乾燥する季節になると唇の荒れが気になる方は多く、アトピー性皮膚炎をお持ちの方の中には特に症状が強く現れる方もいらっしゃいます。
皮膚が薄くデリケートな部位であるため、刺激を受けやすく症状が現れやすいとされています。
顔に症状がある方では唇にも影響が及ぶ場合があり、乾燥や赤み、ひび割れなどが生じることがあります。
アトピーと唇の症状の関係を理解し、適切なケア方法を知ることで、唇の状態を改善することが期待できます。
アトピー性皮膚炎と唇の症状の関係とは?
アトピー性皮膚炎による唇の症状は顔の皮膚炎と関連して現れることが多く、乾燥や炎症により荒れやすくなります。
唇に症状が現れるメカニズム
アトピー性皮膚炎は主に皮膚に症状が現れる疾患ですが、唇にも影響を及ぼす場合があります。唇は皮膚と粘膜の移行部であり、非常にデリケートな部位です。
唇の皮膚は、体の他の部位と比較して非常に薄く、角質層も薄いため、バリア機能が弱いとされています。また、皮脂腺がほとんどないため、自ら潤いを保つ機能が低く、乾燥しやすい特徴があります。
アトピー性皮膚炎の方は、もともと皮膚のバリア機能が低下しているため、唇のバリア機能もさらに脆弱な状態にあります。これにより、外部からの刺激を受けやすく、乾燥や炎症が起こりやすくなります。
顔にアトピー性皮膚炎の症状がある方では、その炎症が唇にまで広がることがあります。特に口の周りに症状がある場合、唇との境界部分から唇全体へと症状が及ぶ可能性があります。
唇をなめる癖がある方では、唾液に含まれる消化酵素が唇の皮膚を刺激し、炎症を引き起こす場合があります。これを「舌なめずり皮膚炎」と呼び、アトピー性皮膚炎の方に合併しやすいとされています。
食べ物や飲み物による刺激も、唇の症状を引き起こす要因となります。酸味の強い食品、辛い食品、熱い飲み物などが唇に触れることで、刺激となり炎症が起こる可能性があります。
化粧品や歯磨き粉に含まれる成分が刺激となる場合もあります。口紅、リップクリーム、歯磨き粉などに含まれる香料、着色料、界面活性剤などが、アトピー性皮膚炎の敏感な唇には刺激となる可能性があります。
環境要因も影響します。乾燥した空気、強い風、紫外線などにより、唇の水分が奪われ、バリア機能が低下することで、症状が現れやすくなります。
唇の症状が出やすい方の特徴
アトピー性皮膚炎で唇の症状が出やすい方には、いくつかの特徴があります。
顔、特に口の周りに症状がある方は、唇にも症状が現れやすい傾向があります。口周囲の炎症が唇に波及しやすいためです。
唇をなめる癖や噛む癖がある方も、症状が出やすいとされています。これらの癖により、唇の皮膚が常に刺激を受け、バリア機能が低下します。
口呼吸をする方も注意が必要です。口呼吸により唇が乾燥しやすくなり、症状が悪化する可能性があります。
食物アレルギーを持つ方では、特定の食品が唇に触れることでアレルギー反応が起こり、症状が現れる場合があります。
金属アレルギーがある方では、歯科治療に使用される金属が唾液を介して唇に触れ、症状を引き起こす可能性も指摘されています。
季節の変わり目や冬場など、空気が乾燥する時期に症状が悪化しやすい方も多いとされています。
アトピー性皮膚炎による唇の症状は顔の皮膚炎と関連して現れることが多く、乾燥や炎症により荒れやすくなります。
唇に現れる具体的な症状について、次に詳しく見ていきましょう。
アトピーによる唇の症状と見分け方
アトピーによる唇の症状は乾燥、ひび割れ、赤み、かゆみなどが特徴的です。
アトピーによる唇の症状の特徴
アトピー性皮膚炎による唇の症状として、最も一般的なのは乾燥です。唇全体がカサカサして、皮がむけやすい状態になります。通常の乾燥と比較して、保湿をしてもすぐに乾燥してしまう、乾燥の程度が強いなどの特徴があります。
ひび割れも頻繁に見られる症状です。唇の表面に細かいひび割れができたり、縦に深いひび割れができたりします。ひび割れから出血することもあり、痛みを伴う場合があります。
赤みや腫れも特徴的な症状です。唇全体が赤くなる、唇の縁が特に赤くなる、腫れぼったく見えるなどの症状が現れます。炎症が強い時期には、これらの症状が顕著になります。
かゆみを伴うことも多いとされています。唇がムズムズする、かゆくて触りたくなる、無意識に唇をなめてしまうなどの症状があります。かゆみにより唇を噛んだり、掻いたりすることで、症状がさらに悪化する悪循環が生じる可能性があります。
痛みを感じる場合もあります。ひび割れがある場合には、口を開けるときに痛む、食事の際に染みるなどの症状が現れます。
皮がむける症状も一般的です。乾燥により唇の表面の皮が薄くむける、白く粉をふいたようになるなどの状態が見られます。
唇の周りの皮膚にも症状が及ぶ場合があります。唇の縁から周囲の皮膚にかけて、赤みや湿疹が広がることがあります。これを「口囲皮膚炎」または「口角炎」と呼ぶ場合もあります。
色素沈着が起こる場合もあります。慢性的な炎症や掻破により、唇の色が濃くなったり、くすんだりすることがあります。
他の唇のトラブルとの違い
アトピー性皮膚炎による唇の症状と、他の原因による唇のトラブルを区別することが重要です。
単純な乾燥による唇荒れの場合、保湿をすることで比較的短期間で改善することが多いとされています。一方、アトピー性皮膚炎による症状は、保湿だけでは十分に改善せず、炎症のコントロールが必要となる場合が多いです。
