今まで特に皮膚のトラブルがなかったのに、大人になってから急に湿疹やかゆみが現れたという経験をされる方もいらっしゃいます。
アトピー性皮膚炎は子どもの病気というイメージを持たれる方も多いかもしれませんが、実際には成人してから急になるケースも存在するとされています。
また、症状が落ち着いていた方が何らかのきっかけで悪化することもあります。
アトピーに急になることや悪化する背景には様々な要因があり、それらを理解することで適切な対処につながることが期待できます。
アトピー性皮膚炎は急になることがあるの?
アトピー性皮膚炎は大人になってから急になる場合もあり、幼少期に治まっていた症状が再発することもあります。
大人になってから発症するケース
アトピー性皮膚炎は、一般的には乳幼児期に発症することが多い疾患とされています。多くの場合、生後数ヶ月から2歳頃までに症状が現れ、成長とともに改善していくパターンが知られています。
しかし、全てのアトピー性皮膚炎が幼少期に発症するわけではありません。20歳以降になって初めて症状が現れる「成人発症型アトピー性皮膚炎」というケースも存在します。
成人発症型の特徴として、顔や首、上半身に症状が現れやすい傾向があるとされています。子どもの頃に発症するアトピー性皮膚炎では、肘や膝の内側など関節部分に症状が出やすいのに対し、成人発症型では異なる部位に症状が現れることが多いとされています。
成人発症型アトピー性皮膚炎の発症には、様々な要因が関与している可能性があります。遺伝的にアトピー素因を持っていても、幼少期には発症せず、大人になってから何らかのきっかけで発症する場合があるとされています。
環境の変化も大きな要因です。就職、引っ越し、結婚など、生活環境が大きく変わるタイミングで症状が現れることがあります。新しい環境でのストレス、生活リズムの変化、住環境の変化などが発症のきっかけとなる可能性があります。
職業による影響も考えられます。特定の職業では、化学物質や水、洗剤などに頻繁に触れることがあり、これらが皮膚への刺激となり、アトピー性皮膚炎の発症につながる可能性があるとされています。
生活習慣の変化も影響要因です。食生活の乱れ、睡眠不足、運動不足などにより、免疫バランスが崩れ、症状が現れる場合があります。
再発と新規発症の違い
大人になってアトピー性皮膚炎の症状が現れた場合、それが新規発症なのか、幼少期の症状の再発なのかを見極めることは重要です。
幼少期にアトピー性皮膚炎の診断を受けたことがある方が、大人になってから再び症状が現れる場合は「再発」と考えられます。一度軽快したアトピー性皮膚炎が、何らかのきっかけで再び活性化した状態です。
再発のパターンとして、学童期に症状が落ち着き、思春期から成人期に再び悪化するケースがあります。これは、ホルモンバランスの変化、ストレスの増加、生活環境の変化などが影響している可能性があるとされています。
一方、幼少期に全く症状がなく、アトピー性皮膚炎の診断を受けたこともない方が、大人になってから初めて症状が現れる場合は「新規発症」と考えられます。
新規発症の場合でも、家族にアレルギー疾患の既往がある、子どもの頃に軽度の湿疹があったなど、何らかのアトピー素因を持っている可能性があります。
再発と新規発症の区別は、治療方針を決める上で参考になる場合があります。ただし、どちらの場合でも、現在の症状に対する適切な治療が最も重要とされています。
アトピー性皮膚炎は大人になってから急になる場合もあり、再発と新規発症の両方のケースがあります。
大人になって急になる具体的な原因について、次に詳しく見ていきましょう。
大人になって急にアトピー性皮膚炎になる原因
ストレス、環境変化、皮膚バリア機能の低下などが複合的に関与して、大人になって急になると考えられています。
発症のきっかけとなる要因
ストレスは、成人発症型アトピー性皮膚炎の重要な要因の一つとされています。仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、経済的な不安など、大人特有のストレスが免疫バランスを乱し、症状の発現につながる可能性があります。
ストレスにより自律神経のバランスが崩れると、皮膚のバリア機能が低下したり、炎症反応が起こりやすくなったりすることが知られています。また、ストレスにより睡眠の質が低下することも、症状の発現に関与する可能性があるとされています。
