風邪をひいた際に「耳が詰まったような感じがする」「聞こえが悪くなった」といった症状を経験された方は多いのではないでしょうか。
風邪による耳の詰まりは、耳管機能の低下や鼻腔の炎症による影響で生じることが多いとされています。風邪で耳が詰まる症状は比較的よく見られるものですが、症状の程度や持続期間には個人差があります。
適切な対処法により症状の軽減が期待できる場合がありますが、不適切な処置は症状を悪化させる可能性もあるため、正しい知識に基づいた対応が重要とされています。
また、中耳炎などの合併症を防ぐためにも、症状が長引く場合や悪化する場合には、専門的な判断が重要とされています。
風邪で耳が詰まる原因とメカニズム
風邪で耳が詰まる主な原因は、耳管機能の低下と鼻腔・上咽頭の炎症による影響、それに伴う中耳内圧の変化が考えられるとされています。
耳管機能不全によるメカニズムについて、耳管は中耳と鼻咽腔をつなぐ管状の器官で、中耳内の圧力を外気圧と等しく保つ重要な役割を担っています。風邪により鼻や上咽頭に炎症が生じると、耳管の入口部分も腫れや分泌物の増加により狭くなったり、完全に閉塞したりする場合があります。この状態では中耳内の圧力調整が困難になり、気圧の変化に対応できずに耳詰まりの症状が現れるとされています。
鼻づまりとの関連性では、風邪による鼻腔の炎症や鼻水の増加が、直接的に耳管の機能に影響を与えます。鼻をかむ行為や鼻づまりにより鼻腔内の圧力が変動すると、耳管を通じて中耳にも圧力変化が伝わり、耳詰まりの原因となる可能性があります。また、上咽頭での炎症や分泌物の貯留も、耳管開口部の機能を阻害する要因とされています。
中耳内圧の変化による影響として、耳管が正常に開かない状態が続くと、中耳内が陰圧になる傾向があります。この陰圧状態により鼓膜が内側に引っ張られ、鼓膜の振動が制限されることで聴力の低下や耳詰まり感が生じるとされています。さらに、この状態が長期間続くと、中耳内に滲出液が貯留し、滲出性中耳炎を引き起こす可能性もあります。
炎症性物質の影響では、風邪ウイルスや細菌感染により産生される炎症性物質が、耳管周辺の組織の腫れや分泌物の増加を促進します。これらの炎症反応は、耳管の物理的な閉塞だけでなく、耳管を開閉する筋肉の機能にも影響を与える可能性があるとされています。
個人差による要因として、耳管の形態や機能には個人差があり、もともと耳管機能が低い方では、風邪による影響がより顕著に現れる場合があります。また、アレルギー体質の方では、風邪に加えてアレルギー反応も重複し、症状が悪化しやすい傾向があるとされています。
風邪による耳詰まりの原因は複合的で個人差があるため、症状の現れ方も人によって異なります。
続いて、風邪による耳詰まりの具体的な症状について見ていきましょう。
風邪による耳詰まりの症状と特徴
風邪による耳詰まりは、圧迫感や閉塞感を主体とし、聴力の変化や自分の声の聞こえ方の変化などの特徴的な症状を示すことが多いとされています。
耳詰まりの典型的な症状として、耳の中に何かが入っているような感覚や、水が入ったような重い感じを訴える方が多いとされています。この症状は片側だけに現れることもあれば、両側に同時に現れることもあります。また、頭を動かしたり、つばを飲み込んだりした際に、一時的に症状が軽減したり悪化したりする変動性も特徴の一つです。
聴力への影響では、軽度から中等度の難聴が生じることがあります。特に低音域の聞こえが悪くなることが多く、会話は聞こえても少しこもったように感じる場合があります。テレビの音量を上げたくなったり、相手の声が遠く聞こえたりすることで、聴力の変化に気づく方も多いとされています。ただし、完全に聞こえなくなることは稀で、多くの場合は軽度の聴力低下に留まります。
自声強聴(じせいきょうちょう)も特徴的な症状の一つです。これは自分の声が頭の中で響いて聞こえる現象で、まるで筒の中で話しているような感覚を覚える場合があります。この症状により、普段より小さな声で話すようになったり、話すこと自体が不快に感じたりする場合があるとされています。
圧迫感と不快感では、耳の奥に圧力がかかっているような感覚や、膨張したような違和感を感じることが多いです。エレベーターや飛行機での気圧変化時のような感覚が持続することもあります。この圧迫感は、あくびをしたり、つばを飲み込んだりすることで一時的に軽減する場合がありますが、根本的な改善には至らないことが特徴です。
随伴症状との関連では、風邪による耳詰まりは、鼻づまり、鼻水、のどの痛み、咳などの他の風邪症状と同時に現れることが多いとされています。発熱がある場合には、耳詰まりの症状もより強く感じられる傾向があります。また、頭痛や顔面の重い感じを伴う場合もあり、これらの症状は相互に関連していることが多いです。
