風邪の寒気はなぜ起こる?体温調節メカニズムと発熱前の症状を解説

風邪

風邪をひき始めた時に「なぜ急に寒気がするのか」と疑問に思う方は多いのではないでしょうか。

室温は変わらないのに突然寒く感じたり、ガタガタと震えが止まらなくなったりする経験は、風邪の初期症状としてよく見られるものです。

風邪の寒気はなぜ起こるのかというと、体が病原体と戦うために体温を上げようとする生理的な反応の一部とされています。

この寒気は、発熱に先立って現れることが多く、免疫システムが活性化されている重要なサインです。

ただし、寒気の感じ方や程度には個人差があり、必ずしも同じパターンで現れるわけではありません。

寒気のメカニズムを理解することで、適切な対処法を選択する参考になりますが、症状の判断については専門的な知識が必要な場合もあります。

風邪で寒気が起こる理由とメカニズム

風邪で寒気が起こる理由は、体の防御機能である免疫系が病原体に対抗するために体温を上昇させようとする複雑なメカニズムによるものです。

寒気が生じる体内の仕組みでは、風邪ウイルスが体内に侵入すると、免疫細胞がこれを異物として認識し、様々な化学物質(サイトカイン)を放出します。これらの物質の中でも、インターロイキン-1、インターロイキン-6、腫瘍壊死因子(TNF)などは、脳の体温調節中枢である視床下部に働きかけ、体温の設定値を通常の36~37度からより高い温度に変更させます。この設定値の変更により、現在の体温が「低すぎる」と判断され、体温を上げるための反応が始まります。

免疫反応と体温調節の関係では、発熱は病原体と戦うための重要な防御メカニズムとされています。体温が上昇することで、免疫細胞の活動が活発になり、多くの病原体の増殖が抑制されます。また、体温上昇により、感染部位への血流が増加し、免疫細胞や抗体が効率的に運ばれるようになります。この過程で、体は現在の体温と新しい設定値との差を埋めるために、様々な体温上昇メカニズムを作動させます。

体温上昇のためのメカニズムとして、まず血管の収縮が起こります。皮膚の血管が収縮することで熱の放散が減少し、体内に熱をためやすくなります。同時に、筋肉の収縮(震え)により熱産生が増加します。これらの反応により、実際の体温は徐々に上昇していきますが、設定値に達するまでの間は「寒い」と感じ続けるため、寒気や悪寒として感じられます。

ホルモンの影響も重要で、甲状腺ホルモンやアドレナリンなどが分泌され、基礎代謝を上昇させることで熱産生を促進します。また、行動面でも暖かい場所を求めたり、衣服を着込んだりするような行動変化が現れ、これらすべてが体温上昇に寄与します。

風邪で寒気が起こる理由は、体の精巧な防御システムの現れですが、この寒気がどのように発熱と関連するかも重要なポイントです。

続いて、寒気と発熱の具体的な関係について詳しく見ていきましょう。

寒気と発熱の関係性について

寒気と発熱の関係性は、体温調節の時系列的なプロセスを理解することで明確になり、なぜ発熱前に寒気が現れるのかが説明できます。

なぜ発熱前に寒気がするのかについて、体温の設定値が上昇した瞬間から実際に体温が上がるまでには時間差があります。視床下部の体温調節中枢が「38度に設定」されたとしても、現在の体温が36.5度であれば、1.5度の差があることになります。この差があるうちは、体は「寒い」と認識し続け、体温を上げるための反応(寒気、震え、血管収縮)が継続します。実際の体温が設定値に近づくにつれて寒気は軽減し、設定値に達すると寒気は消失します。

体温設定値の変化とその過程では、正常時の体温設定は約37度ですが、感染時にはこれが38~40度程度まで上昇することがあります。この変化は段階的に起こることもあれば、比較的急激に起こることもあります。設定値の変化の速度や幅は、感染の程度、個人の免疫反応の強さ、年齢、基礎疾患の有無などによって影響されます。

悪寒戦慄のメカニズムでは、体温設定値と現在の体温に大きな差がある場合、より激しい反応が現れます。軽い寒気から始まり、ガタガタとした震え(悪寒戦慄)に発展することがあります。この震えは、骨格筋の不随意的な収縮により熱産生を急激に増加させる反応で、短時間で体温を上昇させる効率的なメカニズムです。悪寒戦慄は非常に不快な症状ですが、体温上昇のための重要な生理反応です。

発熱パターンとの関連では、寒気の強さや持続時間は、その後の発熱の程度をある程度予測する指標となる場合があります。強い寒気や悪寒戦慄がある場合、高熱に至る可能性が高いとされています。一方、軽い寒気の場合は微熱程度で済むことが多いとされていますが、個人差があるため確実ではありません。

