熱が出ると同時に全身の関節が痛くなったという経験をされたことはないでしょうか。
発熱と関節痛が一緒に現れると、身体を動かすのも辛く、非常に不快な状態になります。
この二つの症状が同時に起こる場合、どのような病気が考えられるのか気になることもあるでしょう。
インフルエンザや新型コロナウイルス感染症など、様々な疾患の可能性があります。
発熱と関節痛が同時に起こるメカニズムと対処法について、正しい知識を持つことが大切とされています。
発熱と関節痛が同時に起こる主な原因は?
発熱と関節痛が同時に起こる主な原因は、感染症による全身性の炎症反応であり、サイトカインという物質が両方の症状を引き起こすとされています。
全身性の炎症反応
発熱と関節痛が同時に現れる時、多くの場合、身体全体で炎症反応が起こっています。ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入すると、免疫システムが活性化され、全身性の炎症反応が引き起こされます。
この炎症反応は、病原体を排除するために必要な身体の防御機能ですが、同時に発熱や関節痛などの不快な症状を伴います。これらの症状は、病気と闘っている証拠とも言えます。
全身性の炎症反応が起こると、様々な臓器や組織に影響が及び、発熱だけでなく、関節痛、筋肉痛、頭痛、倦怠感などの全身症状が現れることが特徴です。
サイトカインの影響
発熱と関節痛の両方を引き起こす重要な物質が、サイトカインです。サイトカインは、免疫細胞が分泌する情報伝達物質で、炎症反応の調節に重要な役割を果たします。
インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-6(IL-6)、腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインは、発熱を引き起こすと同時に、関節や筋肉に痛みを生じさせます。
サイトカインは、脳の視床下部に作用して体温を上昇させます。また、関節や筋肉の組織に作用して、痛みや炎症を引き起こします。このため、発熱と関節痛が同時に起こるのです。
インフルエンザが代表的
発熱と関節痛が同時に起こる代表的な疾患は、インフルエンザです。インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる感染症で、38度以上の高熱と全身の関節痛や筋肉痛が特徴的な症状です。
インフルエンザウイルスに感染すると、強い免疫反応が起こり、大量のサイトカインが産生されます。このため、発熱と関節痛が顕著に現れます。
インフルエンザの関節痛は、特に背中、腰、膝、肩などに強く現れることが多く、「身体が痛くて動けない」と表現されるほどの痛みを伴うことがあります。
感染症による免疫反応
インフルエンザ以外にも、様々な感染症で発熱と関節痛が同時に起こることがあります。新型コロナウイルス感染症、溶連菌感染症、デング熱、チクングニア熱など、多くの感染症で両方の症状が見られます。
これらの感染症に共通するのは、病原体に対する免疫反応により、サイトカインが産生され、全身性の炎症反応が起こることです。病原体の種類や個人の免疫状態により、症状の程度は異なります。
このように、発熱と関節痛が同時に起こる原因は感染症による全身性の炎症反応であり、サイトカインが両方の症状を引き起こす鍵となる物質とされています。
続いて、発熱と関節痛を伴う代表的な疾患について見ていきましょう。
発熱と関節痛を伴う代表的な疾患
発熱と関節痛を伴う疾患としては、インフルエンザが最も代表的であり、新型コロナウイルス感染症、溶連菌感染症、膠原病など様々な疾患が考えられます。
インフルエンザ
インフルエンザは、発熱と関節痛を伴う最も典型的な疾患です。38度以上の高熱が急激に出現し、同時に全身の関節痛や筋肉痛が現れます。
インフルエンザの特徴は、症状の急激な発症です。数時間の間に急に高熱が出て、全身の痛みが強くなります。頭痛、倦怠感、悪寒も伴うことが多いとされています。
インフルエンザには季節性があり、日本では例年12月から3月頃に流行します。A型とB型があり、A型の方が症状が強い傾向があるとされています。
抗インフルエンザ薬(オセルタミビル、ザナミビルなど)は、発症後48時間以内に投与すると効果が高いため、早期の診断と治療が重要です。
新型コロナウイルス感染症
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)でも、発熱と関節痛が現れることがあります。ただし、インフルエンザほど関節痛が顕著でないことも多いとされています。
新型コロナウイルス感染症の特徴的な症状としては、発熱、咳、倦怠感、味覚・嗅覚障害などがあります。関節痛や筋肉痛も比較的多く見られる症状です。
