風邪で下痢になるのはなぜ?腸症状の原因と回復への道筋について

風邪

風邪をひいた際に「下痢が続く」「お腹の調子が悪い」といった経験をされた方は多いのではないでしょうか。

風邪による下痢の症状は、ウイルス感染の影響や免疫反応による腸内環境の変化、薬剤の副作用などによって生じる可能性があるとされています。

風邪で下痢になる症状は身体の自然な反応の一つと考えられていますが、症状の程度や持続期間には個人差があります。

適切な水分補給と食事調整により症状の軽減が期待できる場合がありますが、脱水や電解質異常を伴う場合や長期間続く場合には、専門的な判断が重要とされています。

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風邪で下痢になるのはなぜ?腸症状が生じる原因とメカニズム

風邪で下痢が生じる背景には、ウイルス感染による腸への直接的影響、免疫反応による腸内環境の変化、薬剤による胃腸への影響、食事摂取量の変化といった複数の要因が関与しているとされています。

ウイルス感染による腸への直接的影響について、風邪の原因となるウイルス(ライノウイルス、アデノウイルス、RSウイルスなど)の一部は、呼吸器だけでなく消化管にも感染することが知られています。これらのウイルスが腸粘膜に感染すると、腸管の炎症を引き起こし、水分や電解質の吸収能力が低下する可能性があります。また、腸管の蠕動運動が亢進することで、下痢症状が現れるとされています。

免疫反応による腸内環境の変化も重要な要因です。風邪ウイルスと闘うために活性化された免疫システムは、サイトカインと呼ばれる炎症性物質を放出します。これらのサイトカインは全身に作用し、腸管にも影響を与えることで腸内細菌叢のバランスが乱れ、消化機能の低下や下痢を引き起こす可能性があるとされています。特にインターロイキン-1やTNF-αなどは、腸管の炎症反応を促進する作用があります。

薬剤による胃腸への影響では、風邪薬に含まれる抗生物質が腸内細菌叢を変化させ、下痢を引き起こす場合があります。また、解熱鎮痛剤や咳止め薬なども、種類によっては胃腸症状を副作用として持つものがあるとされています。食事摂取量の変化と消化機能の低下では、風邪による食欲不振や発熱により、普段とは異なる食事パターンとなることで、腸内環境が変化し下痢につながる可能性があります。

このように、ウイルス感染の直接作用、免疫システムの活動、薬剤の影響、食事パターンの変化などが相互に作用して腸症状が引き起こされます。

続いて、風邪による下痢の具体的な特徴について見ていきましょう。

風邪による下痢の特徴と他の症状との関連

風邪に伴う下痢症状には、比較的軽度で一過性という特徴があり、急性胃腸炎による激しい下痢とは異なる症状パターンを示すとされています。

下痢症状の現れ方の特徴として、1日数回程度の軟便から水様便が数日間続くことが多く、激しい腹痛や血便を伴うことは稀とされています。症状は風邪の初期から中期にかけて現れることが多く、発熱や鼻水、咳などの典型的な風邪症状と並行して発症する傾向があります。また、食事摂取により症状が悪化することがあり、特に脂っこい食事や刺激物の摂取後に下痢が強くなる場合があるとされています。

他の風邪症状との関連では、発熱の程度と下痢の頻度が相関することが多いとされています。熱が高いほど腸の炎症反応も強くなる傾向があり、解熱と共に下痢症状も改善する場合があります。鼻づまりや咳による睡眠不足は消化機能の低下につながり、下痢を悪化させる可能性があります。全身の倦怠感や食欲不振と下痢が同時に現れることも多く、これらの症状は相互に影響し合うとされています。

症状の経過については、風邪の回復と共に徐々に改善する傾向があります。通常は3〜7日程度で正常な便性に戻ることが多いとされていますが、腸内細菌叢の回復には時間がかかるため、他の風邪症状が改善した後も軽度の軟便が続く場合があります。高齢者や免疫力の低下した方では、症状の回復により長い期間を要する可能性があります。

このような比較的軽度で一過性の下痢症状の特徴を理解することで、適切な対応が可能になります。

次に、これらの症状に対する適切な対処法について説明いたします。

風邪で下痢になった時の対処法と日常生活での工夫

風邪による下痢への対応では、十分な水分・電解質の補給、消化に優しい食事内容への調整、薬剤使用時の慎重な判断が効果的なアプローチとされています。

水分・電解質補給の重要性について、下痢により失われた水分と電解質を適切に補うことが最も重要とされています。経口補水液や薄めたスポーツドリンクなどを少量ずつ頻回に摂取することが推奨されます。一度に大量の水分を摂取すると下痢を悪化させる可能性があるため、コップ半分程度の量を30分〜1時間おきに摂取することが効果的です。カフェインやアルコールは脱水を促進する可能性があるため、避けることが大切です。

