夏になると海に出かける機会があり、アトピー性皮膚炎をお持ちの方の中には海水の影響が気になる方もいらっしゃるかもしれません。
症状が改善したという声がある一方で、悪化したという経験をされる方もいらっしゃいます。
塩分や温度、紫外線など様々な要因が関与するため、個人の症状の程度や肌の状態により反応は異なるとされています。
アトピーと海水の関係について正しい知識を持ち、注意すべきポイントを理解することで、安全に海水浴を楽しむための判断に役立てることが期待できます。
アトピー性皮膚炎に海水は良い?悪い?
海水がアトピーの症状に与える影響には個人差があり、改善する方もいれば悪化する方もいるため慎重な判断が必要です。
海水がアトピー肌に与える可能性のある影響
海水には様々な成分が含まれており、その中でも特に塩分(塩化ナトリウム)の濃度が高いことが特徴です。海水の塩分濃度は約3.5%とされており、この塩分がアトピー性皮膚炎の肌にどのような影響を与えるかについては、様々な見解があります。
海水が症状を改善させる可能性について、いくつかの説があります。塩分には殺菌作用があるとされており、アトピー性皮膚炎の方の皮膚に増殖しやすい黄色ブドウ球菌などの細菌を減少させる効果が期待できる可能性があります。細菌の減少により、炎症が軽減される場合があるとされています。
また、海水に含まれるミネラル(マグネシウム、カルシウムなど)が、皮膚に良い影響を与える可能性も指摘されています。これらのミネラルが皮膚のバリア機能をサポートする可能性があるという見解もあります。
一方で、海水が症状を悪化させるリスクも考慮する必要があります。塩分は皮膚に刺激を与える可能性があり、特に炎症が強い部位や掻破により傷ついている部位では、海水が染みて痛みを感じたり、刺激により炎症が悪化したりする可能性があります。
海水の温度も影響要因の一つです。夏場の海水は比較的温かいため、体温が上昇しやすく、それによりかゆみが増強される可能性があります。
紫外線の影響も無視できません。海水浴では日光に長時間さらされることが多く、紫外線は皮膚にダメージを与え、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる可能性があるとされています。海面からの反射により、紫外線の影響はさらに強くなります。
海水に含まれる不純物や汚染物質も考慮すべき点です。海岸の場所により水質が異なり、汚染された海水では、細菌や化学物質が皮膚に悪影響を与える可能性があります。
砂や小石による物理的な刺激も影響要因です。海水浴では砂浜を歩いたり、波で砂が体に当たったりすることがあり、これらの摩擦が皮膚への刺激となる場合があります。
個人差による反応の違い
海水がアトピー性皮膚炎の症状に与える影響には、非常に大きな個人差があります。同じ条件で海水浴をしても、人により反応は全く異なる可能性があります。
症状の程度による違いが重要です。症状が比較的軽度で安定している方は、海水による刺激を受けにくい傾向がある一方、症状が重度の方や炎症が強い時期の方は、海水の刺激により症状が悪化しやすい状態にあります。
皮膚の状態による違いも大きな要因です。掻破により傷ついている部位、じくじくとした滲出液が出ている部位、強い炎症がある部位などでは、海水が強い刺激となる可能性が高いとされています。
過去の経験も判断材料となります。以前海水浴をして症状が改善した経験がある方は、今回も良い影響を受ける可能性がありますが、過去に悪化した経験がある方は、同様に悪化するリスクが高いと考えられます。
年齢による違いも考慮すべき点です。子どもは大人と比較して皮膚が薄く、刺激に対して敏感な場合が多いため、より慎重な判断が必要とされています。
季節や気候条件による違いもあります。真夏の強い日差しの下での海水浴と、初夏や初秋の比較的穏やかな気候での海水浴では、紫外線の影響や体温上昇の程度が異なります。
海水浴の時間や頻度による違いも重要です。短時間の海水浴では問題ない方でも、長時間または頻繁に海水浴をすると、皮膚への負担が蓄積し、症状が悪化する可能性があります。
海水がアトピーの症状に与える影響には個人差が大きく、改善する場合と悪化する場合の両方があります。
海水浴の具体的なメリットとデメリットについて、次に詳しく見ていきましょう。
海水浴がアトピー肌に与えるメリットとデメリット
アトピー性皮膚炎には海水の殺菌作用や適度な運動効果がメリットとなる一方、塩分刺激や紫外線がデメリットとなる可能性があります。
海水の塩分による影響
海水の塩分がもたらす潜在的なメリットとして、殺菌作用が挙げられます。塩分は細菌の増殖を抑える効果があるとされており、アトピー性皮膚炎の方の皮膚に増殖しやすい黄色ブドウ球菌などを減少させる可能性があります。