オミクロン株以降は、症状が比較的軽い傾向がありますが、高齢者や基礎疾患のある方では重症化のリスクがあります。
その他の風邪症候群
普通の風邪(感冒)でも、発熱と関節痛が起こることがありますが、インフルエンザほど症状は強くないことが一般的です。
アデノウイルス、RSウイルスなど、様々なウイルスが風邪症候群を引き起こしますが、これらでも軽度から中等度の発熱と関節痛が見られることがあります。
溶連菌感染症
溶連菌(A群β溶血性レンサ球菌)による咽頭炎では、発熱と関節痛を伴うことがあります。特に、急性リウマチ熱という合併症では、発熱と関節の腫れや痛みが顕著に現れます。
溶連菌感染症は、抗生物質による治療が必要です。放置すると、腎炎やリウマチ熱などの合併症を起こす可能性があるため、早期の診断と治療が重要です。
関節リウマチなど膠原病
関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病でも、発熱と関節痛が同時に起こることがあります。これらは自己免疫疾患で、慢性的な経過をたどることが特徴です。
関節リウマチでは、朝のこわばり、複数の関節の対称性の腫れと痛みが特徴的です。微熱が続くこともあります。
膠原病による発熱と関節痛は、感染症と異なり、数週間から数ヶ月にわたって持続することがあります。
デング熱など他の感染症
海外渡航歴がある場合は、デング熱、チクングニア熱、マラリアなどの感染症も考慮する必要があります。
デング熱は、蚊を媒介とする感染症で、高熱と激しい関節痛・筋肉痛が特徴です。「骨折熱」と呼ばれるほど強い痛みを伴うことがあります。
このように、発熱と関節痛を伴う疾患はインフルエンザが最も代表的ですが、新型コロナウイルス感染症や溶連菌感染症、膠原病など様々な疾患が考えられます。
次に、発熱と関節痛を伴う症状の特徴と見分け方について説明いたします。
発熱と関節痛を伴う症状の特徴と見分け方
発熱と関節痛を伴う疾患を見分けるには、症状の現れ方、発症の急激さ、他の症状との組み合わせなどを総合的に判断することが重要です。
インフルエンザ特有の症状
インフルエンザの特徴は、症状の急激な発症です。朝は元気だったのに、昼過ぎには高熱と強い関節痛で動けなくなるといった急激な経過をたどります。
38度以上の高熱、全身の関節痛・筋肉痛、強い倦怠感、頭痛、悪寒が主な症状です。鼻水や咳などの呼吸器症状は、発症初期にはあまり目立たず、後から出てくることが多いとされています。
関節痛は、特に腰、背中、膝、肩などに強く現れ、「身体中が痛い」と表現されるような全身性の痛みが特徴的です。
新型コロナとの違い
新型コロナウイルス感染症も発熱と関節痛を伴いますが、インフルエンザとはいくつかの違いがあります。
新型コロナでは、味覚・嗅覚障害が特徴的な症状です。これはインフルエンザではあまり見られません。また、症状の発症はインフルエンザほど急激でなく、徐々に悪化することが多いとされています。
ただし、オミクロン株以降は症状がインフルエンザに似てきており、症状だけで区別することは困難になっています。確定診断には検査が必要です。
普通の風邪との違い
普通の風邪(感冒)とインフルエンザの最も大きな違いは、症状の強さと全身症状の有無です。
普通の風邪では、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、咳などの局所症状が主体で、発熱は37〜38度程度であることが多いとされています。関節痛があっても軽度です。
インフルエンザでは、38度以上の高熱と強い全身症状(関節痛、筋肉痛、倦怠感)が特徴的です。呼吸器症状は後から目立ってくることが多いとされています。
症状の現れ方と経過
症状の現れ方と経過も、疾患を見分ける手がかりになります。
インフルエンザは、急激に発症し、2〜3日で症状がピークに達し、その後徐々に改善していきます。全体の経過は1週間程度です。
膠原病による症状は、数週間から数ヶ月にわたって持続し、慢性的な経過をたどります。朝のこわばりが特徴的な場合もあります。
溶連菌感染症では、咽頭痛が強く、扁桃に白苔(白い膜)が見られることがあります。
他の症状との組み合わせ
発熱と関節痛以外の症状も、診断の手がかりになります。
発疹を伴う場合は、溶連菌感染症、デング熱、風疹などが考えられます。咽頭痛が強い場合は、溶連菌感染症やアデノウイルス感染症の可能性があります。
味覚・嗅覚障害がある場合は、新型コロナウイルス感染症の可能性が高まります。海外渡航歴がある場合は、デング熱などの輸入感染症も考慮する必要があります。
このように、発熱と関節痛を伴う疾患を見分けるには、症状の発症様式、他の症状との組み合わせ、経過などを総合的に判断することが重要とされています。
