アトピー性皮膚炎をお持ちの方にとって、日々のお風呂の入り方は症状の管理において重要な要素の一つです。
適切な入浴は皮膚を清潔に保ち症状の改善に役立つ一方で、間違った方法は皮膚のバリア機能を損ない症状を悪化させる可能性があるとされています。
お湯の温度、入る時間、身体の洗い方、入浴後のケアなど、それぞれのポイントを正しく理解し実践することが大切です。
アトピー性皮膚炎に適したお風呂の入り方を知ることで、日々のスキンケアの質を高め、快適な生活につなげることが期待できます。
アトピー性皮膚炎におけるお風呂の重要性と基本的な考え方
お風呂は皮膚を清潔に保つ役割がありますが、高温や長時間は皮膚のバリア機能を低下させるため、適切な方法が重要です。
お風呂の役割とアトピー肌への効果
お風呂には、アトピー性皮膚炎の管理において複数の重要な役割があります。最も基本的な役割は、皮膚表面の汚れや汗、ほこりなどを洗い流し、清潔な状態を保つことです。
アトピー性皮膚炎の方の皮膚では、黄色ブドウ球菌などの細菌が増殖しやすい状態になっている場合があります。適切な洗浄により細菌の数を減らすことが重要とされています。
お風呂で皮膚を湿らせることで、角質層が水分を含み柔らかくなります。この状態は、お風呂上がりに保湿剤を塗布する際に、保湿成分が浸透しやすくなる効果があるとされています。
温かいお湯につかることで血行が促進され、リラックス効果も期待できます。適度な温度のお湯は、心身の緊張をほぐし、ストレス軽減にも役立つ可能性があります。
また、お風呂により皮膚表面に付着した花粉やダニの死骸、ハウスダストなどのアレルゲンを洗い流すことができます。
間違ったお風呂の入り方による悪化リスク
お風呂の入り方を誤ると、かえって症状を悪化させる可能性があります。最も一般的な問題は、熱すぎるお湯に長時間入ることです。
高温のお湯は皮膚の必要な皮脂を過剰に取り除いてしまい、皮膚のバリア機能を低下させる可能性があります。また、体温が上昇することでかゆみが増強され、お風呂上がりに激しい掻痒感を感じる場合があるとされています。
長時間お湯につかることも問題です。皮膚が水分を過剰に吸収してふやけた状態になり、かえって乾燥しやすくなる可能性があります。
ナイロンタオルやスポンジでゴシゴシと強く洗うことは、皮膚に物理的な刺激を与え、バリア機能を損なう可能性があります。刺激の強い石鹸やボディソープの使用も、必要な皮脂まで取り除いてしまい、乾燥を招くとされています。
お風呂上がりの保湿を怠ることも、症状悪化の原因となります。お風呂により一時的に皮膚が湿った状態になりますが、何もせずにいると水分が急速に蒸発し、お風呂前よりも乾燥した状態になる可能性があります。
お風呂は清潔維持に重要ですが、高温・長時間や強い洗浄は症状を悪化させます。
適切なお風呂の入り方の第一歩として、次にお湯の温度とお風呂に入る時間について見ていきましょう。
アトピー肌に適したお湯の温度とお風呂に入る時間の目安
アトピー性皮膚炎の方には38〜40度程度のぬるめのお湯で10〜15分程度が推奨されます。
温度が症状に与える影響
お湯の温度は、アトピー性皮膚炎の症状に直接的な影響を与える重要な要素です。適切な温度は、一般的に38〜40度程度とされています。この温度は、体温よりやや高い程度で、「ぬるめ」と感じる温度です。
38〜40度程度の温度であれば、皮膚の必要な皮脂を過剰に取り除くことなく、適度に汚れを落とすことができます。また、この温度は副交感神経を優位にし、リラックス効果をもたらす可能性があります。
42度以上の高温のお湯は、アトピー性皮膚炎の方には適していないとされています。高温のお湯は皮膚の脂質を溶かし出し、皮膚のバリア機能を低下させる可能性があります。また、体温が急激に上昇することで、かゆみを感じる神経が刺激され、お風呂中やお風呂上がりに強いかゆみが生じる場合があります。
お風呂に入る時間については、10〜15分程度が目安とされています。これは、皮膚を清潔にするために必要な時間であり、かつ皮膚への負担を最小限に抑えられる時間です。