体温上昇の段階的プロセスでは、寒気→体温上昇→発熱→熱感というサイクルが一般的です。体温が設定値に達すると寒気は消失し、今度は体が熱く感じられるようになります。さらに体温が上昇し続けると、発汗などの熱放散メカニズムが作動し、体温の調節が行われます。

個人差による変動として、年齢、体格、基礎疾患、免疫状態などにより、寒気から発熱までの時間や程度は大きく異なります。高齢者では寒気が軽微でも高熱になる場合があり、逆に若年者では強い寒気があっても軽微な発熱で済む場合もあります。

寒気と発熱の関係性を理解することで、症状の進行を予測し、適切な対処を行うことができます。

次に、風邪の寒気の具体的な特徴について説明いたします。

風邪の寒気の特徴とパターン

風邪の寒気には特徴的なパターンがあり、他の疾患による寒気との違いを理解することで、適切な対応の参考にすることができます。

風邪による寒気の現れ方では、通常は徐々に始まることが多く、「なんとなく寒い」という感覚から始まり、時間の経過とともに強くなっていく傾向があります。風邪の初期症状として、のどの違和感や軽い鼻水と同時期に現れることが多く、単独で急激に始まることは比較的稀とされています。寒気の持続時間は数時間から半日程度のことが多く、体温が上昇するにつれて徐々に軽減していきます。

他の病気の寒気との違いでは、インフルエンザによる寒気は風邪よりも急激で激しく現れることが多く、悪寒戦慄を伴うことが頻繁にあります。細菌感染による寒気は、風邪よりも重篤で、高熱を伴うことが多いとされています。また、膀胱炎や腎盂腎炎などの泌尿器感染症による寒気は、背部痛や排尿症状を伴うなど、風邪とは異なる随伴症状があります。

寒気の強さと風邪の重篤度の関係では、一般的に寒気が強いほど、その後の発熱も高くなる傾向があります。軽い寒気の場合は37度台の微熱で済むことが多く、強い悪寒戦慄がある場合は38度以上の発熱につながることが多いとされています。ただし、この関係性には個人差があり、寒気の強さだけで重篤度を正確に判断することは困難です。

時間帯による変動として、風邪の寒気は夕方から夜間にかけて強くなることが多く、これは一日の体温リズムと関連しています。午後から夕方にかけて体温が自然に上昇する時間帯に、感染による体温設定値の上昇が加わることで、より顕著な寒気を感じる場合があります。

症状の進行パターンでは、風邪の寒気は通常、寒気→発熱→他の症状(鼻水、咳、のどの痛みなど)の悪化という順序で進行することが多いとされています。このパターンを理解することで、症状の予測や早期対応が可能になります。ただし、すべての風邪がこのパターンに従うわけではなく、症状の現れ方には個人差があります。

年齢による特徴の違いでは、小児では寒気よりも発熱が先行することがあり、寒気を訴えることが少ない場合があります。高齢者では寒気があっても表現が曖昧になることがあり、「寒い」というよりも「調子が悪い」「だるい」といった表現をすることがあります。

環境要因の影響として、室温が低い環境では寒気がより強く感じられ、暖かい環境では軽減することがあります。しかし、感染による寒気は環境温度の調整だけでは完全に解消されない特徴があり、この点で通常の寒さとは区別されます。

風邪の寒気の特徴を理解することで、症状の適切な評価が可能になりますが、寒気を感じる時の体内変化についてもより詳しく理解することが重要です。

続いて、寒気を感じる時の体内で起きていることについて説明いたします。

寒気を感じる時の体内で起きていること

寒気を感じる時の体内では、体温を上昇させるための複雑な生理学的変化が同時並行で起こっています。

血管収縮と筋肉収縮の仕組みでは、交感神経系が活性化され、皮膚や四肢末端の血管が収縮します。この血管収縮により、体表面からの熱放散が減少し、体内の熱が保持されやすくなります。同時に、重要臓器への血流は維持されるため、手足が冷たく感じられる一方で、体幹部の温度は保たれます。筋肉収縮では、最初は不感知の筋緊張から始まり、進行すると明らかな震えとして現れます。この震えは、筋肉の収縮と弛緩を繰り返すことで熱を産生する効率的なメカニズムです。