続いて、発熱と関節痛がある時の適切な対処法について見ていきましょう。
発熱と関節痛がある時の適切な対処法
発熱と関節痛がある時は、安静と水分補給を基本とし、解熱鎮痛剤を適切に使用しながら、身体を休めることが重要です。
安静と休養
発熱と関節痛がある時は、身体が病原体と闘っている状態です。無理をせず、十分な休養を取ることが最も重要です。
学校や仕事は休み、できるだけ安静にして睡眠を十分に取ることが推奨されます。無理に活動すると、症状が長引いたり悪化したりする可能性があります。
また、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などの感染症の場合、他の人に感染を広げるリスクもあるため、外出を控えることが大切です。
水分補給の重要性
発熱時には、発汗や呼吸により通常より多くの水分が失われます。脱水を防ぐために、こまめな水分補給が非常に重要です。
水、麦茶、経口補水液、スポーツドリンクなど、飲みやすいものを少量ずつ頻繁に摂取します。一度に大量に飲むよりも、少量をこまめに飲む方が吸収されやすいとされています。
食欲がない場合でも、水分だけは必ず摂取するよう心がけることが大切です。尿の色が濃くなっている場合は、脱水の兆候です。
解熱鎮痛剤の使用
発熱と関節痛の両方を和らげるために、解熱鎮痛剤の使用が有効です。アセトアミノフェン、イブプロフェン、ロキソプロフェンなどが使用されます。
一般的に、38.5度以上の発熱があり、症状が辛い場合に使用が検討されます。解熱鎮痛剤は、熱を下げるだけでなく、関節痛や筋肉痛、頭痛なども軽減する効果があります。
ただし、解熱剤は病気を治すものではなく、症状を一時的に和らげるものです。使用方法や使用間隔については、添付文書や医師・薬剤師の指示に従うことが重要です。
身体を温めるべきか冷やすべきか
発熱時の身体の温め方、冷やし方には注意が必要です。
寒気がして震えている時は、身体が体温を上げようとしている段階です。この時は無理に冷やさず、むしろ温かくして、震えが止まるまで待つことが推奨されます。
震えが止まり、熱が上がりきって暑く感じる時は、冷やすと楽になります。額、首の両側、脇の下、鼠径部などを冷やすと効果的です。
関節痛に対しては、温めることで血行が良くなり、痛みが和らぐこともあります。ただし、炎症が強い場合は冷やす方が良いこともあるため、ご相談ください。
栄養補給
食欲がある場合は、消化の良いものを食べることが推奨されます。おかゆ、うどん、バナナ、ヨーグルトなど、胃腸に負担をかけないものが適しています。
ビタミンCやビタミンB群など、免疫機能のサポートに役立つ栄養素を含む食品を摂取することも良いとされています。
ただし、無理に食べる必要はありません。食欲がない場合は、水分補給を優先し、食べられるものを少量ずつ摂取する程度で構いません。
このように、発熱と関節痛がある時は、安静と水分補給を基本とし、解熱鎮痛剤を適切に使用しながら身体を休めることが重要とされています。
次に、発熱と関節痛がある時に避けるべきことについて説明いたします。
発熱と関節痛がある時に避けるべきこと
発熱と関節痛がある時には、無理な活動、不適切な薬の使用、アルコール摂取など、避けるべき行動がいくつかあります。
無理な活動や出勤
発熱と関節痛がある時に最も避けるべきことは、無理をして活動したり出勤したりすることです。
身体が休養を必要としているサインを無視して活動すると、症状が長引いたり悪化したりする可能性があります。また、体力が低下している状態で無理をすると、肺炎などの合併症を起こすリスクも高まります。
インフルエンザなどの感染症の場合、他の人に感染を広げてしまうリスクもあります。特に学校や職場など、人が集まる場所への外出は控えることが重要です。
不適切な薬の使用
解熱鎮痛剤を使用する際は、用法・用量を守ることが重要です。効果がないからといって、勝手に量を増やしたり、使用間隔を短くしたりすることは避けるべきです。
複数の解熱鎮痛剤を同時に使用することも危険です。市販の総合感冒薬と解熱鎮痛剤を一緒に飲むと、同じ成分を重複して摂取してしまう可能性があります。
インフルエンザが疑われる場合、アスピリンやジクロフェナクなどの一部の解熱鎮痛剤は、ライ症候群や脳症のリスクがあるため避けるべきとされています。特に小児では注意が必要です。
入浴の注意点
高熱がある時に熱いお風呂に入ることは、体力を消耗させ、脱水を悪化させる可能性があるため避けるべきです。
シャワーで軽く汗を流す程度なら問題ありませんが、長時間の入浴は控えることが推奨されます。入浴後は十分に水分補給を行うことが大切です。
関節痛がある時は、温めると楽になることもありますが、高熱がある状態での入浴は身体への負担が大きいため、注意が必要です。
アルコール摂取