環境要因の変化も大きな影響を与えます。引っ越しにより住環境が変わることで、ダニやカビなどのアレルゲンへの曝露が増加する場合があります。新しい住居の建材や塗料などの化学物質が刺激となる可能性もあります。
気候の変化も考慮すべき要因です。乾燥した地域への移住、エアコンの効いた環境での長時間の生活などにより、皮膚の乾燥が進み、バリア機能が低下する可能性があります。
職業性の要因も重要です。美容師、調理師、医療従事者など、水や洗剤、消毒液などに頻繁に触れる職業では、これらの物質による刺激が蓄積し、皮膚炎を引き起こす可能性があります。これが「手湿疹」として始まり、やがて全身に広がる場合もあるとされています。
化学物質への曝露も影響要因です。職場で扱う化学物質、洗剤、化粧品、香料などが皮膚への刺激となり、症状の発現につながる可能性があります。
生活習慣の乱れも見逃せません。食生活の偏り、睡眠不足、運動不足、過度のアルコール摂取などは、免疫機能や皮膚のバリア機能に悪影響を与える可能性があります。
喫煙も皮膚の健康に悪影響を与えるとされています。タバコに含まれる有害物質が血行を悪化させ、皮膚の修復機能を低下させる可能性があります。
ホルモンバランスの変化も影響する場合があります。妊娠、出産、更年期など、ホルモンバランスが大きく変化する時期に症状が現れることがあるとされています。
感染症がきっかけとなる場合もあります。ウイルスや細菌の感染により免疫システムが活性化され、その過程でアトピー性皮膚炎が発症する可能性が示唆されています。
成人発症型の特徴
成人発症型アトピー性皮膚炎は、小児期に発症するタイプとは異なる特徴を持つことがあるとされています。
症状の出現部位として、顔、特に目の周りや口の周りに症状が現れやすい傾向があります。また、首、胸、背中の上部など、上半身に症状が集中することが多いとされています。
かゆみの程度も特徴的で、非常に強いかゆみを伴うことが多いとされています。夜間にかゆみが強くなり、睡眠が妨げられる場合もあります。
皮膚の見た目として、赤みや腫れが強く、掻破により色素沈着を起こしやすい傾向があります。慢性化すると、皮膚が厚くごわついた状態になる「苔癬化」が見られる場合もあります。
治療反応についても、小児期発症型と比較して治療に時間がかかる傾向があるとされています。症状のコントロールが難しい場合もあり、長期的な管理が必要となることがあります。
心理的な影響も大きな問題です。大人になってから突然症状が現れることで、外見への不安、仕事への影響、社会生活への支障などにより、精神的なストレスを感じる方も少なくありません。
ストレス、環境変化、生活習慣などが複合的に関与して大人になってから急になると考えられています。
発症だけでなく、既にある症状が急に悪化する要因について説明いたします。
既にあるアトピー症状が急に悪化する要因
季節の変わり目、ストレス、環境変化などがアトピーの症状を急に悪化させる引き金となります。
悪化のきっかけとなる具体的な要因
季節の変化は、アトピー性皮膚炎の症状悪化の大きな要因です。特に秋から冬にかけての乾燥する時期には、皮膚の水分が失われやすく、バリア機能が低下するため、症状が悪化しやすいとされています。
春には花粉の飛散により、アレルゲンへの曝露が増加し、症状が悪化する方もいらっしゃいます。夏は汗による刺激や、エアコンによる室内の乾燥が悪化要因となる場合があります。
急激な気温や湿度の変化も影響します。季節の変わり目には、朝晩の気温差が大きくなることがあり、この温度変化が皮膚への刺激となる可能性があります。
ストレスの増加も症状悪化の大きな要因です。仕事が忙しくなる時期、人間関係の問題、家庭内のトラブルなど、ストレスが高まるタイミングで症状が悪化することがあります。
睡眠不足はストレスと関連して症状を悪化させます。睡眠中に皮膚の修復が行われるため、睡眠不足が続くと皮膚の状態が悪化しやすくなります。また、睡眠不足により免疫バランスが崩れることも、症状悪化に関与する可能性があります。
食生活の乱れも影響要因です。栄養バランスの偏り、特定の食品の過剰摂取、食品添加物の多い食事などが、症状を悪化させる可能性があります。アルコールの過剰摂取も悪化要因となります。
スキンケアの怠りは、症状悪化の直接的な原因となります。保湿を怠る、入浴方法が適切でない、処方された薬を使用しないなどにより、症状が急激に悪化する場合があります。
環境中のアレルゲンへの曝露増加も考慮すべき点です。ダニ、ハウスダスト、ペットの毛、カビなどのアレルゲンが増加する環境に身を置くことで、症状が悪化する可能性があります。引っ越しや模様替えなどがきっかけとなる場合もあります。