ホルモンと神経系の働きでは、視床下部から放出される各種ホルモンが体温上昇を促進します。甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)により甲状腺ホルモンの分泌が促進され、基礎代謝率が上昇します。また、交感神経系の活性化によりアドレナリンとノルアドレナリンが分泌され、心拍数の増加、血圧上昇、代謝促進などが起こります。これらのホルモン変化により、体内での熱産生が大幅に増加します。

エネルギー代謝の変化では、細胞レベルでのエネルギー産生が増加し、特に肝臓や筋肉での糖や脂肪の燃焼が促進されます。ミトコンドリアでのエネルギー産生過程で発生する熱が、体温上昇に寄与します。また、褐色脂肪組織(主に首、肩甲骨周囲に存在)では、熱産生に特化したエネルギー産生が行われ、寒冷刺激に対する重要な熱源となります。

循環系の変化として、心拍数と心拍出量が増加し、全身への血液循環が促進されます。これにより、産生された熱が効率的に全身に運ばれると同時に、免疫細胞や栄養素の運搬も促進されます。ただし、皮膚血流は減少するため、体表面温度は低下し、これが寒冷感として感じられます。

呼吸系の変化では、酸素需要の増加に伴い呼吸数が増加します。また、口呼吸により上気道からの水分蒸発が増加し、これも体温上昇の一因となります。深い呼吸により横隔膜の動きが活発になり、これも熱産生に寄与します。

内分泌系の総合的な変化として、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌も増加し、血糖値の上昇や免疫反応の調節が行われます。また、成長ホルモンや甲状腺ホルモンの分泌パターンも変化し、長期的な代謝調節が行われます。

自律神経系のバランス変化では、交感神経が優位になり、副交感神経の活動が抑制されます。これにより、消化機能が低下する一方で、心血管系や呼吸器系の活動が促進されます。この自律神経バランスの変化は、寒気以外の症状(食欲不振、集中力低下など)の原因ともなります。

電解質バランスの変化として、発汗はまだ起こっていないものの、代謝の変化により体内の電解質分布に変化が生じます。特にナトリウムとカリウムのバランスが変化し、これが筋肉の収縮や神経伝達に影響を与えることがあります。

寒気を感じる時の体内変化は非常に複雑で、多くの生理システムが協調して働いています。これらの変化への適切な対処により、症状の軽減と回復の促進が期待できます。

次に、風邪の寒気への具体的な対処法について説明いたします。

風邪の寒気への対処法と注意点

風邪の寒気への対処法は、体の自然な防御反応をサポートしながら、不快感を軽減することを目的として行うことが重要とされています。

寒気がする時の適切な対応では、まず体を温めることが基本となりますが、過度な加温は避けることが重要です。体が求めている温度上昇を適切にサポートし、体温調節メカニズムの妨げにならないよう注意が必要です。室温を22~25度程度に保ち、湿度は50~60%程度に調整することで、快適な環境を作ることができます。

保温の効果的な方法では、重ね着により調節しやすい服装を選ぶことが推奨されます。綿やウールなどの天然素材は保温性と吸湿性に優れており、化学繊維よりも快適性が高いとされています。特に首、手首、足首などの血管が皮膚に近い部位を温めることで、効率的な保温が可能です。毛布や湯たんぽ、電気毛布なども有効ですが、温度設定に注意し、低温やけどを避けることが重要です。

温かい飲み物の摂取は、体内からの加温と水分補給を同時に行える効果的な方法です。白湯、温かいお茶、生姜湯、はちみつ入りの温かい飲み物などが適しています。ただし、熱すぎる飲み物は口やのどを傷める可能性があるため、人肌程度の温度が理想的です。また、カフェインやアルコールを含む飲み物は、体温調節に影響を与える可能性があるため、避けることが推奨されます。

入浴による温め方では、体調が許せば温かいお風呂やシャワーが効果的ですが、注意が必要な点もあります。水温は38~40度程度に設定し、長時間の入浴は体力を消耗させるため10~15分程度に留めることが重要です。高熱がある場合や体調が悪い場合は、入浴を控え、足浴や手浴などの部分浴で代用することが安全です。

避けるべき行動として、急激な温度変化は体に負担をかけるため避けるべきです。熱いお風呂に急に入る、冷たい外気にさらされるなどの行動は、血圧の急激な変化や体調悪化を招く可能性があります。また、厚着をしすぎることで過度な体温上昇を引き起こし、脱水や熱中症のリスクがあるため注意が必要です。

運動や激しい活動は、寒気がある時期は控えることが推奨されます。体はすでにエネルギーを熱産生に使用しているため、追加的な運動は体力を消耗させ、回復を遅らせる可能性があります。軽いストレッチ程度は血行促進に役立つ場合もありますが、無理は禁物です。

