風邪をひいた際に「胸が苦しい」「息が詰まるような感じがする」といった症状を経験された方もいらっしゃるのではないでしょうか。
風邪による胸の苦しさは、気管支の炎症や咳による影響、痰の貯留などによって生じる可能性があるとされています。
風邪で胸が苦しくなる症状は比較的よく見られるものですが、症状の程度や原因には個人差があります。
適切な対処法により症状の軽減が期待できる場合がありますが、気管支炎や肺炎などの合併症への進行や、心疾患など他の重篤な疾患との鑑別が重要な場合もあります。
特に呼吸困難や激しい胸痛を伴う場合には、緊急性の高い状態の可能性もあるため、専門的な判断が重要とされています。
風邪で胸が苦しくなる原因とメカニズム
風邪で胸が苦しくなる主な原因は、気管支の炎症と咳による影響、痰の貯留による気道の狭窄、それに伴う呼吸機能への影響が考えられるとされています。
気管支炎への進行による影響について、風邪ウイルスが上気道から下気道(気管支)へと炎症を拡大させる場合があります。気管支の粘膜に炎症が生じると、粘膜の腫れや分泌物の増加により気道が狭くなり、呼吸時の空気の通りが悪くなります。この状態では呼吸に必要な努力が増加し、胸の苦しさや息切れの症状として現れるとされています。特に細い気管支(細気管支)に炎症が及ぶと、症状はより顕著になる可能性があります。
咳による胸部への影響では、持続的な咳により胸部の筋肉や肋間筋に負担がかかり、筋肉痛や胸の圧迫感が生じる場合があります。激しい咳を繰り返すことで、胸壁や肺を覆う胸膜にも刺激が加わり、胸痛や呼吸時の不快感の原因となることがあるとされています。また、咳反射により一時的に胸腔内圧が上昇することで、心臓や大血管への負担が増加し、胸部症状を感じる場合もあります。
痰の貯留と気道閉塞では、風邪により気道内の分泌物(痰)が増加し、効果的に排出されない場合があります。特に粘稠な痰が気管支に貯留すると、部分的な気道閉塞を起こし、呼吸困難感や胸の苦しさの原因となる可能性があります。また、痰の貯留は細菌の二次感染のリスクも高め、気管支炎から肺炎への進行を促進する要因ともなりうるとされています。
呼吸筋への影響として、風邪による全身倦怠感や発熱により、呼吸に必要な筋肉(横隔膜、肋間筋など)の機能が低下する場合があります。この状態では通常と同じ呼吸を維持するために、より多くの努力が必要となり、胸の苦しさや疲労感として感じられることがあるとされています。
血中酸素濃度への影響では、気管支炎や気道の狭窄により肺での酸素交換効率が低下すると、血中酸素濃度の軽度低下が生じる場合があります。この状態では身体が酸素不足を感知し、呼吸数の増加や呼吸困難感として症状が現れる可能性があります。
風邪による胸の苦しさの原因は複合的で個人差があるため、症状の現れ方も人によって異なります。
続いて、風邪による胸の苦しさの具体的な症状について見ていきましょう。
風邪による胸の苦しさの症状と特徴
風邪による胸の苦しさは、呼吸困難感や胸の圧迫感を主体とし、咳や痰などの呼吸器症状と関連した特徴的なパターンを示すことが多いとされています。
呼吸困難感の特徴として、安静時には症状が軽微でも、軽い動作や歩行時に息切れを感じやすくなることがあります。階段の昇降や早歩きなど、普段は問題のない動作で呼吸が苦しくなったり、話し続けることが困難になったりする場合があります。この症状は段階的に現れることが多く、風邪の初期には軽微でも、気管支炎への進行と共に徐々に悪化する傾向があるとされています。
胸の圧迫感や重い感じでは、胸の中央部や全体に何かが詰まっているような感覚を覚える場合があります。深呼吸をしようとしても十分に空気が吸えないような感覚や、胸が締め付けられるような不快感を訴える方も多いとされています。この症状は体位により変化することがあり、横になると楽になったり、逆に悪化したりする場合があります。
咳との関連性では、乾いた咳(乾性咳嗽)から痰を伴う咳(湿性咳嗽)への変化と共に、胸の苦しさが変動することが特徴的です。咳き込みが激しい時には一時的に呼吸困難感が増強し、咳が落ち着くと症状も軽減する傾向があります。夜間や早朝に咳が悪化し、それに伴って胸の苦しさも強くなる場合が多いとされています。
痰の性状と症状の関連では、初期には透明で粘稠性の低い痰から、進行すると黄色や緑色を帯びた粘稠な痰に変化することがあります。痰が切れにくい状態では胸の苦しさが持続し、効果的に痰が排出されると一時的に症状が軽減することが特徴です。血痰が出る場合には、より重篤な状態の可能性があるため注意が必要とされています。