食事内容の調整方法では、消化に良く腸に負担をかけない食事を心がけることが重要です。おかゆ、うどん、バナナ、リンゴのすりおろしなどの BRAT食品(バナナ、米、リンゴ、トースト)が推奨されます。脂肪分の多い食事、乳製品、刺激の強い食べ物、食物繊維の多い食品は一時的に控えることが効果的とされています。少量ずつ頻回に摂取し、胃腸への負担を軽減することが大切です。

薬剤使用時の注意点では、市販の下痢止めの使用については慎重な判断が必要です。ウイルスや細菌を体外に排出するための自然な反応として下痢が起こっている可能性があるため、安易に下痢を止めることは回復を遅らせる場合があります。風邪薬を服用している場合には、胃腸症状の副作用がないか確認し、必要に応じて薬剤の調整についてご相談いただくことが推奨されます。

このような十分な水分・電解質の補給、消化に優しい食事への調整、慎重な薬剤使用といった対応方法の詳細については、個人の状況を考慮してご相談ください。

続いて、風邪以外で下痢が続く場合の可能性について見ていきましょう。

風邪以外で下痢が続く場合の可能性

下痢症状を引き起こす要因は風邪以外にも感染性胃腸炎、機能性消化管疾患、炎症性腸疾患など多岐にわたるため、総合的な視点からの原因検討が必要とされています。

感染性胃腸炎との鑑別について、ノロウイルス、ロタウイルス、サルモネラ菌、カンピロバクターなどによる胃腸炎では、風邪による下痢よりも激しい症状を示すことが多いとされています。突然の激しい下痢、嘔吐、腹痛、発熱が同時に現れ、脱水症状も重篤になりやすい特徴があります。食中毒の場合には、同じ食事を摂取した他の人にも同様の症状が現れることがあります。

消化器疾患による下痢として、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、吸収不良症候群などが考えられます。過敏性腸症候群では慢性的な下痢と便秘を繰り返し、ストレスにより症状が悪化することが特徴です。炎症性腸疾患では血便や粘血便を伴うことが多く、体重減少や栄養障害を来す場合があります。吸収不良症候群では脂肪便や栄養素の欠乏症状を伴うことがあるとされています。

その他の原因として、薬剤性下痢(抗生物質、制酸剤、人工甘味料など)、内分泌疾患(甲状腺機能亢進症、糖尿病など)、悪性腫瘍、膠原病なども下痢の原因となる可能性があります。また、食物アレルギーや食物不耐症、ストレスによる機能性下痢なども考慮すべき要因です。高齢者では薬剤の副作用や基礎疾患の影響を受けやすいため、特に注意が必要とされています。

このように感染性胃腸炎、機能性消化管疾患、炎症性腸疾患など多岐にわたる原因が考えられるため、風邪以外の可能性についても総合的な評価が重要です。

最後に、医療機関を受診すべきタイミングについて説明いたします。

異常な下痢症状で医療機関を受診すべきタイミング

医療機関での相談が必要な下痢症状かどうかは、症状の重症度、継続期間、併発症状、脱水の程度を多角的に検討して判断することが大切とされています。

早急な受診を検討すべき症状として、血便や粘血便を伴う下痢、激しい腹痛、持続的な嘔吐、高熱(38.5度以上)を伴う下痢があります。また、脱水症状(口の渇き、尿量減少、めまい、頻脈など)が現れた場合や、1日10回以上の頻回な下痢が続く場合には緊急性が高いとされています。意識障害や強い脱力感を伴う場合、乳幼児や高齢者での急激な状態変化も早急な対応が必要です。

継続的な観察が必要なケースでは、風邪症状が完全に回復したにもかかわらず下痢が1週間以上続く場合や、徐々に症状が悪化している場合があります。体重減少を伴う慢性的な下痢、夜間にも症状が続く場合、発熱を伴わない血便なども専門的な評価が推奨されます。また、家族や周囲の人に同様の症状が現れている場合には、感染性胃腸炎の可能性があるため相談が必要です。

特に注意が必要な方として、乳幼児や高齢者は脱水症状を起こしやすいため、軽度の症状でも早めの相談が推奨されます。糖尿病、腎疾患、心疾患などの基礎疾患をお持ちの方や免疫抑制薬を服用中の方では、感染症のリスクが高いため注意深い観察が重要です。妊娠中の方では、脱水や栄養不良が胎児に影響を与える可能性があるため、症状が続く場合には早めにご相談いただくことが大切です。

このような症状の重症度、継続期間、併発症状、脱水の程度の多角的検討に基づく適切な対応については、ご相談ください。早期の適切な対応により、原因の特定や症状の改善、合併症の予防が期待できる場合があります。


※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。

監修医師

理事長・院長
今村 英利
Imamura Eli

略歴

2014年10月神戸大学博士課程入学
2019年3月博士課程卒業医師免許取得
2019年4月赤穂市民病院
2021年4月亀田総合病院
2022年1月新宿アイランド内科クリニック院長
2023年2月いずみホームケアクリニック