適度な塩分濃度が、浸透圧の作用により皮膚の老廃物を排出する効果があるという見解もあります。ただし、これらの効果には個人差があり、科学的に十分に証明されているわけではないため、過度な期待は避けるべきとされています。
海水浴による運動効果も見逃せません。水中での運動は陸上と比較して体への負担が少なく、適度な運動により血行が促進され、ストレス解消にもつながる可能性があります。ストレス軽減はアトピー性皮膚炎の症状管理において重要な要素です。
海水の塩分がもたらすデメリットとして、刺激作用が最も大きな懸念点です。塩分は皮膚に刺激を与え、特に炎症がある部位や傷がある部位では、強い痛みを感じることがあります。「傷口に塩を塗る」という表現があるように、損傷した皮膚に塩分が触れると強い刺激となります。
塩分による乾燥も問題となる可能性があります。海水に含まれる塩分が皮膚に付着したまま乾燥すると、皮膚の水分が奪われ、乾燥が進む可能性があります。アトピー性皮膚炎の方はもともと皮膚が乾燥しやすい状態にあるため、さらなる乾燥は症状の悪化につながる可能性があります。
海水に長時間つかることで、皮膚のバリア機能がさらに低下する可能性も指摘されています。健常な皮膚でも長時間水につかると、角質層がふやけてバリア機能が低下しますが、アトピー性皮膚炎の方ではこの影響がより強く現れる可能性があります。
日光や温度による影響
海水浴に伴う日光浴の影響も考慮が必要です。適度な日光浴はビタミンDの生成を促進し、免疫機能の調整に役立つとされています。ビタミンDはアトピー性皮膚炎の症状軽減に関与する可能性が示唆されています。
しかし、過度の紫外線曝露はデメリットとなります。紫外線は皮膚にダメージを与え、炎症を引き起こす可能性があります。日焼けにより皮膚が赤くなったり、ヒリヒリしたりする状態は、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる要因となります。
海面からの紫外線反射により、海水浴では陸上よりも多くの紫外線を浴びることになります。上からの直射日光だけでなく、下からの反射光も加わるため、紫外線対策が特に重要です。
海水の温度による影響として、夏場の海水は比較的温かく、体温が上昇しやすい環境です。体温上昇はかゆみを引き起こす要因の一つとされており、海水浴中や海水浴後にかゆみが強くなる可能性があります。
波や水の動きによる刺激も考慮すべき点です。波が体に当たることで物理的な刺激が加わり、敏感な皮膚には負担となる場合があります。
アトピー性皮膚炎には海水の殺菌作用や運動効果がメリットとなる一方、塩分刺激や紫外線による悪化リスクもあります。
メリットとデメリットを理解した上で、次に海水浴をする際の具体的な注意点について説明いたします。
アトピー性皮膚炎の方が海水浴をする際の注意点
アトピーの症状が安定している時期に短時間から始め、紫外線対策を徹底し、海水浴後は速やかに真水で洗い流すことが重要です。
海水浴に適した時期と避けるべき時期について、症状が比較的安定している時期を選ぶことが基本です。炎症が強い時期、かゆみがひどい時期、掻破により皮膚が傷ついている時期、じくじくとした滲出液が出ている時期などは、海水浴を避けることが推奨されます。
初めて海水浴をする場合や、久しぶりに海水浴をする場合には、症状が最も安定している時期を選び、短時間から試してみることが推奨されます。
季節としては、真夏の最も暑い時期よりも、初夏や初秋の比較的紫外線が弱い時期の方が、肌への負担が少ない可能性があります。
海水浴の時間と頻度について、初回は5〜10分程度の短時間から始めることが推奨されます。様子を見て問題がなければ、徐々に時間を延ばすことができますが、長くても30分程度にとどめることが望ましいとされています。
1日に何度も海水浴をすることは、皮膚への負担が大きくなるため避けるべきです。1日1回、短時間の海水浴にとどめることが推奨されます。
連日の海水浴も、皮膚への負担が蓄積するため注意が必要です。海水浴をした翌日は休む、または数日間隔を空けるなど、皮膚を休ませる時間を確保することが重要です。
紫外線対策の重要性について、海水浴をする際には、必ず日焼け止めを使用することが推奨されます。ただし、日焼け止めの成分が刺激となる場合もあるため、低刺激性で、紫外線吸収剤ではなく紫外線散乱剤(酸化チタン、酸化亜鉛など)を使用した製品を選ぶことが推奨されます。
SPF30〜50程度、PA+++以上の製品を選び、2〜3時間おきに塗り直すことが効果的です。特に水に入った後は、タオルで拭いた際に日焼け止めが落ちている可能性があるため、必ず塗り直すことが重要です。
