ、チクチクなど多様な痛みのタイプが存在し、各タイプは異なる原因と特徴を持ち、それぞれに適した対処法が必要となります。
次に、これらの痛みを和らげる具体的な方法について説明いたします。
アトピーが痛い時の対処法と和らげる方法
痛みを和らげるには、適切な保湿による皮膚保護、炎症を抑える治療、痛みを悪化させない生活習慣の実践が効果的です。
適切な保湿と皮膚保護について、皮膚のバリア機能を回復させることが痛みの軽減につながります。入浴後5分以内に保湿剤を全身に塗布し、水分の蒸発を防ぎます。特に痛みのある部位には、刺激の少ない保湿剤を選び、優しく塗布することが重要です。ワセリンなどの油性成分の多い保湿剤は、皮膚表面に保護膜を作り、外部刺激から守る効果があります。ひび割れがある部位には、絆創膏や保護テープで覆うことで、物理的な刺激を軽減できます。手指のひび割れには、保湿後に綿手袋を着用することも効果的とされています。
炎症を抑える治療では、痛みの原因となっている炎症を速やかに鎮めることが重要です。ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの抗炎症薬を適切に使用することで、炎症と共に痛みも軽減します。ただし、傷がある部位へのタクロリムス軟膏の使用は刺激となり痛みを増強させる可能性があるため、医師の指示に従うことが必要です。二次感染が疑われる場合には、抗生物質の外用薬や内服薬が必要となることがあります。痛みが強い場合には、鎮痛剤の使用について医師に相談することも選択肢の一つです。
痛みを悪化させない生活習慣について、入浴時は熱いお湯を避け、ぬるめのお湯で短時間にします。石鹸やボディソープは刺激の少ないものを選び、痛みのある部位は泡で優しく洗います。衣類は柔らかい綿素材を選び、縫い目やタグが皮膚に当たらないよう工夫します。寝具も清潔で柔らかい素材のものを使用し、掻き壊しを防ぐために爪を短く切り、就寝時には綿の手袋を着用することも有効です。また、痛みがある時は患部を冷やすことで一時的に痛みが和らぐことがありますが、過度の冷却は避けることが推奨されます。
痛みのある部位のケア方法では、顔の痛みには、洗顔時に刺激の少ない洗顔料をよく泡立てて使用し、タオルで拭く際はこすらず押さえるようにします。化粧品は無香料・低刺激性のものを選びます。手の痛みには、手洗い後は必ず保湿し、水仕事の際にはゴム手袋の下に綿手袋を着用します。寝る前には保湿剤を厚めに塗布し、綿手袋をして就寝します。関節部位の痛みには、動きによる刺激を軽減するため、包帯やサポーターで保護することも考慮されます。ただし、締め付けすぎないよう注意が必要です。
このように、保湿による皮膚保護、抗炎症治療、生活習慣の工夫、部位別の適切なケアを組み合わせることで、アトピー性皮膚炎による痛みの軽減と予防が期待できます。
続いて、痛みが強い場合に考えられる他の原因について見ていきましょう。
痛みが強い場合に考えられる他の原因
通常のアトピー症状とは異なる強い痛みがある場合、二次感染、接触性皮膚炎、神経障害などの可能性も考慮する必要があります。
二次感染の可能性について、アトピー性皮膚炎の掻き壊しから細菌やウイルスが侵入し感染を起こすと、通常よりも強い痛みが生じます。黄色ブドウ球菌による伝染性膿痂疹(とびひ)では、水疱や黄色いかさぶたができ、周囲に赤みや腫れを伴い、触ると強く痛みます。蜂窩織炎では、皮膚の深い層に細菌感染が広がり、広範囲の赤み、腫れ、熱感、強い痛みが現れ、発熱を伴うこともあります。カポジ水痘様発疹症は、ヘルペスウイルス感染により広範囲に水疱が多発し、激しい痛みと高熱を伴う重篤な状態です。これらの感染症は、適切な抗生物質や抗ウイルス薬による治療が必要とされています。
接触性皮膚炎の合併では、アトピー性皮膚炎に加えて、特定の物質との接触により接触性皮膚炎(かぶれ)を起こすと、強い痛みやかゆみが生じることがあります。化粧品、外用薬、金属、植物、洗剤などが原因となることが多く、接触した部位に一致して症状が現れます。接触性皮膚炎では、アトピー性皮膚炎の症状とは異なるパターンで急激に症状が悪化し、水疱や強い赤みを伴うことがあります。原因物質を特定し避けることが重要で、必要に応じてパッチテストなどの検査が行われます。
