アトピーにラップを巻くのは効果がある?密封療法の正しい知識について

アトピー

保湿剤や薬を塗った後にラップを巻くと効果が上がるという情報を目にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

アトピー性皮膚炎の症状がなかなか改善しない時、何か効果的な方法はないかと探されることもあるかもしれません。

ラップを巻くことで薬の効きが良くなる、保湿効果が高まるといった話を聞いて、試してみようかと考える方もいるでしょう。

しかし、この方法には効果が期待できる面がある一方で、リスクも存在します。

アトピー性皮膚炎に対してラップを巻く方法について、正しい知識を持つことが大切とされています。

スポンサーリンク

アトピー性皮膚炎にラップを巻く方法について

アトピー性皮膚炎にラップを巻く方法は密封療法と呼ばれ、医療現場では特定の条件下で使用されることがありますが、自己判断での使用には注意が必要です。

ラップを使った密封療法とは

外用薬や保湿剤を塗った部位をラップやフィルムで覆う方法は、医学的には「密封療法」または「ODT(Occlusive Dressing Therapy)」と呼ばれています。皮膚を密封することで、薬剤の浸透を高めたり、水分の蒸発を防いだりする効果があります。

家庭用の食品ラップを使用する方法が知られていますが、医療現場では専用のフィルムドレッシング材が使用されることもあります。

この方法は古くから皮膚科で使用されてきた治療法の一つであり、適切に使用すれば効果が期待できる場合があります。

どのような目的で行われるか

密封療法は、主に以下のような目的で行われます。

ステロイド外用薬の効果を高める目的では、通常の塗布では効果が不十分な場合に、密封することで薬剤の浸透を向上させます。保湿効果を高める目的では、保湿剤を塗った後に密封することで、水分の蒸発を防ぎ、保湿効果を持続させます。

また、掻破を物理的に防ぐ目的で使用されることもあります。ラップで覆うことで、無意識に掻いてしまうことを防ぐことができます。

医療現場での使用

皮膚科の医療現場では、密封療法は特定の条件下で使用されることがあります。角化が強い部位、手のひらや足の裏など皮膚が厚い部位、通常の外用療法で効果が不十分な場合などに、医師の判断で行われます。

医師が密封療法を指示する際は、使用する外用薬の種類と強さ、密封する時間、どの部位に使用するかなど、詳細な指導が行われます。

自己判断での使用に関する注意

インターネット上には、「ラップを巻いたら症状が改善した」という体験談が見られることがあります。しかし、自己判断で密封療法を行うことには、様々なリスクがあります。

ステロイド外用薬を密封すると、薬の吸収が数倍から10倍以上に高まることがあります。これにより、副作用のリスクも高まります。また、密封により皮膚が蒸れて、細菌感染を起こしやすくなることもあります。

このように、ラップを巻く密封療法は医療現場で使用されることがありますが、自己判断での使用にはリスクがあるため注意が必要とされています。

続いて、ラップを巻くことで期待される効果について見ていきましょう。

ラップを巻くことで期待される効果

ラップを巻く密封療法には、外用薬の浸透を高める、保湿効果を向上させる、掻破を防止するなどの効果が期待できる場合があります。

外用薬の浸透を高める効果

密封療法の最も大きな効果は、外用薬の皮膚への浸透を高めることです。皮膚をラップで覆うと、角質層が水分を含んで柔らかくなり、薬剤が浸透しやすくなります。

研究によると、密封することでステロイド外用薬の吸収は、通常の塗布に比べて数倍から10倍以上に高まることが報告されています。これにより、通常の塗布では効果が不十分だった症状に対して、改善が見られることがあります。

