肌に熱がこもることでかゆみが増してしまうという経験をされたことはないでしょうか。
アトピー性皮膚炎を持つ方の中には、身体が温まると症状が悪化するという方が少なくありません。
布団に入った途端にかゆくなる、運動後にかゆみが止まらないなど、熱を持つ場面での悩みは様々です。
どのような対策をすれば熱によるかゆみを和らげられるのか、知りたいと思われることもあるでしょう。
アトピー性皮膚炎と熱の関係を理解し、適切な対策を行うことで、症状を軽減できる可能性があります。
アトピーで熱がこもる時にすぐできる対策とは?
アトピー性皮膚炎で熱がこもってかゆみが強くなった時は、患部を冷やす、涼しい環境に移動する、衣類を調整するなどの対策が有効とされています。
患部を冷やす方法
熱がこもってかゆみを感じた時、最も即効性のある対策は患部を冷やすことです。冷たい刺激はかゆみの神経伝達を一時的にブロックし、同時に皮膚の温度を下げることで症状を和らげる効果があります。
冷やしたタオルや保冷剤をガーゼで包んだものを患部に当てると、かゆみが軽減することがあります。保冷剤を直接肌に当てると凍傷のリスクがあるため、必ず布で包んで使用することが大切です。
市販の冷却シートや冷感スプレーも活用できますが、製品によっては刺激となる成分が含まれている場合があるため、使用前に目立たない部位で試すことが推奨されます。
涼しい環境への移動
熱がこもっていると感じたら、できるだけ涼しい環境に移動することも効果的です。エアコンの効いた部屋に移動する、日陰で休む、風通しの良い場所に行くなどの対策が有効です。
外出先で熱がこもった場合は、建物内の涼しい場所や、デパートなどの冷房が効いた施設に一時避難することも一つの方法です。
衣類の調整
熱がこもっている時は、衣類を緩めたり脱いだりすることで、体温の放散を促すことができます。襟元を開ける、袖をまくる、上着を脱ぐなど、できる範囲で調整することが推奨されます。
締め付けの強い衣類は熱がこもりやすいため、ゆったりとした服装に着替えることも有効です。
汗への対処
熱がこもると汗をかきやすくなり、汗が皮膚への刺激となってかゆみを増強させることがあります。汗をかいたら、こまめにタオルで押さえるように拭き取ることが重要です。
可能であれば、ぬるめのシャワーで汗を洗い流すと、より効果的です。シャワー後は、水分を優しく押さえるように拭き取り、保湿剤を塗布することが推奨されます。
保湿剤の活用
冷やした保湿剤を塗布することで、保湿と冷却の両方の効果が得られます。夏場は保湿剤を冷蔵庫で冷やしておくと、塗布時にひんやりとして気持ちよく、かゆみの軽減にも役立ちます。
ただし、冷やしすぎると製品によっては品質が変化する可能性があるため、使用している保湿剤が冷蔵保存に適しているか確認することが大切です。
このように、アトピーで熱がこもった時は、冷やす、涼しい環境に移動する、衣類を調整するなどの対策で、かゆみを軽減できる可能性があります。
続いて、アトピーで熱がこもるのを防ぐ日常生活での対策について見ていきましょう。
アトピーで熱がこもるのを防ぐ日常生活での対策
アトピー性皮膚炎で熱がこもるのを予防するためには、衣類の選び方、室内環境の管理、入浴方法の工夫など、日常生活での対策が重要とされています。
衣類の素材と選び方
肌に直接触れる衣類は、通気性と吸湿性に優れた素材を選ぶことが重要です。綿100%の素材は、汗を吸収し、熱を逃がしやすいため、アトピー性皮膚炎の方に適しているとされています。
化学繊維(ポリエステル、ナイロンなど)は、熱がこもりやすく、汗を吸収しにくいため、できるだけ避けることが推奨されます。ウールやアクリルなど、チクチクする素材も皮膚への刺激となるため注意が必要です。
衣類のサイズは、身体を締め付けないゆったりしたものを選ぶことで、空気の流れが確保され、熱がこもりにくくなります。縫い目やタグが肌に当たらないよう、裏返しに着る工夫も有効です。
室温・湿度の管理
室内の温度と湿度を適切に管理することで、熱がこもるのを防ぐことができます。夏場は室温を26〜28度程度、冬場は18〜22度程度に保つことが推奨されます。
湿度は50〜60%程度が理想的です。湿度が高いと汗が蒸発しにくく、熱がこもりやすくなります。逆に湿度が低すぎると皮膚が乾燥してかゆみが増すため、適度なバランスが大切です。
エアコンや扇風機を使用する際は、風が直接身体に当たらないよう注意が必要です。直接風が当たると皮膚が乾燥し、かえってかゆみが悪化することがあります。