症状の経過と変動では、風邪の初期から中期にかけて現れることが多く、風邪症状の改善と共に徐々に軽快することが一般的です。ただし、他の風邪症状が改善した後も、耳詰まりだけが数日から1週間程度続く場合もあるとされています。症状は時間や体位により変動することがあり、朝起床時に強く感じたり、頭を下げた時に悪化したりする場合があります。
風邪による耳詰まりの症状を理解することで適切な対応が可能になります。
次に、これらの症状に対する適切な対処法について説明いたします。
風邪で耳が詰まった時の対処法と注意点
風邪で耳が詰まった時の対処法は、安全で効果的な方法を選択し、症状を悪化させる行為を避けることが重要とされています。
安全な耳抜きの方法について、最も推奨される方法は「バルサルバ法」と呼ばれる手技です。鼻を軽くつまみ、口を閉じた状態で、ゆっくりと軽く息を鼻に送り込むことで、耳管を開く効果が期待されます。ただし、強すぎる力で行うと鼓膜を損傷する危険性があるため、優しく行うことが重要です。また、風邪で鼻に炎症がある時は、感染を中耳に押し込む可能性もあるため、症状が強い時は控えることが推奨されます。
つばを飲み込む動作や、あくびをすることも自然な耳抜き方法として有効です。これらの動作により耳管を開く筋肉が働き、中耳内の圧力バランスが改善される可能性があります。ガムを噛む、飲み物を飲むなどの動作も同様の効果が期待されるとされています。
適切な鼻のかみ方も重要なポイントです。両方の鼻を同時に強くかむのではなく、片方ずつゆっくりと優しくかむことで、耳への圧力変化を最小限に抑えることができます。強く鼻をかむと、鼻腔内の圧力が急激に上昇し、感染した分泌物が耳管を通じて中耳に押し込まれるリスクがあるため注意が必要です。
温湿布による血行促進では、温かいタオルを耳の周辺に当てることで、局所的な血行を改善し、炎症の軽減を図ることができる場合があります。ただし、熱すぎる温度は避け、火傷に注意しながら10〜15分程度の使用に留めることが推奨されます。
避けるべき危険な行為として、綿棒や指で耳の中を掃除することは絶対に避けるべきです。これらの行為は耳垢を奥に押し込んだり、外耳道や鼓膜を傷つけたりするリスクがあります。また、市販の点耳薬を自己判断で使用することも、症状を悪化させる可能性があるため推奨されません。
生活習慣での工夫として、十分な水分摂取により鼻や喉の分泌物を薄くし、排出を促進することが有効です。また、室内の湿度を適切に保つ(50〜60%程度)ことで、鼻腔や上咽頭の乾燥を防ぎ、炎症の軽減に役立つ可能性があります。頭を高くして休むことで、鼻腔や中耳の分泌物の排出を促進する効果も期待されます。
薬物療法の注意点では、市販の点鼻薬を使用する場合は、使用方法と期間を守ることが重要です。長期間の使用は薬剤性鼻炎を引き起こす可能性があるため、通常は3〜5日以内の使用に留めることが推奨されます。また、抗ヒスタミン薬や去痰剤などの内服薬も、適切な使用により症状の軽減が期待される場合があります。
風邪による耳詰まりの対処法は個人の症状により効果が異なるため、適切な方法についてはご相談ください。
続いて、風邪以外で耳が詰まる場合について見ていきましょう。
風邪以外で耳が詰まる場合の可能性
耳詰まりは風邪以外の様々な原因でも生じる可能性があり、適切な判断のためには他の要因も考慮することが重要とされています。
中耳炎による耳詰まりでは、急性中耳炎では強い耳の痛みと発熱を伴うことが特徴的です。滲出性中耳炎では痛みは軽微ですが、持続的な耳詰まり感と聴力低下が主な症状となります。慢性中耳炎では、鼓膜穿孔による耳漏(耳だれ)を伴う場合があり、風邪による単純な耳詰まりとは明確に区別される症状を示すとされています。これらの中耳炎は適切な治療が必要で、放置すると聴力への永続的な影響を与える可能性があります。
外耳炎による症状では、外耳道の炎症により耳詰まり感が生じる場合があります。外耳炎では耳を引っ張ったり押したりした時の痛み、外耳道の腫れや分泌物が特徴的です。プールや海水浴後に発症することも多く、「水泳耳」とも呼ばれます。かゆみを伴う場合もあり、掻くことで症状が悪化する悪循環に陥りやすいとされています。
耳垢栓塞(じこうせんそく)では、耳垢が外耳道に詰まることで閉塞感や聴力低下が生じます。入浴後に耳垢が水分を吸って膨張し、急に聞こえが悪くなることが特徴的です。自分で除去しようとすると耳垢をより奥に押し込んでしまう危険性があるため、医療機関での除去が推奨されます。
