発熱している時に車を運転しても良いのか迷われることはないでしょうか。
病院への受診や仕事の都合で、どうしても車での移動が必要な状況もあるかもしれません。
しかし、このような時の行為は判断力や集中力の低下により、重大な事故につながる危険性があります。
また、道路交通法上も問題となる可能性があり、法律違反となる場合もあります。
発熱時の運転が危険な理由と、適切な判断基準を理解しておくことが重要とされています。
発熱時の運転が危険な理由とは?
発熱時の運転が危険な理由は、判断力・集中力の低下、反応速度の低下、意識障害のリスク、体調急変の可能性などが挙げられます。
判断力・集中力の低下
発熱時には、脳の機能が低下し、判断力や集中力が大きく低下します。体温が1度上昇すると、認知機能に影響が出始めるとされています。
運転中には、瞬時に状況を判断し、適切な行動を取る必要があります。歩行者の飛び出し、前方車両の急ブレーキ、信号の変化など、様々な情報を処理しなければなりません。
発熱により判断力が低下すると、危険を察知するのが遅れたり、不適切な判断をしたりする可能性が高まります。集中力が低下すると、ぼんやりして信号を見落としたり、前方車両との車間距離を適切に保てなくなったりします。
特に、38度以上の発熱では、認知機能の低下が顕著になるとされています。
反応速度の低下
発熱時には、身体の反応速度も低下します。危険を認識してから、ブレーキを踏むまでの時間が長くなります。
通常、危険を認識してから実際にブレーキを踏むまでには、約0.7〜1秒かかるとされています。この時間を「空走時間」と呼びます。発熱により反応速度が低下すると、空走時間が長くなり、制動距離が伸びます。
時速60kmで走行している場合、反応が0.5秒遅れると、約8メートル余分に進んでしまいます。この差が、事故を回避できるかどうかの分かれ目になることがあります。
全身の倦怠感や筋肉痛により、ハンドル操作やペダル操作も鈍くなる可能性があります。
意識障害のリスク
高熱(特に39度以上)では、意識レベルが低下するリスクがあります。意識がもうろうとする、ぼんやりする、集中できないなどの症状が現れることがあります。
運転中に意識レベルが低下すると、非常に危険です。一瞬でも意識を失えば、重大な事故につながります。
また、発熱により脱水が進むと、めまいや立ちくらみが起こりやすくなります。運転中にめまいが起こると、適切な操作ができなくなります。
高齢者や基礎疾患のある方では、発熱により意識障害を起こすリスクがさらに高くなります。
視覚・聴覚への影響
発熱時には、視覚や聴覚にも影響が出ることがあります。
目がかすむ、視界がぼやける、光がまぶしく感じるなどの視覚症状が現れることがあります。これらは、安全な運転に必要な視覚情報の取得を妨げます。
頭痛や耳鳴りにより、周囲の音が聞こえにくくなることもあります。救急車のサイレンや、他の車のクラクションに気づかない可能性があります。
発熱に伴う全身症状により、五感が鈍くなり、運転に必要な情報を適切に取得できなくなります。
体調急変の可能性
発熱時には、体調が急変するリスクがあります。
運転中に急に高熱が出る、けいれんを起こす、吐き気が強くなって嘔吐する、意識を失うなどの可能性があります。これらは、運転中であれば重大な事故につながります。
特に、インフルエンザなどの感染症では、症状が急激に悪化することがあります。朝は微熱程度でも、数時間後には39度以上の高熱になることもあります。
このように、発熱時の運転が危険な理由は、判断力・集中力の低下、反応速度の低下、意識障害のリスク、体調急変の可能性など、多岐にわたるとされています。
続いて、発熱時の運転と道路交通法について見ていきましょう。
発熱時の運転と道路交通法
発熱時の運転は、道路交通法上「正常な運転ができない状態」に該当する可能性があり、法律違反となる場合があります。
正常な運転ができない状態
道路交通法第66条では、「何人も、前条第一項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない」と定められています。
発熱は「病気」に該当し、高熱により判断力や集中力が低下している状態は、「正常な運転ができないおそれがある状態」と解釈される可能性があります。
「正常な運転ができない状態」とは、アルコールや薬物の影響だけでなく、病気や過労により安全な運転に支障をきたす状態を指します。
過労運転等の禁止規定
道路交通法では、過労運転等の禁止が明確に規定されています。違反した場合、罰則が科される可能性があります。
具体的には、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。また、違反点数として25点(酒気帯び運転等と同等)が付され、免許取消処分となります。