入浴方法の工夫
熱いお風呂は体温を上昇させ、入浴後に熱がこもる原因となります。お湯の温度は38〜40度程度のぬるめに設定することが推奨されます。
入浴時間も長すぎると体温が上昇しすぎるため、10〜15分程度にとどめることが望ましいとされています。半身浴も、長時間行うと熱がこもる原因となるため注意が必要です。
入浴後は、体温が下がるまで薄着で過ごし、すぐに布団に入らないようにすることで、熱がこもるのを防ぐことができます。
寝具の選び方
寝具も熱がこもる原因となります。通気性の良い素材の寝具を選び、季節に合わせて調整することが重要です。
夏場は、麻や綿など通気性の良い素材のシーツや、冷感素材の寝具を使用することで、寝ている間の熱のこもりを軽減できます。布団よりもタオルケットなど薄手の掛け物を使用することも有効です。
冬場は、暖かくしすぎないよう注意が必要です。電気毛布や電気敷布は、使用する場合は就寝前に温めておき、寝る時には電源を切ることが推奨されます。
運動時の注意点
運動は健康維持に重要ですが、体温が上昇するため、アトピー性皮膚炎の方は注意が必要です。激しい運動よりも、ウォーキングやストレッチなど、体温が急激に上昇しにくい運動を選ぶことが推奨されます。
運動する時間帯は、気温の低い早朝や夕方を選ぶと、熱がこもりにくくなります。運動中はこまめに水分を補給し、汗をかいたらすぐに拭き取るか、運動後にシャワーを浴びることが重要です。
このように、衣類の選び方、室内環境の管理、入浴方法の工夫などの日常生活での対策により、アトピーで熱がこもるのを予防できる可能性があります。
次に、アトピーで熱がこもりやすい季節ごとの対策について説明いたします。
アトピーで熱がこもりやすい季節ごとの対策
アトピー性皮膚炎で熱がこもる問題は季節により特徴が異なるため、夏場、冬場、季節の変わり目それぞれに適した対策を行うことが重要とされています。
夏場の対策
夏場は外気温が高く、最も熱がこもりやすい季節です。エアコンを適切に使用し、室温を26〜28度程度に保つことが基本的な対策となります。
外出時は、日傘や帽子を使用して直射日光を避ける、保冷剤や冷却タオルを携帯する、こまめに涼しい場所で休憩を取るなどの工夫が有効です。
汗対策も重要です。汗をかいたらこまめに拭き取り、可能であればシャワーで洗い流すことが推奨されます。汗をかいたまま放置すると、汗の成分が皮膚を刺激し、かゆみや炎症が悪化します。
衣類は、通気性の良い薄手の綿素材を選び、汗で濡れたらすぐに着替えることが大切です。速乾性の素材も選択肢の一つですが、肌に合わない場合があるため、試してから使用することが推奨されます。
冬場の対策
冬場は寒いため、つい厚着をしたり暖房を強くしたりしがちですが、これが熱がこもる原因となります。室内では薄着で過ごし、暖房の設定温度は20度前後にとどめることが推奨されます。
暖房器具の種類も影響します。エアコンやファンヒーターは空気を乾燥させるため、加湿器を併用することが重要です。こたつや電気カーペットは熱がこもりやすいため、使用時間を制限するか、温度を低めに設定することが望ましいとされています。
冬場の入浴は特に注意が必要です。寒いからといって熱いお湯に長時間浸かると、入浴後に熱がこもり、かゆみが強くなることがあります。ぬるめのお湯で短時間の入浴を心がけることが推奨されます。
衣類は、薄手のものを重ね着することで、熱がこもった時に調整しやすくなります。一枚の厚い服よりも、脱ぎ着しやすい薄手の服を複数枚着る方が、体温調節がしやすいとされています。
季節の変わり目の対策
季節の変わり目は、気温の変化が大きく、衣類や室内環境の調整が難しい時期です。日中は暖かくても朝晩は冷え込むことがあるため、脱ぎ着しやすい服装を心がけることが重要です。
室内と屋外の気温差が大きい時期は、その差によって身体に負担がかかり、熱がこもりやすくなることがあります。室内外の移動時には、少し時間を置いて身体を慣らすことが推奨されます。
環境変化への対応
旅行や出張など、普段と異なる環境に身を置く時も注意が必要です。ホテルの部屋は空調の調整が難しいことがあるため、携帯用の保冷剤や冷却シートを持参すると安心です。
乗り物(電車、バス、飛行機など)も熱がこもりやすい環境です。混雑した車内や暖房が効きすぎた車内では、できるだけ涼しい場所を選ぶ、衣類を調整するなどの対策が有効です。
このように、季節ごとの特徴を理解し、それぞれに適した対策を行うことで、アトピーで熱がこもる問題を軽減できる可能性があります。