アルコールの摂取は、発熱時には避けるべきです。アルコールは脱水を悪化させ、免疫機能を低下させる可能性があります。
また、解熱鎮痛剤とアルコールを同時に摂取すると、胃腸障害や肝障害のリスクが高まることがあります。
病気の回復を早めるためにも、アルコールは控えることが推奨されます。
自己判断での抗生物質使用
インフルエンザや普通の風邪など、ウイルス性の感染症には抗生物質は効果がありません。自己判断で抗生物質を使用することは避けるべきです。
抗生物質の不適切な使用は、薬剤耐性菌を生む原因となり、将来的に必要な時に抗生物質が効かなくなるリスクがあります。
抗生物質が必要かどうかは、医師が診察した上で判断します。発熱と関節痛があっても、必ずしも抗生物質が必要とは限りません。
このように、発熱と関節痛がある時には、無理な活動、不適切な薬の使用、アルコール摂取などを避け、適切な休養と対処を行うことが重要とされています。
最後に、発熱と関節痛で医療機関を受診すべきタイミングについて説明いたします。
発熱と関節痛で医療機関を受診すべきタイミング
発熱と関節痛がある場合、インフルエンザなどの感染症の可能性があるため、早めの受診が推奨され、特に重症化のサインがある時は速やかな受診が必要です。
早期受診が推奨される場合
発熱と関節痛がある場合、インフルエンザやその他の感染症の可能性があるため、できるだけ早めに医療機関を受診することが推奨されます。
特に、38度以上の高熱と強い関節痛が急激に現れた場合は、インフルエンザの可能性が高いため、早期の受診と診断が重要です。
高齢者、乳幼児、妊婦、基礎疾患(糖尿病、心疾患、呼吸器疾患など)がある方は、重症化のリスクが高いため、より早めの受診が推奨されます。
インフルエンザ検査のタイミング
インフルエンザの検査は、発症後12〜24時間以降に行うと、より正確な結果が得られるとされています。発症直後は、ウイルス量が少なく偽陰性となる可能性があります。
ただし、抗インフルエンザ薬は発症後48時間以内に投与すると効果が高いため、症状が強い場合は早めに受診することが重要です。検査結果が陰性でも、臨床症状からインフルエンザと診断され、治療が開始されることもあります。
重症化のサイン
以下のような症状がある場合は、重症化の可能性があるため、速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
呼吸困難(息が苦しい、呼吸が早い)、胸痛、意識障害(呼びかけに反応しない、もうろうとしている)、けいれん、激しい頭痛と嘔吐、水分が全く取れない、尿が出ないなどです。
インフルエンザでは、肺炎、脳症、心筋炎などの重篤な合併症を起こすことがあります。これらの早期発見のためにも、重症化のサインには注意が必要です。
年齢別の注意点
小児では、インフルエンザ脳症のリスクがあります。けいれん、意識障害、異常行動(急に走り出す、飛び降りようとするなど)が見られた場合は、緊急受診が必要です。
高齢者では、肺炎などの合併症を起こしやすく、症状が非典型的なこともあります。食欲がない、元気がない、意識がはっきりしないなどの症状があれば、早めの受診が推奨されます。
妊婦は、インフルエンザが重症化しやすいため、発熱と関節痛がある場合は早めに受診することが重要です。
緊急受診が必要な症状
以下のような症状がある場合は、緊急性が高く、速やかに医療機関を受診する、または救急車を呼ぶことが推奨されます。
意識障害、けいれんが続く、呼吸困難(唇が紫色になる)、胸痛、激しい頭痛と嘔吐、水分が全く取れず尿が出ない、ぐったりして反応が悪いなどです。
夜間や休日に症状が出た場合、緊急性の判断に迷うことがあります。多くの自治体では、夜間の医療相談窓口や、小児救急電話相談(#8000)などが設けられています。判断に迷う場合は、これらを利用することも一つの方法です。
このように、発熱と関節痛がある場合は感染症の可能性があるため早めの受診が推奨され、重症化のサインがある時や年齢によるリスクを考慮して、適切なタイミングで医療機関を受診することが重要とされています。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
| 2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
| 2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
| 2019年4月 | 赤穂市民病院 |
| 2021年4月 | 亀田総合病院 |
| 2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
| 2023年2月 | いずみホームケアクリニック |