ただし、実際には発熱だけで直ちに検挙されるわけではありません。事故を起こしたり、明らかに異常な運転をしたりした場合に、発熱が「正常な運転ができない状態」の原因として認定される可能性があります。
法律違反となる可能性
発熱により以下のような状態で運転した場合、法律違反となる可能性があります。
高熱(39度以上)で意識がもうろうとしている状態での運転、発熱により何度もふらついたり、蛇行運転をしたりしている、発熱で眠気が強く、居眠り運転をしている、解熱鎮痛剤や風邪薬を服用し、眠気がある状態での運転などです。
特に、薬の添付文書に「服用後は運転しないこと」と記載されている場合、それに従わずに運転すると、明確な法律違反となります。
事故を起こした場合の責任
発熱時に運転して事故を起こした場合、通常の事故よりも重い責任を問われる可能性があります。
「正常な運転ができない状態」で運転していたと判断されると、過失割合が大きくなり、損害賠償額が増える可能性があります。刑事責任も重くなり、懲役刑が科される可能性も高まります。
また、「体調不良を自覚していたにもかかわらず運転した」という事実は、過失の程度を重くする要素として考慮されます。
保険適用への影響
発熱時の運転により事故を起こした場合、自動車保険の適用にも影響する可能性があります。
任意保険では、「正常な運転ができない状態」での運転により事故を起こした場合、保険金の支払いが制限されることがあります。特に、薬の服用により眠気がある状態での運転は、重大な過失とみなされる可能性が高いとされています。
自賠責保険は適用されますが、任意保険が適用されないと、高額な賠償金を自己負担しなければならない可能性があります。
このように、発熱時の運転は道路交通法上「正常な運転ができない状態」に該当する可能性があり、法律違反、重い刑事責任、保険適用への影響などのリスクがあるとされています。
次に、発熱時の薬と運転の関係について説明いたします。
発熱時の薬と運転の関係
発熱時に服用する薬の多くは、眠気やめまいなどの副作用があり、運転への影響が大きいため注意が必要です。
解熱鎮痛剤による眠気
解熱鎮痛剤の中には、眠気を引き起こすものがあります。
アセトアミノフェン単剤では、眠気の副作用は比較的少ないとされています。しかし、イブプロフェンやロキソプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬では、めまいや眠気が起こることがあります。
特に、鎮痛補助成分としてカフェインやアリルイソプロピルアセチル尿素などが配合されている製品では、これらの成分が眠気を引き起こすことがあります。
解熱鎮痛剤を服用した後は、少なくとも30分〜1時間は運転を避けることが推奨されます。
風邪薬の抗ヒスタミン薬
市販の風邪薬や総合感冒薬の多くには、抗ヒスタミン薬が配合されています。抗ヒスタミン薬は、鼻水やくしゃみを抑える効果がありますが、強い眠気を引き起こす副作用があります。
第一世代の抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミンなど)は、特に眠気が強いとされています。これらが配合された風邪薬には、「服用後は乗物または機械類の運転操作をしないこと」という注意書きが記載されています。
抗ヒスタミン薬による眠気は、服用後数時間続くことがあります。一般的には、服用後4〜6時間は運転を避けることが推奨されます。
咳止め薬の影響
咳止め薬に含まれる成分も、運転に影響を与えることがあります。
コデインやジヒドロコデインなどの麻薬性鎮咳薬は、中枢神経を抑制し、眠気やめまいを引き起こします。これらの成分が含まれる咳止め薬を服用した後は、運転を避けるべきです。
デキストロメトルファンなどの非麻薬性鎮咳薬でも、眠気やふらつきが起こることがあります。
服用後の運転禁止期間
薬を服用した後、どのくらいの時間運転を避けるべきかは、薬の種類によって異なります。
抗ヒスタミン薬を含む風邪薬では、服用後4〜6時間は運転を避けることが推奨されます。咳止め薬(コデイン含有)では、服用後6〜8時間は運転を避けるべきです。
解熱鎮痛剤単剤(アセトアミノフェンなど)では、眠気がなければ服用後1時間程度で運転可能な場合もありますが、個人差があります。
いずれの場合も、眠気やめまいを感じる場合は、時間に関係なく運転を避けることが重要です。
運転可能な薬の選択
どうしても運転が必要な場合は、運転への影響が少ない薬を選択することができます。
解熱鎮痛剤では、アセトアミノフェン単剤が比較的安全とされています。ただし、個人差があるため、初めて服用する場合は注意が必要です。
風邪薬では、抗ヒスタミン薬が含まれていない製品を選ぶことができます。ただし、このような製品は限られており、症状に対する効果も異なります。