続いて、アトピー性皮膚炎で熱がこもる原因とメカニズムについて見ていきましょう。
アトピー性皮膚炎で熱がこもる原因とメカニズム
アトピー性皮膚炎で熱がこもりやすい原因には、皮膚のバリア機能の低下、発汗機能の問題、炎症による血流の変化などが関与しているとされています。
皮膚のバリア機能と体温調節
皮膚は体温調節において重要な役割を果たしています。健康な皮膚では、暑い時には汗をかいて熱を放散し、寒い時には血管を収縮させて熱を逃がさないようにします。
アトピー性皮膚炎では、皮膚のバリア機能が低下しているため、この体温調節機能にも影響が出る可能性があります。バリア機能の低下により、皮膚からの水分蒸発が増加し、正常な体温調節が妨げられることがあります。
また、アトピー性皮膚炎の皮膚は外部からの刺激を受けやすく、温度変化にも敏感に反応する傾向があります。わずかな温度上昇でもかゆみを感じやすいのは、このためと考えられています。
発汗機能の問題
アトピー性皮膚炎の患者さんの中には、発汗機能に問題がある方がいることが報告されています。汗をかきにくい、または汗をかいても蒸発しにくいなどの問題があると、熱が身体にこもりやすくなります。
汗腺の機能低下や汗管の閉塞により、汗が皮膚表面に出にくくなることがあります。この場合、汗が皮膚の内部に溜まり、汗疹(あせも)のような状態になることもあります。
一方で、汗をかきすぎることも問題となります。汗の成分(塩分、尿素など)が皮膚を刺激し、かゆみや炎症を引き起こすことがあります。
炎症と血流の関係
アトピー性皮膚炎で炎症が起きている部位では、血流が増加しています。血流が増加すると、その部位に熱が集まり、熱感やほてりを感じることがあります。
炎症部位の血管は拡張しており、少しの体温上昇でもさらに血流が増加しやすい状態にあります。これが、アトピー性皮膚炎の患者さんが熱がこもりやすいと感じる一因と考えられています。
かゆみが増強する仕組み
体温が上昇すると、かゆみを伝える神経の活動が活発になり、かゆみの知覚が増強されます。また、温かい環境ではヒスタミンなどのかゆみを引き起こす物質が放出されやすくなることも関係しています。
皮膚の温度が上昇すると、皮膚の血管が拡張し、かゆみを引き起こす物質が皮膚に運ばれやすくなります。これにより、温まった時にかゆみが増すという現象が起こります。
夜間に布団に入ると急激にかゆくなるのは、布団の保温効果により皮膚温度が上昇し、これらのメカニズムが作動するためと考えられています。
このように、アトピー性皮膚炎で熱がこもりやすい原因には、皮膚のバリア機能低下、発汗機能の問題、炎症による血流増加などが複合的に関与しているとされています。
次に、熱がこもることでアトピー症状が悪化する理由について説明いたします。
熱がこもることでアトピー症状が悪化する理由
熱がこもることでアトピー性皮膚炎の症状が悪化する理由として、かゆみの増強、汗による刺激、掻破の悪循環、睡眠への影響などが挙げられます。
かゆみの増強
前述の通り、体温や皮膚温度が上昇すると、かゆみを伝える神経の活動が活発になり、かゆみが増強されます。これはアトピー性皮膚炎に限らず、一般的な生理現象ですが、もともとかゆみを感じやすいアトピー性皮膚炎の方では、より顕著に現れます。
熱によるかゆみの増強は、掻きたいという衝動を強め、結果として掻破が増えることにつながります。
汗による刺激
熱がこもると汗をかきやすくなりますが、汗はアトピー性皮膚炎の皮膚にとって刺激となります。汗に含まれる塩分や尿素などの成分が、バリア機能の低下した皮膚に浸透し、炎症やかゆみを引き起こします。
また、汗をかいた後に汗が乾くと、その成分が皮膚に残り、刺激が持続することがあります。汗をかいたままの状態が続くと、汗疹(あせも)を併発することもあります。
アトピー性皮膚炎の患者さんの中には、自分の汗に対してアレルギー反応を起こす方もいることが報告されており、この場合は汗をかくこと自体が症状悪化の原因となります。
掻破の悪循環
熱がこもってかゆみが増強すると、掻破(掻くこと)が増えます。掻くことで皮膚が傷つき、炎症が悪化し、さらにかゆみが強くなるという悪循環に陥ります。
掻破により皮膚のバリア機能がさらに低下すると、外部からの刺激に対してより敏感になり、わずかな温度変化でもかゆみを感じやすくなります。
また、掻破による傷口から細菌が侵入し、感染症を併発するリスクも高まります。感染症を起こすと、さらに炎症が悪化し、治療も複雑になります。