長時間お風呂に入ると、皮膚が水分を過剰に吸収してふやけた状態になり、その後の水分蒸発が促進される可能性があります。湯船につかる時間は5〜10分程度にとどめ、身体を洗う時間を含めても15分程度で終えることが理想的とされています。
季節や症状による調整方法
季節や症状の状態により、温度や時間の調整が必要な場合があります。
夏場は、室温が高く汗をかきやすいため、38度程度のぬるめのお湯でも十分です。冬場は、室温が低く体が冷えやすいため、39〜40度程度のやや温かめのお湯が適している場合があります。
症状が悪化している時期には、より慎重な対応が必要です。炎症が強い時期や、掻破により皮膚が傷ついている時期には、温度を37〜38度程度のぬるめに設定し、時間も5〜10分程度に短縮することが推奨される場合があります。
症状が非常に重い場合や、じくじくとした滲出液が出ている場合には、お風呂の入り方についてご相談いただくことが重要です。
お湯の温度は38〜40度、時間は10〜15分程度が基本です。
温度と時間を適切に設定した上で、次に身体の洗い方について説明いたします。
アトピー性皮膚炎に優しい身体の洗い方と洗浄料の選び方
低刺激性の洗浄料をよく泡立て、手で優しく洗い、十分にすすぐことが基本です。
低刺激性洗浄料の選択基準
石鹸やボディソープの選び方は、アトピー性皮膚炎の方にとって重要なポイントです。
低刺激性と表示されている製品、「敏感肌用」「アトピー肌用」などの表示がある製品を選ぶことが基本です。弱酸性の製品を選ぶことも推奨されます。
無香料、無着色の製品を選ぶことも重要です。香料や着色料は、人によっては刺激やアレルギー反応の原因となる場合があります。
界面活性剤の種類も確認すべきポイントです。アミノ酸系界面活性剤など、比較的マイルドな洗浄成分を使用した製品が適している場合が多いとされています。
保湿成分が配合されている洗浄料も選択肢の一つです。セラミド、ヒアルロン酸、グリセリンなどの保湿成分が含まれた製品は、洗浄による乾燥を軽減する効果が期待できる場合があります。
泡立てと洗い方のコツ
洗浄料をしっかりと泡立てることは、皮膚への摩擦を減らすために重要です。泡立てネットを使用すると、少量の洗浄料で豊かな泡を作ることができます。
身体の洗い方は、泡を手のひらに取り、優しく肌になじませるように洗うことが基本です。ナイロンタオルやスポンジ、ボディブラシなどは、物理的な刺激が強いため使用を避けることが推奨されます。
洗う順序としては、頭から下へと順番に洗っていくのが一般的です。シャンプーやコンディショナーが体に残らないよう、髪を洗った後に身体を洗う順序が推奨されます。
首、肘の内側、膝の裏側、脇の下など、しわになる部分は、泡で包み込むように優しく洗います。毎日お風呂に入る場合でも、石鹸やボディソープを使用するのは1日1回で十分とされています。
すすぎは洗浄と同じくらい重要です。洗浄料が皮膚に残ると、それが刺激となり症状を悪化させる可能性があります。泡が完全になくなるまで流します。
顔や頭皮の洗浄方法
顔の洗浄も、身体と同様に低刺激性の洗顔料を使用し、優しく洗うことが基本です。洗顔料もよく泡立て、泡で包み込むように洗います。洗顔時間は30秒から1分程度で十分です。
すすぎは、ぬるま湯で20〜30回程度丁寧に行います。髪の生え際やあごの下など、すすぎ残しが起きやすい部位は特に注意が必要です。
頭皮の洗浄では、低刺激性のシャンプーを選び、指の腹を使って頭皮を優しくマッサージするように洗います。爪を立てて洗うことは避けるべきです。
低刺激性洗浄料をよく泡立て、手で優しく洗い、十分にすすぐことが重要です。
適切に洗浄した後は、お風呂上がりのケアが症状管理には重要となります。
お風呂上がりの保湿ケアとタオルの使い方
お風呂上がり5分以内に保湿剤を塗布し、タオルは柔らかい素材で押さえるように拭きます。