全身症状との関連として、発熱がある場合には胸の苦しさもより強く感じられる傾向があります。また、全身倦怠感や食欲不振と共に現れることが多く、これらの症状は相互に影響し合うとされています。脱水状態では痰が粘稠になりやすく、胸の苦しさが悪化する可能性があります。
症状の時間的変化では、朝起床時に最も症状が強く、日中は比較的軽快し、夕方から夜間にかけて再び悪化するパターンを示すことが多いとされています。気温や湿度の変化、室内環境の影響も受けやすく、乾燥した環境では症状が悪化しやすい傾向があります。
風邪による胸の苦しさの症状を理解することで適切な対応が可能になります。
次に、これらの症状に対する適切な対処法について説明いたします。
風邪で胸が苦しい時の対処法と注意点
風邪で胸が苦しい時の対処法は、気道の炎症を軽減し、痰の排出を促進する安全な方法を選択することが重要とされています。
痰の排出を促進する方法について、十分な水分摂取により痰を薄くし、排出しやすくすることが基本的なケアとなります。温かい飲み物(お茶、白湯、薄めのスープなど)は特に効果的とされています。また、蒸気吸入も有効な方法で、お湯を張った洗面器に顔を近づけてタオルをかぶり、温かい蒸気をゆっくりと吸うことで、気道の湿度を高め痰を柔らかくする効果が期待されます。
適切な体位による症状軽減では、上半身を少し起こした姿勢(セミファウラー位)で休むことで、重力により痰の排出が促進され、呼吸が楽になる場合があります。完全に横になるよりも、枕を高くしたり、背もたれのあるソファで休んだりする方が快適に感じられることが多いとされています。
室内環境の調整として、適切な湿度(50〜60%程度)を維持することで、気道の乾燥を防ぎ炎症を軽減する効果が期待されます。加湿器の使用や、濡れタオルの設置、洗濯物の室内干しなども有効な方法です。また、室温を適切に保ち(20〜22度程度)、急激な温度変化を避けることも重要です。
呼吸法の工夫では、腹式呼吸を意識することで、より効率的な呼吸が可能になる場合があります。ゆっくりと鼻から息を吸い、口からゆっくりと吐き出すことで、リラックス効果も期待されます。ただし、呼吸困難が強い場合には無理に深呼吸をしようとせず、楽な呼吸を心がけることが重要です。
市販薬の適切な使用では、去痰薬や咳止め薬が症状の軽減に役立つ場合があります。ただし、痰が多い場合に咳止め薬を使用すると、痰の排出が妨げられる可能性があるため、薬剤の選択には注意が必要です。使用前には薬剤師への相談や、添付文書の確認を行うことが推奨されます。
避けるべき行為として、喫煙や受動喫煙は気道の炎症を悪化させるため絶対に避けるべきです。また、激しい運動や過度の活動は呼吸困難を悪化させる可能性があるため、症状がある間は安静を保つことが重要とされています。アルコールの摂取も脱水を促進し、症状を悪化させる可能性があるため控えることが推奨されます。
危険な症状への注意として、胸の苦しさが急激に悪化したり、安静時でも強い呼吸困難を感じたりする場合には、直ちに医療機関を受診する必要があります。また、唇や爪が青紫色になる(チアノーゼ)、意識がもうろうとする、激しい胸痛を伴うなどの症状がある場合には、緊急受診が必要とされています。
風邪による胸の苦しさの対処法は症状の程度により異なるため、適切なケアについてはご相談ください。
続いて、風邪以外で胸が苦しくなる場合について見ていきましょう。
風邪以外で胸が苦しくなる場合の可能性
胸の苦しさは風邪以外の様々な原因でも生じる可能性があり、特に心疾患や肺疾患など重篤な疾患との鑑別が重要とされています。
心疾患による胸の苦しさでは、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患が最も重要な鑑別疾患です。これらの場合、胸の圧迫感や絞扼感に加えて、左肩や腕への放散痛、冷汗、吐き気などの症状を伴うことが特徴的とされています。心不全では、労作時呼吸困難から安静時呼吸困難への進行、夜間の呼吸困難(起座呼吸)、下肢の浮腫などの症状を伴います。不整脈でも動悸と共に胸の苦しさを感じる場合があります。
肺疾患による症状として、肺炎では風邪症状に加えて高熱、膿性痰、胸痛などが現れ、胸の苦しさも顕著になります。気管支喘息では、特徴的な喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼーという音)を伴う呼吸困難が現れます。肺気胸では、突然の鋭い胸痛と呼吸困難が特徴的で、特に若い男性や高身長・痩せ型の方に多いとされています。肺血栓塞栓症では、突然の呼吸困難、胸痛、咳などが現れ、生命に関わる緊急事態となる場合があります。