睡眠への影響
熱がこもることによるかゆみは、特に夜間の睡眠に大きな影響を与えます。布団に入ると体温が上昇し、かゆみが強くなることで、寝つきが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めたりすることがあります。
睡眠不足は、身体の回復を妨げ、免疫機能にも影響を与えます。睡眠が十分に取れないと、皮膚の修復が遅れ、アトピー性皮膚炎の症状が改善しにくくなるという悪循環が生じます。
また、睡眠不足によりストレスが増加し、それがさらにアトピー性皮膚炎を悪化させる要因となることもあります。
このように、熱がこもることはかゆみの増強、汗による刺激、掻破の悪循環、睡眠障害などを通じて、アトピー症状を悪化させる原因となります。
最後に、熱がこもる症状への対策で医療機関を受診すべきタイミングについて説明いたします。
熱がこもる症状への対策で医療機関を受診すべきタイミング
アトピー性皮膚炎で熱がこもる問題にセルフケアで対応できない場合や、合併症が疑われる場合は、医療機関を受診して適切な治療や指導を受けることが重要です。
セルフケアで改善しない場合
日常生活での対策を行っても熱がこもる問題が改善しない場合、衣類や環境を調整しても頻繁にかゆみが悪化する場合、熱によるかゆみで日常生活に支障が出ている場合などは、医療機関への相談が推奨されます。
熱がこもりやすいという症状は、アトピー性皮膚炎の炎症が十分にコントロールされていないサインである可能性があります。治療の見直しにより、症状が改善する場合があります。
汗疹や感染症の合併
熱がこもることに関連して、汗疹(あせも)や細菌感染症を併発することがあります。以下のような症状がある場合は、早めに受診することが推奨されます。
小さな水疱や膿疱が多数できている、赤みや腫れが急激に悪化した、黄色い膿やかさぶたが見られる、発熱がある、痛みを伴うなどの症状です。
汗疹は、汗腺が詰まることで起こり、小さな水疱や赤い発疹が特徴です。細菌感染を併発すると、膿疱や黄色いかさぶたが見られます。これらは適切な治療が必要です。
治療の見直しの必要性
熱がこもることでかゆみが頻繁に悪化する場合、現在の治療が十分でない可能性があります。外用薬の種類や強さの見直し、塗布方法の確認、内服薬の追加などにより、炎症のコントロールが改善し、熱に対する過敏性も軽減される場合があります。
プロアクティブ療法(症状が落ち着いた後も予防的に外用薬を使用する方法)により、炎症を安定させ、熱によるかゆみの悪化を予防できる可能性があります。
重症例では、生物学的製剤やJAK阻害薬などの新しい治療薬が選択肢となる場合もあります。従来の治療で十分な効果が得られない場合は、これらの治療について医師に相談することも検討されます。
発汗異常の評価
汗をかきにくい、汗をかくと異常にかゆくなるなど、発汗に関する問題が顕著な場合は、発汗機能の専門的な評価が必要な場合があります。
発汗異常には、汗腺機能の低下、汗管の閉塞、自分の汗に対するアレルギーなど、様々な原因が考えられます。原因を特定することで、適切な対策を立てることができます。
発汗テストなどの検査により、発汗機能を客観的に評価することが可能です。必要に応じて、皮膚科以外の専門家との連携が行われることもあります。
定期的な受診により、症状の変化を医師と共有し、季節に応じた治療やケアの調整を行うことも重要です。熱がこもりやすい夏場に向けて、事前に対策を相談しておくことで、症状の悪化を予防できる可能性があります。
このように、セルフケアで改善しない場合や合併症が疑われる場合は、医療機関を受診して適切な評価と治療を受けることが、熱がこもる問題への対策として重要とされています。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
| 2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
| 2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
| 2019年4月 | 赤穂市民病院 |
| 2021年4月 | 亀田総合病院 |
| 2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
| 2023年2月 | いずみホームケアクリニック |