神経障害性の痛みについて、長期間のアトピー性皮膚炎や繰り返す掻き壊しにより、皮膚の神経が損傷し、神経障害性の痛みが生じることがあります。この痛みは、焼けるような持続的な痛み、電気が走るような痛み、何もしていないのに痛むなどの特徴があり、通常の痛み止めでは効きにくいことがあります。また、アロディニア(通常は痛みを感じない刺激で痛みを感じる)という症状が現れることもあります。このような神経障害性の痛みは、専門的な評価と治療が必要とされています。
その他の皮膚疾患では、アトピー性皮膚炎と思っていた症状が、実は他の皮膚疾患である可能性もあります。帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化により、神経に沿って帯状に水疱が現れ、激しい痛みを伴います。貨幣状湿疹は、円形の湿疹が多発し、強いかゆみや痛みを伴うことがあります。尋常性乾癬は、赤い盛り上がった発疹に銀白色の鱗屑が付着し、痛みを伴う場合があります。これらの疾患は、アトピー性皮膚炎とは治療法が異なるため、正確な診断が重要です。
このように、通常と異なる強い痛みの背景には、二次感染、接触性皮膚炎、神経障害、他の皮膚疾患など様々な原因が潜んでいる可能性があり、適切な鑑別診断と治療が必要となります。
最後に、医療機関を受診すべきタイミングについて説明いたします。
アトピーの痛みで医療機関を受診すべきタイミング
医療機関への相談が必要かどうかは、痛みの程度、随伴症状、日常生活への影響、治療への反応性を総合的に判断することが大切です。
早急な受診を検討すべき症状として、激しい痛みで日常生活ができない場合、発熱を伴う強い痛み、黄色いかさぶたや膿を伴う皮膚病変、広範囲に水疱が多発した場合があります。また、皮膚の一部が赤く腫れて熱を持ち強く痛む(蜂窩織炎の疑い)、神経に沿って帯状に水疱と強い痛みがある(帯状疱疹の疑い)、掻き壊しからの出血が止まらない、痛みで睡眠が全くとれないなどの場合には速やかな対応が必要とされています。特に高熱や全身状態の悪化を伴う場合には、重篤な感染症の可能性もあるため緊急性が高いです。
継続的な観察が必要なケースでは、適切な保湿やスキンケアを行っても痛みが改善しない場合や、痛みが徐々に強くなっている場合があります。通常のアトピー症状とは異なる痛みのパターンがある、市販の鎮痛剤を使用しても効果がない、痛みのために仕事や家事に支障をきたしている、外用薬を塗ると痛みが増強するなどの場合には、治療方針の見直しや専門的な評価が推奨されます。また、精神的ストレスが大きく、痛みにより不安や抑うつ状態になっている場合には、心理的サポートも含めた総合的な対応が必要です。
特に注意が必要な方として、免疫抑制薬を使用中の方や基礎疾患をお持ちの方では、感染症のリスクが高く、症状が急速に悪化する可能性があるため、軽度の症状でも早めの相談が推奨されます。乳幼児や高齢者では、痛みの訴えが不明確な場合があり、機嫌の悪さや活動性の低下などから痛みを推測する必要があります。職業的に手を使う方で手の痛みが強い場合には、仕事への影響も大きいため、早期の適切な治療が重要です。また、過去に二次感染を繰り返している方では、初期段階での対応が再発予防につながります。
このような痛みの程度、随伴する症状の有無、日常生活や仕事への影響度、実施している治療への反応性などを多角的に評価した上での適切な対応については、ご相談ください。早期の適切な対応により、痛みの軽減、感染症の予防、生活の質の向上が期待できる場合があります。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
2019年4月 | 赤穂市民病院 |
2021年4月 | 亀田総合病院 |
2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
2023年2月 | いずみホームケアクリニック |