消化器疾患による関連痛では、逆流性食道炎により胸やけと共に胸の圧迫感を感じる場合があります。胃潰瘍や胆石症なども、みぞおち周辺の痛みが胸の苦しさとして感じられることがあるとされています。これらの場合、食事との関連性や消化器症状の併発が診断の手がかりとなります。
精神的要因による症状として、パニック障害では突然の強い不安感と共に、胸の苦しさ、動悸、発汗、手の震えなどが現れます。うつ病や不安障害でも、身体症状として胸の圧迫感や呼吸困難感を訴える場合があります。これらの場合、ストレスや特定の状況との関連性が重要な診断要素となるとされています。
その他の原因として、貧血では酸素運搬能力の低下により労作時の呼吸困難を感じる場合があります。甲状腺機能亢進症では動悸と共に胸の苦しさを感じることがあります。肋間神経痛では、肋骨に沿った鋭い痛みが胸の苦しさとして感じられる場合があります。また、薬剤の副作用や、更年期障害、自律神経失調症なども胸部症状の原因となる可能性があるとされています。
環境要因による影響では、大気汚染、花粉、化学物質などのアレルゲンや刺激物質により、気管支の過敏性が高まり胸の苦しさが生じる場合があります。また、急激な気温変化や気圧変化も、呼吸器症状を誘発する要因となることがあります。
胸の苦しさの原因は多岐にわたり、中には生命に関わる疾患も含まれるため、適切な医学的評価が重要です。
最後に、医療機関を受診すべきタイミングについて説明いたします。
胸の苦しさで医療機関を受診すべきタイミング
胸の苦しさで医療機関への相談を検討すべきタイミングとして、症状の重症度や随伴症状の有無、症状の変化パターンなどを総合的に判断することが重要とされています。
緊急受診が必要な症状として、安静時でも強い呼吸困難がある場合や、胸の激しい痛みを伴う場合があります。特に、圧迫されるような胸痛、左肩や腕への放散痛、冷汗、吐き気を伴う場合には心疾患の可能性があるため、直ちに救急外来を受診することが重要です。また、唇や爪が青紫色になる(チアノーゼ)、意識がもうろうとする、会話が困難になるほどの呼吸困難がある場合には、生命に関わる状態の可能性があるため緊急対応が必要とされています。
突然発症した激しい胸痛と呼吸困難の場合には、肺気胸や肺血栓塞栓症などの可能性があるため、直ちに医療機関を受診する必要があります。高熱(38.5度以上)と膿性痰、激しい咳を伴う胸の苦しさがある場合には、肺炎の可能性があるため早急な治療が必要とされています。
早期受診を検討すべき症状では、軽い動作でも息切れを感じるようになった場合や、夜間に呼吸困難で目が覚める場合があります。咳と共に血痰が出る場合や、体重減少を伴う持続的な胸の苦しさがある場合にも、重篤な疾患の可能性があるため早めの受診が推奨されます。また、胸の苦しさが徐々に悪化している場合や、日常生活に支障をきたすレベルの症状がある場合にも専門的な評価が必要です。
継続的な観察が必要なケースとして、適切な風邪の対処法を行っても1週間以上胸の苦しさが改善しない場合があります。風邪の他の症状(発熱、鼻水、のどの痛みなど)は改善したのに、胸の苦しさだけが持続する場合には、気管支炎や肺炎への進行、または他の疾患の可能性を考慮する必要があります。
特に注意が必要な方として、高齢者では肺炎などの重篤な合併症のリスクが高いため、軽度の胸の苦しさでも早めの受診が推奨されます。基礎疾患(心疾患、呼吸器疾患、糖尿病など)をお持ちの方では、症状が急激に悪化する可能性があるため、早期の専門的評価が重要とされています。また、免疫力が低下している方や、妊娠中の方でも、軽微な症状でも早めの相談が推奨される場合があります。
小児の場合では、呼吸数の増加、鼻翼の拡張、陥没呼吸(胸がへこむ呼吸)などの呼吸困難の徴候に注意が必要です。小児は症状を適切に表現できない場合があるため、機嫌の変化、食欲不振、活動性の低下なども重要な観察ポイントとなります。
受診前の準備として、症状の経過(いつから、どのような状況で、どの程度の症状が続いているか)、随伴症状の有無、これまでに試した対処法とその効果、現在服用中の薬剤、既往歴や家族歴などを整理しておくことで、より迅速で適切な診断につながる可能性があります。
胸の苦しさは多様な原因により生じる可能性があり、中には緊急性の高い疾患も含まれるため、適切な医学的判断についてはご相談ください。早期の適切な対応により、重篤な合併症の予防と症状の改善が期待できる場合があります。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
2019年4月 | 赤穂市民病院 |
2021年4月 | 亀田総合病院 |
2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
2023年2月 | いずみホームケアクリニック |