最も安全な方法は、薬を服用する場合は運転を避け、代替手段を利用することです。やむを得ず運転が必要な場合は、医師や薬剤師に相談して、運転への影響が少ない薬を処方してもらうことが推奨されます。
このように、発熱時に服用する薬の多くは眠気やめまいなどの副作用があり、運転への影響が大きいため、服用後の運転禁止期間を守ることが重要とされています。
続いて、運転を避けるべき発熱の基準について見ていきましょう。
運転を避けるべき発熱の基準
運転を避けるべき発熱の基準としては、38度以上の発熱、または発熱の程度に関わらず全身状態が悪い場合が挙げられます。
38度以上の発熱
一般的に、38度以上の発熱がある場合は、運転を避けることが強く推奨されます。
38度以上の発熱では、判断力や集中力が明らかに低下し、安全な運転に支障をきたす可能性が高いとされています。また、体調が急変するリスクも高まります。
37度台の微熱でも、普段の平熱と比べて明らかに高く、体調不良を感じる場合は、運転を避けるべきです。平熱が低い方では、37度台でも身体にとっては高熱となることがあります。
発熱の程度より全身状態
体温の数値よりも、全身状態の方が重要です。微熱でも以下のような症状がある場合は、運転を避けるべきです。
強い倦怠感やだるさがある、めまいや立ちくらみがする、頭痛が強い、集中力が低下していると感じる、視界がぼやける、身体がふらつく、吐き気があるなどです。
これらの症状は、安全な運転を妨げる要因となります。自分で「運転できる状態ではない」と感じる場合は、体温に関わらず運転を避けることが大切です。
めまいや倦怠感を伴う場合
発熱に伴うめまいや倦怠感は、運転にとって特に危険な症状です。
めまいがあると、車両感覚が正確に把握できず、車線からはみ出したり、他の車との距離感を誤ったりする可能性があります。また、急に強いめまいに襲われると、運転操作ができなくなります。
強い倦怠感により、集中力が続かず、ぼんやりして前方の車両に追突したり、信号を見落としたりするリスクが高まります。
薬を服用している場合
解熱鎮痛剤、風邪薬、咳止め薬などを服用している場合は、体温や症状に関わらず、運転を避けることが推奨されます。
薬の添付文書や外箱に「服用後は乗物または機械類の運転操作をしないこと」と記載されている場合は、必ず従う必要があります。これは法律上も重要です。
記載がない薬でも、眠気やめまいなどの副作用が起こる可能性があるため、服用後は注意が必要です。
年齢や基礎疾患の考慮
年齢や基礎疾患によって、発熱が運転に与える影響は異なります。
高齢者は、発熱による身体への影響が大きく、意識レベルの低下や脱水が起こりやすいとされています。微熱でも運転を避けることが推奨されます。
糖尿病、心疾患、呼吸器疾患などの基礎疾患がある方も、発熱により基礎疾患が悪化したり、体調が急変したりするリスクが高いため、慎重な判断が必要です。
このように、運転を避けるべき発熱の基準としては、38度以上の発熱、めまいや倦怠感などの全身症状がある場合、薬を服用している場合などが挙げられるとされています。
次に、やむを得ず運転が必要な場合の対処法について説明いたします。
やむを得ず運転が必要な場合の対処法
やむを得ず運転が必要な場合は、まず代替手段を検討し、それでも必要であれば短距離・短時間に限定し、安全対策を十分に講じることが重要です。
代替手段の検討
まず、本当に自分で運転する必要があるのか、代替手段がないかを検討することが重要です。
タクシーやライドシェアサービスを利用する、家族や友人に運転を頼む、公共交通機関(バス、電車)を利用する、病院であればオンライン診療を利用する、宅配サービスを利用するなどの方法があります。
救急車を呼ぶべきか判断に迷う場合は、救急安心センター事業(#7119)に相談することができます。緊急性が高いと判断されれば、救急車の利用が適切です。
代替手段を利用することで、自分自身の安全だけでなく、他の道路利用者の安全も守ることができます。
短距離・短時間に限定
どうしても自分で運転しなければならない場合は、できるだけ短距離・短時間に限定します。
近所のコンビニや薬局など、徒歩では厳しいが数分の運転で済む距離であれば、リスクを最小限に抑えられます。高速道路や幹線道路など、長距離・高速での運転は避けるべきです。
運転時間は、可能な限り短くします。10分以内の運転であれば、比較的安全ですが、それでも体調や症状によっては危険です。
休憩の取り方
短距離であっても、途中で休憩を取ることが大切です。
少しでも眠気やめまい、集中力の低下を感じたら、すぐに安全な場所に停車して休憩します。コンビニや道の駅、パーキングエリアなどを利用します。
休憩中は、窓を開けて換気する、深呼吸をする、軽いストレッチをする、水分補給をするなどの方法で、気分をリフレッシュします。