食事面での配慮では、消化に良く栄養価の高い食べ物を選択することが重要です。温かいスープ、おかゆ、うどんなどは、体を内側から温めながら栄養補給ができます。生姜、ねぎ、にんにくなどの体を温める効果があるとされる食材を取り入れることも有効ですが、刺激が強すぎる場合は控えめにすることが重要です。

睡眠環境の整備では、寝具を調整して適切な保温を行うことが重要です。羽毛布団や毛布を適切に使用し、寝室の温度も快適に保つことで、良質な睡眠が期待できます。ただし、暖房器具を使用する場合は、乾燥や火災に注意し、適切な換気も行うことが必要です。

風邪の寒気への対処は、体の自然な反応をサポートすることが基本ですが、症状によっては専門的な評価が必要な場合もあります。

最後に、注意すべき症状と受診の目安について説明いたします。

寒気で注意すべき症状と受診の目安

寒気を伴う症状の中には、風邪以外の重篤な疾患の可能性があるものもあり、適切な判断と早期の医学的評価が重要とされています。

危険な寒気の見分け方では、まず寒気の程度と持続時間が重要な判断基準となります。激しい悪寒戦慄が1時間以上続く場合、寒気と同時に意識レベルの低下がある場合、寒気に加えて激しい頭痛や項部硬直(首の後ろの強い痛みとこわばり)がある場合は、髄膜炎などの重篤な感染症の可能性があります。また、寒気と同時に胸痛や呼吸困難がある場合は、肺炎や心疾患の可能性も考慮する必要があります。

他の重篤な疾患との鑑別では、細菌性髄膜炎、敗血症、急性腎盂腎炎、肺炎などの重篤な感染症では、風邪よりも急激で激しい寒気が現れることがあります。これらの疾患では、寒気に加えて特徴的な症状(激しい頭痛、項部硬直、背部痛、胸痛、呼吸困難など)を伴うことが多く、全身状態も急激に悪化する傾向があります。

発熱パターンによる判断では、39度以上の高熱が急激に現れた場合、発熱と寒気を繰り返すパターン(間欠熱)がある場合、解熱剤を使用しても熱が下がらない場合などは、風邪以外の原因を疑う必要があります。特に、寒気→高熱→発汗→解熱→再び寒気というサイクルを繰り返す場合は、マラリアや他の感染症の可能性もあります。

随伴症状による評価では、寒気に加えて皮疹が現れた場合、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)がある場合、尿の色の変化や排尿時の痛みがある場合、腹痛や下痢などの消化器症状が強い場合などは、風邪以外の疾患の可能性が高くなります。

基礎疾患がある場合の注意点では、糖尿病、心疾患、腎疾患、免疫不全などの基礎疾患がある方は、軽微な寒気でも重篤な感染症に発展するリスクが高いとされています。これらの方では、寒気を感じた段階で早めの医学的相談が推奨されます。

年齢による特別な配慮として、乳幼児では寒気を言葉で表現できないため、不機嫌、哺乳不良、活気の低下などのサインを注意深く観察することが重要です。高齢者では、典型的な症状が現れにくく、軽い寒気でも重篤な状態になる可能性があるため、早期の評価が必要です。

医療機関への相談が必要な場合として、寒気が24時間以上続く場合、市販の解熱剤を適切に使用しても症状が改善しない場合、水分摂取ができない状態が続く場合、意識がもうろうとする場合、呼吸困難や胸痛を伴う場合などは、速やかな受診が必要です。

緊急性の判断では、以下の症状がある場合は救急医療機関への受診を検討する必要があります:激しい頭痛と項部硬直、意識障害、呼吸困難、胸痛、持続する高熱(40度以上)、けいれん、重篤な脱水症状などです。

受診時の準備として、症状の開始時期と経過、体温の変化、随伴症状、服用薬剤、既往歴などを整理しておくことで、適切な診断に役立ちます。可能であれば体温の記録をつけておくことも重要です。

寒気は風邪の一般的な症状ですが、時として重篤な疾患のサインとなることもあります。適切な判断により早期の対応が可能になり、重篤な合併症の予防につながります。症状や経過について心配なことがある場合は、ご相談ください。


※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。寒気や発熱に関する症状についてご不安がある場合は、医療機関にご相談ください。

監修医師

理事長・院長
今村 英利
Imamura Eli

略歴

2014年10月神戸大学博士課程入学
2019年3月博士課程卒業医師免許取得
2019年4月赤穂市民病院
2021年4月亀田総合病院
2022年1月新宿アイランド内科クリニック院長
2023年2月いずみホームケアクリニック