タオルの選び方と拭き方について、タオルは柔らかい綿素材のものを選ぶことが推奨されます。拭き方は、ゴシゴシとこすらず、押さえるように水分を吸い取ることが基本です。
特に、症状が出ている部位や掻破により皮膚が傷ついている部位は、特に優しく扱うことが重要です。
効果的な保湿のタイミングと量
お風呂上がりの保湿は、アトピー性皮膚炎のスキンケアにおいて最も重要なステップの一つです。お風呂上がり5分以内に保湿剤を塗布することが推奨されます。
お風呂上がり、着替えよりも先に保湿を優先することが理想的です。脱衣所に保湿剤を準備しておくと良いとされています。
保湿剤の選び方では、医師から処方された保湿剤がある場合には、それを使用することが基本です。市販の保湿剤を使用する場合には、低刺激性で無香料のものを選ぶことが推奨されます。
保湿剤の塗布量は、十分な量を使用することが重要です。一般的な目安として、大人の手のひら2枚分の面積に対して、人差し指の第一関節までの長さの軟膏またはクリームを塗布するとされています。
塗布方法は、手のひらに保湿剤を取り、両手で温めてから肌にやさしく伸ばします。こすりつけるのではなく、優しく押さえるように塗ります。
顔、首、腕、脚、体幹など、全身にムラなく塗布することが推奨されます。1日の保湿回数は、お風呂上がりだけでなく、朝や日中に乾燥を感じた時など、1日2回以上行うことが推奨される場合が多いとされています。
お風呂上がり5分以内の保湿が重要で、十分な量を全身に塗布します。
お風呂の仕上げとして、入浴剤の使用についても知っておくことが役立ちます。
入浴剤の使用と日常的なお風呂の習慣の注意点
入浴剤は保湿成分配合の無香料タイプなら使用できる場合もありますが、刺激成分は避けてください。
アトピー肌に適した入浴剤として、保湿成分が配合された入浴剤は、アトピー性皮膚炎の方に適している場合があります。セラミド、ヒアルロン酸、グリセリンなどの保湿成分が含まれた製品が推奨されます。
無香料、無着色の製品を選ぶことも重要です。香料や着色料は刺激となる可能性があるため、これらの添加物が含まれていないシンプルな製品が推奨されます。
避けるべき入浴剤の成分として、強い香料を含むもの、着色料が多く含まれるもの、発泡成分が含まれるもの、メントールやカンフルなどの清涼成分が含まれるもの、硫黄成分が含まれるものなどが挙げられます。
初めて使用する製品は、まず少量で試してみることが推奨されます。入浴剤を使用した後も、お風呂上がりの保湿は必ず行うことが重要です。
もし入浴剤を使用して赤みやかゆみなどの症状が出た場合には、直ちに使用を中止し、お湯でよく洗い流すことが必要です。
毎日のお風呂習慣のポイントとして、基本的に1日1回のお風呂で十分とされています。お風呂の時間帯は、就寝の1〜2時間前が理想的とされています。
症状が悪化した場合の対応として、お風呂の入り方を見直しても症状が改善しない場合や、悪化する場合には、早めにご相談いただくことが重要です。
日々のお風呂は、適切な方法で行うことにより、アトピー性皮膚炎の症状管理に大きく貢献する可能性があります。温度、時間、洗い方、お風呂上がりのケアといった基本を守りながら、ご自身の肌の状態に合わせて調整することが大切です。入浴剤は保湿成分配合の無香料タイプを選び、症状が改善しない場合はご相談ください。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
| 2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
| 2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
| 2019年4月 | 赤穂市民病院 |
| 2021年4月 | 亀田総合病院 |
| 2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
| 2023年2月 | いずみホームケアクリニック |