ただし、休憩しても体調が回復しない場合は、運転を中止して、家族や友人に迎えに来てもらうか、タクシーを呼ぶことが推奨されます。
同乗者の確保
可能であれば、同乗者を確保することが望ましいとされています。
同乗者がいれば、運転者の体調を観察し、異常があればすぐに運転を交代したり、停車を促したりすることができます。また、万が一事故が起こった場合も、同乗者が救助を呼ぶことができます。
同乗者には、運転者の体調が悪いことを伝え、常に注意を払ってもらうことが重要です。
緊急時の対応準備
運転中に体調が急変した場合の対応を、事前に準備しておくことが大切です。
携帯電話を手の届く場所に置き、緊急連絡先を登録しておく、可能であれば運転ルートを家族に知らせておく、水や飲み物、薬、保険証などを車内に用意しておくなどの準備が推奨されます。
運転中に強い眠気や意識の低下を感じたら、直ちに安全な場所に停車し、家族や救急に連絡することが重要です。
このように、やむを得ず運転が必要な場合は、まず代替手段を検討し、それでも必要であれば短距離・短時間に限定し、同乗者の確保や緊急時の準備など、安全対策を十分に講じることが重要とされています。
最後に、発熱後の運転再開のタイミングについて説明いたします。
発熱後の運転再開のタイミング
発熱後の運転再開は、解熱してから少なくとも24時間以上経過し、薬の服用を終了し、全身状態が回復してから段階的に行うことが推奨されます。
解熱してから24時間以上
熱が下がったからといって、すぐに運転を再開することは避けるべきです。身体はまだ完全には回復していません。
一般的には、解熱後少なくとも24時間は様子を見ることが推奨されます。この期間は、再発熱がないか、他の症状(倦怠感、めまいなど)が改善しているかを確認します。
インフルエンザなどの感染症では、解熱後も数日間は体力が低下しており、集中力や判断力が完全には回復していない可能性があります。
薬の服用終了を確認
解熱鎮痛剤、風邪薬、抗生物質など、運転に影響する可能性のある薬の服用を完全に終了してから、運転を再開することが重要です。
特に、抗ヒスタミン薬を含む風邪薬や、咳止め薬(コデイン含有)を服用している間は、運転を避けるべきです。最後の服用から少なくとも6〜8時間(薬の種類による)経過してから、運転を検討します。
解熱鎮痛剤のみの場合は、服用から数時間後であれば運転可能な場合もありますが、眠気やめまいがないことを確認することが重要です。
全身状態の回復
体温が平熱に戻り、薬の服用を終了していても、全身状態が回復しているかを確認することが大切です。
倦怠感がない、めまいや立ちくらみがない、集中力が戻っている、視界がクリアである、食欲が戻っている、十分な睡眠が取れているなどが、回復のサインです。
高熱(39度以上)が数日間続いた場合や、重症の感染症(肺炎など)だった場合は、体力の回復に時間がかかるため、より長い期間休養することが推奨されます。
集中力のテスト
運転を再開する前に、集中力や反応速度が回復しているかを確認することができます。
簡単な方法としては、テレビゲームやスマートフォンのアプリなどで、反応速度や集中力を要するゲームをしてみることです。普段通りのパフォーマンスができるかを確認します。
また、家族や友人に協力してもらい、簡単な質問に素早く答える、指示に従って動くなどのテストを行うこともできます。
段階的な運転再開
運転を再開する際は、いきなり長距離や高速道路を運転するのではなく、段階的に再開することが推奨されます。
最初は、近所への短距離運転から始めます。5〜10分程度の運転で、体調に問題がないかを確認します。問題がなければ、徐々に運転距離や時間を延ばしていきます。
高速道路や長距離運転は、完全に体調が回復し、通常の運転に問題がないことを確認してから行います。通勤など、毎日の運転が必要な場合も、最初の数日間は特に注意を払うことが大切です。
もし、運転中に少しでも体調不良を感じたら、すぐに安全な場所に停車して休憩することが重要です。
このように、発熱後の運転再開は、解熱後少なくとも24時間以上経過し、薬の服用を終了し、全身状態が回復したことを確認してから、段階的に行うことが推奨されるとされています。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
| 2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
| 2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
| 2019年4月 | 赤穂市民病院 |
| 2021年4月 | 亀田総合病院 |
| 2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
| 2023年2月 | いずみホームケアクリニック |