ラッシュガードや長袖の水着を着用することも、紫外線対策として有効です。UVカット機能のある素材を選ぶことで、日焼け止めを塗れない部位や、塗り忘れやすい部位もカバーできます。
帽子やサングラスの着用も推奨されます。特に顔や頭皮は日焼けしやすい部位であり、保護が重要です。
海水浴前の準備
海水浴に行く前の準備として、保湿をしっかり行うことが推奨されます。保湿により皮膚のバリア機能を高めることで、海水の刺激を軽減できる可能性があります。
処方されている外用薬がある場合には、医師の指示に従って使用します。症状が安定している状態で海水浴に臨むことが重要です。
持ち物として、真水を入れたペットボトルやポリタンク、保湿剤、タオル、着替え、日焼け止め、帽子などを準備します。海水浴後すぐに対応できるよう、必要なものは海辺に持参することが推奨されます。
体調を整えることも重要です。寝不足や体調不良の状態では、皮膚も敏感になっている可能性があるため、十分な睡眠を取り、体調を整えてから海水浴に行くことが推奨されます。
海水浴中の注意点
海水に入っている最中の注意点として、皮膚の状態をこまめに確認することが重要です。赤みが強くなる、ヒリヒリする、かゆみが強くなるなどの症状が現れた場合には、速やかに海から上がることが推奨されます。
無理に長時間入り続けることは避け、少しでも異変を感じたら中止することが大切です。「せっかく来たのだから」という気持ちで無理をすると、後で症状が悪化するリスクがあります。
波が強い日や、水温が極端に高い・低い日は避けることも考慮すべき点です。穏やかな海況の日を選ぶことで、皮膚への刺激を最小限に抑えることができます。
砂浜を歩く際には、できればサンダルやマリンシューズを着用することで、足裏への刺激を軽減できます。砂浜は熱くなっている場合もあり、熱による刺激も考慮が必要です。
アトピーの症状が安定している時期に短時間から始め、紫外線対策を徹底し、異変を感じたら速やかに中止することが重要です。
海水浴以外の水辺環境にであるプールや温泉についても見ていきましょう。
プールや温泉など海水以外の水辺環境での注意点
プールの塩素はアトピー性皮膚炎の方の皮膚に刺激を与える可能性が高く、温泉は成分により影響が異なるため注意が必要です。
塩素が肌に与える影響
プールの水には、衛生管理のために塩素が使用されています。この塩素は殺菌効果がある一方で、皮膚への刺激が強いとされており、アトピー性皮膚炎の方には注意が必要です。
塩素は皮膚の脂質を除去する作用があり、皮膚のバリア機能をさらに低下させる可能性があります。プールに入った後に皮膚が乾燥したり、かゆみが強くなったりする経験をされた方も多いのではないでしょうか。
塩素の濃度はプールにより異なりますが、一般的に海水よりも皮膚への刺激が強いとされています。特に、塩素濃度が高めに管理されているプールでは、注意が必要です。
プールを利用する場合の対策として、プール後は速やかにシャワーで塩素を洗い流すことが最も重要です。できれば石鹸を使って優しく洗い、塩素を完全に除去することが推奨されます。
プール後の保湿も必須です。シャワー後、できるだけ早く保湿剤を塗布することで、乾燥を防ぐことができます。
プールに入る時間を短くすることも有効です。長時間プールに入ることは、塩素への曝露時間が長くなり、皮膚への負担が大きくなります。
症状が悪化している時期には、プールの利用を控えることが推奨されます。どうしても必要な場合(学校の授業など)には、事前にご相談いただくことが重要です。
温泉の成分と肌への影響について、温泉は成分により様々な種類があり、アトピー性皮膚炎への影響も異なります。
単純温泉は刺激が少なく、比較的安全に利用できるとされています。成分の濃度が低く、肌に優しいため、アトピー性皮膚炎の方にも適している場合が多いとされています。
硫黄泉は殺菌作用があり、皮膚疾患に良いとされることもありますが、刺激が強い場合もあるため注意が必要です。人により合う合わないがあります。
酸性泉は殺菌効果が高い一方で、刺激が非常に強いため、アトピー性皮膚炎の方には適さない場合が多いとされています。
アルカリ性泉は皮膚を柔らかくする作用があり、「美肌の湯」と呼ばれることもありますが、アルカリ性が強すぎると皮膚のバリア機能を損なう可能性があります。
温泉を利用する場合の注意点として、初めて訪れる温泉では、まず手や足など一部分だけをつけて様子を見ることが推奨されます。刺激を感じなければ、短時間から入浴を試してみることができます。
温泉から上がった後は、必ず真水のシャワーで温泉成分を洗い流すことが重要です。温泉成分が皮膚に残ると、刺激となる可能性があります。
温泉後も保湿をしっかり行うことが推奨されます。温泉により一時的に皮膚が湿った状態になりますが、その後の乾燥を防ぐために保湿剤を塗布することが重要です。