化学物質への曝露も悪化要因です。新しい化粧品や洗剤の使用、香料の強い製品の使用などが刺激となり、症状を悪化させる場合があります。
掻破行動の増加も悪循環を生みます。かゆみにより掻いてしまうと、皮膚のバリア機能がさらに損なわれ、炎症が悪化します。これがさらなるかゆみを引き起こし、「かゆみ-掻破サイクル」が形成されます。
感染症の合併も症状悪化の要因となります。風邪やインフルエンザなどの感染症により免疫システムが活性化されると、アトピー性皮膚炎の症状も悪化する場合があります。また、掻破により傷ついた皮膚に細菌感染が起こると、症状がさらに悪化する可能性があります。
悪化のサイン
症状が悪化し始めるサインを早期に察知することで、対処が可能になる場合があります。
かゆみの増強は最も分かりやすいサインです。普段よりもかゆみが強くなる、かゆみの頻度が増える、夜間のかゆみで目が覚めるなどの変化に気づいたら、悪化の兆候と考えられます。
皮膚の乾燥の悪化も重要なサインです。いつもより皮膚がカサカサする、粉をふく、ひび割れるなどの変化は、バリア機能の低下を示しています。
赤みや腫れの増加も悪化のサインです。症状が出ている部位の赤みが濃くなる、範囲が広がる、腫れが出現するなどの変化に注意が必要です。
掻破痕の増加も見逃せません。無意識に掻いている頻度が増える、掻破により出血する、傷が増えるなどは、症状が悪化している証拠です。
睡眠の質の低下も間接的なサインとなります。かゆみにより眠れない、夜中に何度も目が覚める、朝起きた時に疲れが取れていないなどの変化は、症状の悪化を示唆します。
季節の変わり目やストレス、環境変化などが症状を急激に悪化させる引き金となります。
症状が急に出現したり悪化したりした場合の対処法について、次に説明いたします。
急な発症や症状悪化時の対処法と受診のタイミング
アトピーの症状が急に現れた場合は保湿を徹底し、早期に医療機関を受診することが重要です。
応急的なケア方法
急に皮膚症状が現れた場合の応急的なケアとして、まず保湿を徹底することが基本です。低刺激性の保湿剤を使用し、こまめに塗布することで、皮膚のバリア機能をサポートできます。
刺激となるものを避けることも重要です。症状が現れた部位に触れる衣類は、柔らかい綿素材のものを選びます。化学繊維やウール素材は刺激となる可能性があるため避けることが推奨されます。
新しく使い始めた化粧品やスキンケア製品、洗剤などがある場合には、それらの使用を一時中止することも検討します。新しい製品が刺激となり、症状が現れた可能性があるためです。
掻かないように注意することも大切です。かゆみが強くても、掻いてしまうと症状が悪化します。爪を短く切る、手袋をする、冷やすなどの対策が有効です。
入浴方法を見直すことも推奨されます。お湯の温度は38〜40度程度のぬるめに設定し、長時間の入浴は避けます。低刺激性の石鹸を使用し、優しく洗うことが重要です。
ストレス管理も症状改善に役立ちます。十分な睡眠を取る、リラックスする時間を作る、軽い運動をするなど、ストレスを軽減する工夫が推奨されます。
市販の薬を使用する際には注意が必要です。自己判断で強いステロイド外用薬を使用することは避け、まずは保湿剤などで様子を見るか、早めに医療機関を受診することが推奨されます。
受診すべき症状
以下のような症状が現れた場合には、早めに医療機関を受診することが推奨されます。
広範囲に湿疹や赤みが出現した場合、症状が急速に悪化している場合、強いかゆみにより日常生活や睡眠に支障をきたしている場合などは、早期受診が重要です。
じくじくとした滲出液が出ている場合、黄色いかさぶたができている場合は、細菌感染を合併している可能性があるため、速やかな受診が必要です。
発熱を伴う場合、全身状態が悪い場合も、早急な受診が推奨されます。
市販の保湿剤などで対処しても改善しない場合、症状が1週間以上続く場合にも、受診が推奨されます。
初めて症状が現れた場合には、それがアトピー性皮膚炎なのか、他の皮膚疾患なのかを判断するために、早めに受診することが重要です。適切な診断により、適切な治療を受けることができます。
既にアトピー性皮膚炎の診断を受けている方でも、急激な症状悪化がある場合には、治療方針の見直しが必要な可能性があるため、受診が推奨されます。
日常生活での注意点として、症状が急に現れたり悪化したりした場合には、その前後の生活を振り返り、きっかけとなった要因を特定することが有効です。新しい化粧品を使った、環境が変わった、ストレスが増えたなど、思い当たることを記録しておくと、今後の予防に役立ちます。