特に、角化が強い部位や、皮膚が厚い部位では、通常の塗布では薬剤が十分に浸透しにくいため、密封療法が有効な場合があります。

保湿効果の向上

ラップで皮膚を覆うと、皮膚からの水分蒸発が防がれ、保湿効果が向上します。保湿剤を塗った後に密封することで、保湿効果をより長時間持続させることができます。

乾燥が強い部位に対して、一時的に密封することで、皮膚の水分量を回復させる効果が期待できます。

ただし、長時間の密封は別の問題を引き起こす可能性があるため、時間を区切って行うことが重要です。

掻破の物理的防止

ラップで患部を覆うことで、無意識に掻いてしまうことを物理的に防ぐことができます。特に、夜間に寝ている間に掻き壊してしまうという方には、一定の効果が期待できます。

ただし、掻破防止の目的であれば、ラップ以外にも綿手袋や包帯など、皮膚への負担が少ない方法もあります。

効果が期待できるケース

密封療法が効果を発揮しやすいのは、以下のようなケースです。

手のひらや足の裏など皮膚が厚い部位、角化が強くゴワゴワした状態の部位、通常の外用療法で改善が見られない慢性的な症状などです。

ただし、これらのケースでも、医師の判断と指導のもとで行うことが重要です。すべての症状に密封療法が適しているわけではありません。

このように、ラップを巻く密封療法には外用薬の浸透向上、保湿効果の向上、掻破防止などの効果が期待できますが、適切な条件下で行うことが重要とされています。

次に、ラップを巻くことのリスクと危険性について説明いたします。

ラップを巻くことのリスクと危険性

ラップを巻く密封療法には、ステロイドの過剰吸収、皮膚の蒸れ、細菌繁殖など様々なリスクがあり、自己判断での使用は危険を伴います。

ステロイドの過剰吸収

密封療法の最も大きなリスクは、ステロイド外用薬の過剰吸収です。密封によりステロイドの吸収が大幅に高まるため、通常は起こりにくい副作用が発生するリスクが高まります。

皮膚萎縮、毛細血管拡張、ステロイドざ瘡、多毛などの局所的な副作用が起こりやすくなります。また、広い範囲に長期間使用すると、全身的な副作用のリスクも高まる可能性があります。

医師が密封療法を指示する際は、弱めのステロイドを選択したり、使用時間を制限したりして、このリスクを最小限に抑える工夫をしています。自己判断で行うと、このような調整ができません。

皮膚の蒸れと細菌繁殖

ラップで皮膚を密封すると、汗が蒸発できず、皮膚が蒸れた状態になります。高温多湿の環境は、細菌や真菌(カビ)が繁殖しやすい条件です。

アトピー性皮膚炎の皮膚は、バリア機能が低下しており、健康な皮膚に比べて感染を起こしやすい状態にあります。密封による蒸れが加わると、感染リスクがさらに高まります。

黄色ブドウ球菌による感染(とびひなど)や、真菌感染が起こりやすくなることがあります。

接触性皮膚炎の可能性

食品用のラップは、皮膚に長時間接触することを想定して作られていません。ラップに含まれる成分や可塑剤などが、皮膚に刺激を与えたり、かぶれ(接触性皮膚炎)を起こしたりする可能性があります。

特に、アトピー性皮膚炎でバリア機能が低下している皮膚は、外部からの刺激に敏感であり、かぶれを起こしやすい傾向があります。

症状悪化のリスク

密封療法が適さない状態の皮膚に使用すると、かえって症状が悪化することがあります。

じくじくと滲出液が出ている状態、すでに感染を起こしている状態、炎症が急性期で強い状態などでは、密封することで症状が悪化する可能性があります。

これらの状態を自分で正確に判断することは難しく、誤った判断で密封療法を行うと、症状を悪化させてしまうリスクがあります。

長時間使用の問題

密封療法を長時間行うと、上記のリスクがさらに高まります。一晩中ラップを巻いたまま寝る、日中も継続的に巻いているなどの使い方は、問題を起こしやすくなります。

医師が密封療法を指示する場合でも、通常は数時間程度に時間を区切り、定期的に外して皮膚の状態を確認するよう指導されます。

このように、ラップを巻くことにはステロイドの過剰吸収、蒸れによる細菌繁殖、接触性皮膚炎などのリスクがあり、自己判断での使用は危険を伴うとされています。

続いて、自己判断でラップを巻くことを避けるべき理由について見ていきましょう。

自己判断でラップを巻くことを避けるべき理由

アトピー性皮膚炎に対してラップを巻く密封療法を自己判断で行うことは、適切な判断が難しく、リスクを伴うため避けるべきとされています。

適切な判断が難しい

密封療法が適しているかどうかの判断は、専門的な知識が必要です。皮膚の状態、炎症の程度、感染の有無などを正確に評価した上で、密封療法が適切かどうかを判断する必要があります。

