アトピーは運動不足で悪化する?身体活動を減少させないためには?

アトピー

「アトピーがあって運動不足になっている」「そのことでさらに症状が悪化しないか心配」といった悩みをお持ちの方は少なくありません。

症状への不安から身体活動が減少し、それが健康に影響を与えるケースがあります。

運動不足とアトピー性皮膚炎の症状には関連性が指摘されています。

適度な身体活動は健康維持に重要とされていますが、症状との兼ね合いが難しい場合もあります。

個々の状態に応じた適切な活動量については、専門的な判断が重要とされています。

運動不足がアトピーに与える影響は?

運動不足は免疫バランスの乱れ、血液循環の低下、ストレス蓄積などを通じてアトピー症状に悪影響を与える可能性があります。

運動不足と症状悪化の関係について、適度な運動は健康維持に不可欠ですが、運動不足の状態が続くと、様々な生理機能が低下し、アトピー性皮膚炎の症状にも悪影響を及ぼす可能性があります。運動不足そのものが直接的にアトピー性皮膚炎を引き起こすわけではありませんが、間接的に症状を悪化させる要因となることが指摘されています。特に、免疫機能、血液循環、ストレス管理、睡眠の質などの面で、運動不足が負の影響を与えることが知られています。

免疫機能への影響では、適度な運動は免疫系を適切に調整し、過剰な免疫反応を抑える効果があるとされています。一方、運動不足の状態では、免疫バランスが乱れやすくなります。アトピー性皮膚炎は免疫系の過剰反応が関与する疾患であるため、運動不足により免疫バランスが崩れると、症状が悪化しやすくなる可能性があります。また、運動不足により体力が低下すると、感染症にかかりやすくなり、二次感染のリスクも高まるとされています。

血液循環とターンオーバーの低下について、運動不足により全身の血液循環が悪化すると、皮膚への酸素や栄養の供給が不十分になります。これにより、皮膚の新陳代謝(ターンオーバー)が遅くなり、バリア機能の回復が遅れる可能性があります。また、血行不良により老廃物の排出も滞り、皮膚の状態が悪化しやすくなります。適度な運動による血液循環の改善は、皮膚の健康維持に重要な役割を果たすとされています。

ストレスや睡眠への影響では、運動不足はストレスホルモンの増加につながり、精神的な緊張や不安を高めます。ストレスはアトピー性皮膚炎の悪化要因として知られており、運動不足によりストレス管理が困難になると症状が悪化しやすくなります。また、適度な運動は睡眠の質を向上させる効果がありますが、運動不足では睡眠の質が低下し、十分な休息が取れなくなります。睡眠不足は免疫機能や皮膚のバリア機能に悪影響を与え、症状の悪化につながる可能性があるとされています。

このように、運動不足は免疫機能の低下、血液循環の悪化、皮膚代謝の遅延、ストレス蓄積、睡眠の質の低下などを引き起こし、これらが複合的に作用してアトピー性皮膚炎の症状を悪化させる要因となる可能性があります。

続いて、なぜアトピーで運動不足になりやすいのか見ていきましょう。

アトピーで運動不足になりやすい理由

症状による制限、汗への不安、心理的要因、環境的制約などが重なり運動不足に陥りやすい状況があります。

症状による運動の制限について、炎症が強い時期や広範囲に湿疹がある場合、身体を動かすこと自体が困難になります。かゆみが強い、痛みがある、関節部位に症状があり曲げ伸ばしがつらいなどの理由で、運動を避けざるを得ない状況があります。また、疲労により症状が悪化する経験から、活動を控えるようになることもあります。特に症状が重度の場合には、日常生活の基本動作すら負担となり、運動どころではない状態になることがあるとされています。

汗や摩擦への不安では、運動により汗をかくと症状が悪化した経験から、運動を避けるようになる方が多くいます。「汗をかくと痒くなる」「運動後に必ず悪化する」という恐怖心が、運動へのハードルを高くします。また、運動着や運動器具との摩擦により症状が悪化することへの不安、運動後のシャワーや着替えの機会がない環境への心配なども、運動を避ける理由となります。過去の悪化経験により、運動そのものに対して否定的なイメージを持つようになることもあるとされています。