プールの塩素は皮膚に刺激が強く、温泉は成分により影響が異なるため、いずれも注意が必要です。
水辺のレジャーを楽しんだ後のケアについて説明いたします。
海水浴後の適切なケアと症状が悪化した場合の対処法
海水浴後は速やかに真水で洗い流し、十分に保湿を行い、症状悪化時は早めにご相談ください。
海水浴直後のケア方法として、最も重要なのは、海水浴後できるだけ早く真水で海水を洗い流すことです。海岸にシャワー設備がある場合には、必ず利用します。シャワーがない場合には、持参した真水で体を洗い流します。
海水に含まれる塩分が皮膚に付着したまま乾燥すると、皮膚の水分が奪われ、刺激も持続するため、速やかに洗い流すことが重要です。
洗い流す際には、ゴシゴシこすらず、優しく流水で洗うことが推奨されます。タオルで拭く際も、押さえるように優しく水分を吸い取ります。
可能であれば、海水浴後すぐに保湿剤を塗布することが理想的です。海辺で保湿剤を塗ることが難しい場合でも、帰宅後できるだけ早く保湿を行うことが重要です。
日焼けをしてしまった場合には、冷たいタオルで冷やすことが有効です。ただし、氷を直接当てることは避け、適度に冷やすことが推奨されます。
帰宅後のスキンケアについて、帰宅後は改めてシャワーまたはお風呂で全身をしっかり洗います。石鹸は低刺激性のものを使用し、よく泡立ててから優しく洗います。
お湯の温度は38〜40度程度のぬるめに設定します。熱いお湯は皮膚への刺激となり、かゆみを増強させる可能性があります。
シャワーやお風呂の後は、5分以内に保湿剤を塗布することが推奨されます。海水浴により皮膚が乾燥している可能性があるため、通常よりも念入りに保湿を行います。
処方されている外用薬がある場合には、医師の指示に従って使用します。海水浴により症状が悪化していないか確認し、必要に応じて薬を使用します。
十分な水分補給も重要です。海水浴では発汗により体内の水分が失われているため、水や麦茶などで水分を補給します。
症状が悪化した場合の対応として、海水浴後に赤みが強くなる、かゆみが激しくなる、ヒリヒリする、腫れが出るなどの症状が現れた場合には、まず冷却することが有効です。清潔なタオルを冷水で濡らし、優しく当てます。
保湿をしっかり行い、掻かないように注意します。かゆみが強くても掻いてしまうと、皮膚を傷つけ症状をさらに悪化させます。
市販の薬を使用する前に、処方されている薬がある場合にはそれを使用します。市販薬を使用する場合には、使用前にご相談いただくことが推奨されます。
受診すべきタイミングとして、以下のような症状が現れた場合には、早めに医療機関を受診することが推奨されます。広範囲に強い赤みや腫れが出現した場合、水ぶくれができた場合、強い痛みを伴う場合、じくじくとした滲出液が出ている場合、発熱を伴う場合などです。
数日経っても症状が改善しない場合や、徐々に悪化している場合にも受診が推奨されます。
海水浴の経験を今後に活かすため、海水浴後の皮膚の状態を記録しておくことが有効です。どのような条件(時間、天候、海水の状態など)で海水浴をして、どのような反応が出たかを記録することで、今後の判断材料となります。
海水浴が問題なくできた場合でも、次回も同じように問題ないとは限らないため、毎回慎重に判断することが重要です。症状の程度や時期により、適切な対応は変わる可能性があります。
定期的に医療機関を受診し、海水浴の経験や症状の変化について相談することで、より適切な管理方法を見つけることができます。海水浴と症状の関係について疑問や不安がある場合には、遠慮なくご相談いただくことが推奨されます。
アトピー性皮膚炎の方にとって、海水浴は必ずしも避けるべきものではありませんが、個人の症状の程度や肌の状態を慎重に判断し、適切な対策を取ることが重要です。無理をせず、ご自身の体調や皮膚の状態を最優先に考えることが、安全に海水浴を楽しむための鍵となります。
海水浴後は速やかに真水で洗い流し十分に保湿を行い、症状悪化時は早めにご相談ください。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
| 2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
| 2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
| 2019年4月 | 赤穂市民病院 |
| 2021年4月 | 亀田総合病院 |
| 2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
| 2023年2月 | いずみホームケアクリニック |