一見すると乾燥しているように見えても、実際には軽度の感染を起こしている場合もあります。そのような状態で密封すると、感染が悪化する可能性があります。

また、どの程度の効果が期待できるか、どのくらいのリスクがあるかを天秤にかけて判断することも、専門家でなければ難しいとされています。

外用薬の強さとの関係

密封療法を行う際は、使用する外用薬の強さを調整する必要があります。密封によりステロイドの吸収が大幅に高まるため、通常よりも弱めのステロイドを選択するのが一般的です。

しかし、処方されているステロイド外用薬を自己判断で密封して使用すると、意図せず強すぎる効果となり、副作用のリスクが高まります。

医師は、密封療法を行う場合には、それに適した強さの外用薬を選択したり、使用時間を調整したりします。このような調整なしに密封療法を行うことは危険です。

感染症がある場合の危険

皮膚に細菌感染や真菌感染がある状態で密封すると、感染が急速に悪化する可能性があります。感染症には、ステロイド外用薬ではなく、抗菌薬や抗真菌薬による治療が必要です。

感染の兆候(膿が出ている、黄色いかさぶたがある、強い痛みがある、熱を持っているなど)がある場合は、密封療法は禁忌とされています。

自分では感染を起こしているかどうかの判断が難しい場合も多く、これも自己判断で密封療法を行うべきでない理由の一つです。

医師の指導なしのリスク

インターネット上の情報だけを頼りに密封療法を行うことには、様々なリスクがあります。情報が不正確だったり、自分の症状には当てはまらなかったりする可能性があります。

「ラップを巻いたら良くなった」という体験談があっても、その方と自分の状態が同じとは限りません。また、一時的に良くなったように見えても、後で問題が起こることもあります。

医師の指導のもとで行う密封療法では、定期的に皮膚の状態をチェックし、問題があれば速やかに対応することができます。自己判断で行う場合は、このような安全網がありません。

このように、密封療法を自己判断で行うことは、適切な判断が難しく、外用薬の強さの調整ができず、感染症のリスクもあるため、避けるべきとされています。

次に、ラップ以外で保湿効果を高める方法について説明いたします。

ラップ以外で保湿効果を高める方法

アトピー性皮膚炎の保湿効果を高めるには、ラップを巻く以外にも適切な保湿剤の使用、入浴後のケア、綿手袋の活用など安全な方法があります。

適切な保湿剤の選択と塗り方

保湿効果を高めるためには、まず適切な保湿剤を選び、正しい方法で塗ることが基本です。

軟膏タイプの保湿剤は、油分が多く含まれており、皮膚の表面に保護膜を作って水分の蒸発を防ぐ効果が高いとされています。乾燥が強い部位には、軟膏タイプが適していることが多いです。

塗る量も重要です。薄く塗りすぎると効果が不十分になります。人差し指の先端から第一関節までの量で、手のひら2枚分の面積をカバーできるとされています。十分な量をしっかり塗ることで、保湿効果が向上します。