心理的な要因について、外見への不安から人前で運動することをためらう方は少なくありません。体育の授業やジムなど、他人の目がある場所での運動を避けるようになります。「症状を見られたくない」「他人に迷惑をかけているのではないか」という思いから、社会的な活動を控えることがあります。また、慢性的な症状による疲労感や抑うつ傾向により、運動への意欲自体が低下することもあります。失敗経験の積み重ねにより、「どうせ運動しても悪化するだけ」という諦めの気持ちが生まれることもあるとされています。

環境的な制約では、プールの塩素が刺激となるため水泳ができない、屋外運動では紫外線や花粉の影響を受ける、公共の運動施設では他人の目が気になるなど、運動環境そのものが制約要因となることがあります。また、治療やスキンケアに時間を取られ、運動の時間を確保できないという現実的な問題もあります。経済的な理由で専用の運動着や施設利用が難しい、近隣に適切な運動環境がないなどの物理的制約も、運動不足の一因となることがあるとされています。

このように、身体的な症状による制限、汗や摩擦による悪化への恐れ、外見への不安などの心理的要因、環境や時間的制約などが複合的に作用して、アトピー性皮膚炎を持つ方は運動不足に陥りやすい状況に置かれています。

次に、これらの制約の中でも運動不足を解消する工夫について説明いたします。

運動不足を解消するための工夫

症状に配慮しながら日常活動量を増やし、室内運動や軽い活動から始めることが有効です。

症状を悪化させない軽い運動について、まずは軽い散歩から始めることが推奨されます。1日10分程度の短時間から開始し、症状を観察しながら徐々に時間を延ばします。散歩は発汗量が少なく、自分のペースで調整できるため、アトピー性皮膚炎の方に適した運動です。ストレッチやヨガなどの静的な運動も、激しい発汗を伴わず、リラックス効果もあるため有効です。階段の昇降、軽い家事(掃除、洗濯物干しなど)も、日常生活の中で自然に活動量を増やす方法となります。

日常生活での活動量の増やし方では、エレベーターやエスカレーターではなく階段を使う、一駅分歩く、買い物は徒歩や自転車で行く、テレビを見ながら軽いストレッチをするなど、特別な運動の時間を作らなくても活動量を増やす工夫ができます。こまめに立ち上がって動く、家の中でも座りっぱなしにせず歩き回る、掃除をこまめに行うなど、日常動作を意識的に増やすことで、運動不足の解消につながります。「運動しなければ」というプレッシャーを感じず、生活の中で自然に体を動かすことから始めることが継続のコツとされています。

室内でできる運動について、天候や環境に左右されず、人目を気にせずに運動できる室内活動は、アトピー性皮膚炎の方に適しています。ラジオ体操、踏み台昇降、軽いダンベル運動、ストレッチ、ヨガなどは自宅で実施可能です。オンラインの運動動画を活用することも有効です。室内であれば、汗をかいた後すぐにシャワーを浴びられる、人目を気にせず休憩できるなどのメリットがあります。エアコンで温度調整ができ、発汗をコントロールしやすい環境も整えられます。

運動以外の活動量確保では、運動が難しい場合でも、座りっぱなしを避けることが重要です。30分に1回は立ち上がって軽く体を動かす、デスクワーク中も姿勢を変える、こまめに歩くなど、長時間の不活動を避けることで、血液循環の改善が期待できます。趣味の活動(ガーデニング、軽い手芸、楽器演奏など)も、身体を適度に動かす機会となります。買い物や外出の機会を増やす、家族や友人と散歩するなど、社会的活動を通じて活動量を確保することも効果的とされています。

このように、激しい運動を目指すのではなく、症状に配慮した軽い活動や日常生活での工夫、室内でできる運動、座りっぱなしを避ける工夫などを組み合わせることで、無理なく活動量を増やし運動不足を解消することが可能となります。

続いて、運動不足の悪循環を断つ方法について見ていきましょう。

アトピーと運動不足の悪循環を断つ方法

段階的な活動再開、症状管理との両立、継続のための工夫、専門家のサポートが悪循環を断つ鍵です。

段階的な活動再開について、長期間運動不足だった場合、いきなり激しい運動を始めると症状が悪化したり、身体的な負担が大きすぎたりします。まずは1日5〜10分の軽い活動から始め、1〜2週間ごとに少しずつ時間や強度を増やしていきます。症状が安定している時期を選んで開始し、悪化の兆候があれば一旦強度を下げて様子を見ます。「完璧にやろう」とせず、「できる範囲で続ける」ことを目標にすることが重要です。小さな成功体験を積み重ねることで、自信がつき継続しやすくなるとされています。