気圧変化による耳詰まりでは、飛行機の離着陸時、エレベーターの昇降時、登山やダイビング時などに生じる症状があります。通常は一時的な症状ですが、耳管機能に問題がある場合には症状が長引く可能性があります。航空性中耳炎として、激しい痛みや出血を伴う場合もあるとされています。
アレルギー性疾患による影響では、花粉症やハウスダスト等のアレルギーにより鼻腔や上咽頭に慢性的な炎症が生じ、耳管機能に影響を与える場合があります。季節性がある場合や、特定の環境で症状が悪化する場合には、アレルギーが原因の可能性を考慮する必要があります。
その他の原因として、副鼻腔炎、鼻茸、上咽頭の腫瘍、薬剤による副作用、ストレスや疲労による自律神経の乱れなども耳詰まりの原因となる可能性があります。また、顎関節症により耳の周辺に違和感を感じる場合もあるとされています。メニエール病では、耳詰まりに加えてめまいや耳鳴りを伴うことが特徴的です。
突発性難聴では、急激な聴力低下と共に耳詰まり感が生じることがあり、早期の治療が聴力回復に重要とされています。このような急性の聴力低下を伴う場合には、緊急性の高い状態として早急な受診が必要です。
耳詰まりの原因は多岐にわたるため、風邪症状との関連が不明確な場合や症状が長期間続く場合には専門的な判断が重要です。
最後に、医療機関を受診すべきタイミングについて説明いたします。
耳詰まりで医療機関を受診すべきタイミング
耳詰まりで医療機関への相談を検討すべきタイミングとして、症状の程度や持続期間、随伴症状の有無などを総合的に判断することが重要とされています。
早急な受診を検討すべき症状として、強い耳の痛みを伴う場合や、発熱と共に耳詰まりが悪化する場合があります。耳から膿や血液が出る場合には、鼓膜穿孔や感染症の可能性があるため緊急受診が必要とされています。また、急激な聴力低下や、片側だけの突然の聞こえの変化がある場合には、突発性難聴の可能性があるため、48時間以内の早期受診が聴力回復のために重要です。
めまいや平衡感覚の異常を伴う場合にも注意が必要で、メニエール病や内耳炎などの可能性があるため専門的な評価が推奨されます。顔面麻痺や激しい頭痛を伴う場合には、より重篤な疾患の可能性もあるため早急な対応が必要とされています。
継続的な観察が必要なケースでは、適切な対処法を行っても1週間以上耳詰まりが改善しない場合があります。風邪の他の症状が完全に回復したにもかかわらず、耳詰まりだけが持続する場合には、滲出性中耳炎などの合併症の可能性があるため受診が推奨されます。また、症状が徐々に悪化している場合や、日常生活に支障をきたすほどの聴力低下がある場合にも専門的な評価が必要です。
小児の場合の特別な注意として、言葉の発達や学習に聴力は重要な役割を果たすため、軽度の耳詰まりでも早めの相談が推奨されます。小児は症状を適切に表現できない場合があるため、呼びかけへの反応の変化、テレビの音量を上げたがる、集中力の低下などの行動変化にも注意が必要です。また、小児では中耳炎を繰り返しやすい傾向があるため、定期的なフォローアップが重要とされています。
高齢者での注意点として、加齢による聴力の変化と病的な変化の区別が困難な場合があるため、新たに現れた耳詰まりについては専門的な評価が推奨されます。また、認知症がある場合には症状の訴えが曖昧になりがちなため、家族による注意深い観察が重要です。
基礎疾患がある場合では、糖尿病や免疫力低下状態の方では感染症が重篤化しやすいため、軽微な症状でも早めの相談が重要です。また、既に耳の疾患で治療中の方では、症状の変化について主治医と相談することが推奨されます。
職業上の影響では、聴力が重要な職業(教師、音楽関係者、運転手など)に従事している方では、軽度の聴力変化でも業務に支障をきたす可能性があるため、早めの対応が推奨されます。
診察時の準備として、症状の経過(いつから、どのような症状が、どの程度続いているか)、随伴症状の有無、これまでに試した対処法とその効果、現在服用中の薬剤などを整理しておくことで、より適切な診断と治療につながる可能性があります。
耳詰まりについての判断や対処法には個人差があり、適切な対応についてはご相談ください。早期の適切な対応により、聴力の保護と症状の改善、合併症の予防が期待できる場合があります。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
2019年4月 | 赤穂市民病院 |
2021年4月 | 亀田総合病院 |
2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
2023年2月 | いずみホームケアクリニック |