規則正しい生活を心がけることも重要です。十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動などにより、免疫バランスを整え、症状の安定につながる可能性があります。
定期的な医療機関の受診も推奨されます。症状が安定している時期でも、定期的に経過を診てもらうことで、悪化の兆候を早期に発見し、対処することができます。
症状が急に現れた場合は保湿を徹底し早期に受診することが重要です。
アトピー性皮膚炎と似た症状を示す他の疾患もあるため、最後にそれらについて説明いたします。
アトピー性皮膚炎と間違えやすい他の皮膚疾患
接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、蕁麻疹など他の疾患とアトピーとの鑑別が重要です。
急に皮膚症状が現れた場合、それが必ずしもアトピー性皮膚炎とは限りません。他の皮膚疾患でも似たような症状が現れる場合があるため、適切な診断が重要です。
接触皮膚炎(かぶれ)は、特定の物質に触れることで起こる皮膚炎です。化粧品、金属、植物、洗剤など、様々な物質が原因となります。特徴として、原因物質に触れた部位に限局して症状が現れること、原因物質を避けることで改善することなどが挙げられます。
アトピー性皮膚炎との違いは、症状の出現部位が原因物質との接触部位に限られること、原因物質の除去により比較的速やかに改善することなどです。ただし、接触皮膚炎とアトピー性皮膚炎を合併している場合もあります。
脂漏性皮膚炎は、皮脂の分泌が盛んな部位に起こる皮膚炎です。頭皮、顔(特に鼻の周り、眉毛の部分)、耳の後ろ、胸などに症状が現れやすいとされています。
特徴として、黄色いかさぶた状の皮疹、フケの増加、皮膚の赤みなどがあります。マラセチアという真菌の関与が考えられています。
アトピー性皮膚炎との違いは、かゆみが比較的軽度であること、皮脂の多い部位に症状が集中することなどです。ただし、両者を合併している場合もあります。
蕁麻疹は、皮膚に赤い膨らみ(膨疹)が現れ、強いかゆみを伴う疾患です。食物、薬剤、物理的刺激、ストレスなど、様々な原因で発症します。
特徴として、症状が数時間から24時間以内に消失すること、膨らみが移動すること、強いかゆみを伴うことなどがあります。
アトピー性皮膚炎との違いは、症状の出現と消失が比較的速いこと、皮疹の形状が異なることなどです。慢性蕁麻疹では症状が長期間続く場合もあります。
貨幣状湿疹は、コイン状の円形の湿疹が現れる疾患です。四肢や体幹に症状が現れやすく、かゆみを伴います。乾燥や刺激が原因となる場合が多いとされています。
乾癬は、赤い発疹の上に白いかさぶた(鱗屑)が付着する疾患です。肘、膝、頭皮などに症状が現れやすく、かゆみは軽度から中等度です。免疫の異常が関与していると考えられています。
真菌感染症(水虫、たむしなど)も、皮膚に赤みやかゆみを引き起こします。特定の部位に限局して現れることが多く、抗真菌薬による治療が必要です。
これらの疾患は、それぞれ適切な治療法が異なるため、正確な診断が重要です。自己判断せず、医療機関を受診し、専門的な診察を受けることが推奨されます。
診断には、症状の出現部位、経過、家族歴、生活環境などの問診に加え、必要に応じて血液検査、パッチテスト、皮膚生検などが行われる場合があります。
適切な診断により、それぞれの疾患に合わせた治療を受けることができ、症状の改善が期待できます。皮膚症状が急に現れた場合には、自己判断で対処するのではなく、早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、蕁麻疹など他の疾患との適切な鑑別が重要です。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
| 2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
| 2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
| 2019年4月 | 赤穂市民病院 |
| 2021年4月 | 亀田総合病院 |
| 2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
| 2023年2月 | いずみホームケアクリニック |