症状管理と運動の両立では、運動前後の適切なスキンケアを徹底することで、運動による症状悪化を最小限に抑えられます。運動前の保湿、運動中のこまめな汗の拭き取り、運動後の速やかなシャワーと保湿という一連のケアを習慣化します。症状が悪化した場合の対処法を事前に確認しておくことも安心につながります。また、皮膚科医と相談しながら、運動可能な状態かどうかを定期的に評価してもらうことも重要です。治療とスキンケアをしっかり行い、症状を安定させた上で運動を取り入れることが、両立のポイントとされています。

モチベーション維持のコツについて、目標は「毎日激しい運動をする」ではなく、「週に3回、10分歩く」など、達成可能な小さな目標にします。活動記録をつけることで、自分の頑張りを可視化でき、達成感が得られます。家族や友人と一緒に運動することで、楽しみながら続けられます。症状が良くなった、よく眠れるようになった、気分が明るくなったなど、運動による良い変化に注目することで、モチベーションが維持できます。完璧主義にならず、できない日があっても自分を責めないことも、長期継続のためには重要とされています。

専門家のサポート活用では、理学療法士に相談し、症状に配慮した運動プログラムを作成してもらうことも選択肢の一つです。運動療法を取り入れている医療機関もあります。また、アトピー性皮膚炎患者向けの運動教室や患者会の活動に参加することで、同じ悩みを持つ人と情報交換しながら運動を続けられます。心理的なサポートが必要な場合には、カウンセラーや心理士の助けを借りることも有効です。かかりつけの皮膚科医に運動について相談し、医学的な観点からのアドバイスを受けることも重要とされています。

このように、無理のない範囲からの段階的な開始、適切なスキンケアとの組み合わせ、達成可能な目標設定と記録、家族や専門家のサポート活用などを通じて、運動不足とアトピー悪化の悪循環を断ち、健康的な生活習慣を築くことが可能となります。

最後に、医療機関を受診すべきタイミングについて説明いたします。

症状で医療機関を受診すべきタイミング

医療機関への相談が必要かどうかは、症状の重症度、運動への影響、生活の質の低下を総合的に判断することが大切です。

早急な受診を検討すべき症状として、運動不足により体力が著しく低下し日常生活に支障をきたしている場合、運動をしようとすると激しいかゆみや炎症が起こる、運動後に必ず症状が急激に悪化する、広範囲の炎症や感染の兆候があり安静が必要な状態などがあります。また、運動不足による肥満や生活習慣病のリスクが懸念される、精神的な落ち込みが強く外出や活動への意欲が全くない、運動誘発性のアレルギー反応が疑われるなどの場合には、速やかな専門的評価が必要とされています。

継続的な観察が必要なケースでは、症状のために運動ができず運動不足が続いている場合や、運動をどの程度行ってよいか判断に迷う場合があります。運動後の適切なスキンケア方法について指導を受けたい、症状に配慮した運動プログラムについて相談したい、運動と症状管理の両立について悩んでいるなどの場合には、皮膚科医や理学療法士への相談が有効です。また、運動不足により体重増加や体力低下が進んでいる、生活の質が低下しているなどの場合にも、総合的なサポートについて相談することが推奨されます。

特に注意が必要な方として、成長期の子どもでは、運動不足が成長発達に影響する可能性があるため、症状管理をしながらも適度な活動を確保することが重要です。学校の体育への参加について悩んでいる場合には、医師の診断書や意見書をもとに学校と相談することも選択肢です。高齢者では、運動不足により筋力低下や転倒リスクが高まるため、安全に活動できる方法について相談が推奨されます。また、肥満や糖尿病などの生活習慣病を合併している方では、運動療法が重要な治療の一部となるため、医師と相談しながら適切な運動計画を立てることが大切とされています。

このような症状の重症度、運動不足の程度、日常生活や健康への影響、症状と運動の両立可能性などを多角的に評価した上での適切な対応については、ご相談ください。早期の適切な対応により、症状のコントロール、適度な活動量の確保、生活の質の向上が期待できる場合があります。


※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。

監修医師

理事長・院長
今村 英利
Imamura Eli

略歴

2014年10月神戸大学博士課程入学
2019年3月博士課程卒業医師免許取得
2019年4月赤穂市民病院
2021年4月亀田総合病院
2022年1月新宿アイランド内科クリニック院長
2023年2月いずみホームケアクリニック