入浴後のケア

入浴後は、皮膚が水分を含んでいる状態です。この状態で速やかに保湿剤を塗ることで、水分を閉じ込めることができます。

入浴後5分以内、できれば3分以内に保湿剤を塗布することが推奨されます。時間が経つと、皮膚からの水分蒸発が進み、かえって乾燥してしまうことがあります。

浴室内や脱衣所で、身体を拭いたらすぐに保湿剤を塗るという習慣をつけると効果的です。

綿手袋や包帯の活用

掻破を防ぎつつ保湿効果を高めたい場合、綿手袋や包帯を活用する方法があります。これらはラップと違い、通気性があるため、蒸れによる問題が起こりにくいとされています。

手に保湿剤を塗った後に綿手袋を着用すると、保湿剤が衣類や寝具につくのを防ぎながら、保湿効果を持続させることができます。また、無意識に掻いてしまうことも防げます。

綿包帯を軽く巻くことで、腕や脚などの部位でも同様の効果が期待できます。ただし、きつく巻きすぎないよう注意が必要です。

医療用のドレッシング材

医療現場では、密封療法を行う際に、食品用のラップではなく、皮膚に使用することを想定した専用のドレッシング材が使用されることがあります。

フィルムドレッシング材は、薄くて透明なフィルムで、皮膚を保護しながら適度な透湿性を持っています。完全な密封ではないため、蒸れの問題が軽減されます。

ハイドロコロイドドレッシングなど、保湿効果を持つドレッシング材もあります。これらは、医師の指導のもとで使用することが推奨されます。

市販されているものもありますが、使用する場合は医師や薬剤師に相談して、適切な製品を選ぶことが大切です。

このように、ラップを巻く以外にも、適切な保湿剤の使用、入浴後のケア、綿手袋の活用、医療用ドレッシング材など、保湿効果を高める安全な方法があります。

最後に、ラップ療法を検討する場合に医療機関を受診すべき理由について説明いたします。

ラップ療法を検討する場合に医療機関を受診すべき理由

ラップを使った密封療法を検討する場合は、自己判断で行わず、医療機関を受診して医師の指導のもとで行うことが重要です。

医師の指導のもとで行う重要性

密封療法は、適切に使用すれば効果的な治療法となりますが、リスクも伴います。医師の指導のもとで行うことで、効果を最大限に引き出しながら、リスクを最小限に抑えることができます。

医師は、皮膚の状態を診察した上で、密封療法が適切かどうかを判断します。適切と判断された場合は、使用する外用薬の種類と強さ、密封する時間、どの部位に行うかなど、具体的な指導が行われます。

また、定期的に経過を確認し、問題があれば速やかに対応することができます。

適切な使用条件の判断

密封療法が効果を発揮するのは、特定の条件下です。すべての症状に適しているわけではなく、むしろ適さない場合に使用すると症状を悪化させる可能性があります。

角化が強い慢性的な症状、通常の外用療法で改善が見られない場合、手のひらや足の裏など皮膚が厚い部位などでは、密封療法が検討されることがあります。

一方、急性期の炎症が強い状態、じくじくした状態、感染を起こしている状態などでは、密封療法は適さないとされています。

これらの判断は専門的な知識が必要であり、医師による診察を受けることが重要です。

他の治療選択肢

密封療法を検討するほど症状が改善しない場合、他の治療選択肢についても相談することができます。

外用薬の種類や強さの見直し、塗り方や塗る量の確認、プロアクティブ療法(予防的な外用薬の使用)の導入、内服薬の追加など、様々な選択肢があります。

近年は、生物学的製剤(デュピルマブなど)やJAK阻害薬など、新しい治療薬も使用できるようになっています。従来の治療で十分な効果が得られない場合は、これらの治療についても相談することができます。

密封療法に頼らなくても、症状をコントロールできる方法が見つかる可能性があります。

安全な治療のために

アトピー性皮膚炎は長期間付き合う疾患であり、安全な方法で治療を続けることが重要です。自己判断で様々な方法を試すよりも、医師と相談しながら適切な治療を行う方が、結果的に良い状態を維持できることが多いとされています。

「ラップを巻いてみたいが、大丈夫だろうか」と思った時こそ、医療機関を受診するタイミングです。その方法が適切かどうか、他に良い方法はないか、医師に相談することで、安全で効果的な治療を受けることができます。

現在の治療で効果が不十分だと感じる場合も、遠慮せずに医師に伝えることが大切です。治療内容を見直すことで、改善が期待できる場合があります。

このように、ラップを使った密封療法を検討する場合は、自己判断で行わず、医療機関を受診して医師の指導のもとで安全に行うことが重要とされています。


※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。

監修医師

理事長・院長
今村 英利
Imamura Eli

略歴

2014年10月神戸大学博士課程入学
2019年3月博士課程卒業医師免許取得
2019年4月赤穂市民病院
2021年4月亀田総合病院
2022年1月新宿アイランド内科クリニック院長
2023年2月いずみホームケアクリニック