口唇ヘルペスは、ヘルペスウイルスの感染により起こる疾患で、唇に小さな水ぶくれができ、痛みを伴います。発熱や全身倦怠感を伴うこともあり、アトピー性皮膚炎とは症状の現れ方が異なります。
接触皮膚炎(かぶれ)は、特定の物質(化粧品、歯磨き粉、食品など)に触れることで起こります。原因物質に触れた後に症状が現れ、原因物質を避けることで改善するのが特徴です。
口角炎は、口の端が切れて痛む症状です。ビタミンB群の不足、カンジダ菌の感染、よだれによる刺激などが原因となります。口の端に限局して症状が現れるのが特徴です。
剥脱性口唇炎は、唇の皮が繰り返しむける疾患で、原因は明確ではありませんが、ストレスや唇をなめる癖などが関与する可能性があります。
口唇炎には様々なタイプがあり、アトピー性皮膚炎に伴うものもあれば、他の原因によるものもあります。正確な診断のためには、医療機関を受診することが重要です。
アトピー性皮膚炎による唇の症状の場合、顔や体の他の部位にもアトピー性皮膚炎の症状がある、アレルギー疾患の家族歴がある、季節により症状が変動するなどの特徴が見られることが多いとされています。
アトピーによる唇の症状は乾燥、ひび割れ、赤み、かゆみなどが特徴的です。
唇の症状を悪化させる要因について、次に説明いたします。
唇のアトピー症状が悪化する要因と注意点
アトピーによる唇の症状は乾燥、刺激物、唇をなめる癖などにより悪化します。
悪化の原因となる生活習慣
唇をなめる癖は、唇のアトピー症状を悪化させる最も大きな要因の一つです。唇が乾燥するとなめて潤そうとしますが、唾液に含まれる消化酵素が唇の皮膚を刺激し、かえって乾燥や炎症を悪化させます。
唾液が蒸発する際に唇の水分も一緒に奪われるため、なめればなめるほど乾燥が進むという悪循環に陥ります。特に、就寝中に無意識に唇をなめる癖がある場合、朝起きたときに症状が悪化していることがあります。
唇を噛む癖も悪化要因です。ストレスや緊張により唇を噛む癖がある方では、物理的な刺激により炎症が悪化します。
口呼吸も唇の乾燥を促進します。鼻づまりなどにより口呼吸が習慣化している方では、常に空気に触れることで唇が乾燥しやすくなります。
唇を触る癖も注意が必要です。手で唇を頻繁に触ると、手についた汚れや細菌が唇に付着し、刺激となる可能性があります。
皮をむく癖も悪化要因です。乾燥により唇の皮がむけてくると、つい手でむいてしまいたくなりますが、無理にむくことで健康な皮膚まで傷つけ、症状を悪化させます。
食事の内容も影響します。辛い食品、酸味の強い食品、熱すぎる飲食物などは、唇への刺激となり、症状を悪化させる可能性があります。
飲酒も悪化要因となる場合があります。アルコールは体温を上昇させ、かゆみを増強させる可能性があるためです。
睡眠不足やストレスも、免疫バランスを崩し、症状を悪化させる要因となります。
避けるべき刺激物
化粧品による刺激も大きな要因です。口紅、リップグロス、リップライナーなどに含まれる着色料、香料、防腐剤などが、敏感な唇には刺激となる可能性があります。
特に、タール色素を含む口紅、香料の強い製品、落ちにくいタイプの口紅などは、刺激が強い場合があるため注意が必要です。
歯磨き粉も刺激源となる場合があります。歯磨き粉に含まれる界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウムなど)、香料、研磨剤などが唇に触れることで刺激となる可能性があります。
フッ素入りの歯磨き粉が合わない方もいらっしゃいます。フッ素に対してアレルギー反応を示す場合があるためです。
マウスウォッシュも注意が必要です。アルコールを含むマウスウォッシュは、唇や口の中の粘膜を刺激する可能性があります。
食品による刺激として、柑橘類、トマト、パイナップルなどの酸味の強い食品、唐辛子やわさびなどの辛味成分、塩分の強い食品などが挙げられます。
金属製の食器も、金属アレルギーがある方では刺激となる場合があります。
環境要因として、乾燥した空気、強い風、寒さ、紫外線なども唇にダメージを与えます。冬場の暖房による室内の乾燥、夏場のエアコンによる乾燥にも注意が必要です。
タバコの煙も唇への刺激となります。喫煙だけでなく、受動喫煙も避けることが推奨されます。
アトピーによる唇の症状は乾燥、刺激物、唇をなめる癖などにより悪化します。
悪化要因を避けながら、唇の適切なケアを行う方法について説明いたします。
アトピーがある唇の適切なケア方法
アトピーがある唇には低刺激性のリップクリームでこまめに保湿し、刺激を避けることが基本です。
唇に適した保湿剤
唇の保湿には、低刺激性のリップクリームや軟膏を使用することが推奨されます。アトピー性皮膚炎の方に適したリップケア製品の選び方について説明します。
無香料、無着色の製品を選ぶことが基本です。香料や着色料は刺激となる可能性があるため、これらが含まれていないシンプルな製品が推奨されます。
ワセリンは最もシンプルで低刺激な保湿剤の一つです。純度の高い白色ワセリンを選ぶことで、刺激を最小限に抑えることができます。ワセリンは唇の表面に膜を作り、水分の蒸発を防ぐ効果があります。
医療用のリップクリームも選択肢です。医師から処方される保湿剤(ヒルドイドソフト、プロペトなど)を唇に使用することもできます。
市販のリップクリームを選ぶ場合には、「敏感肌用」「低刺激性」と表示されている製品を選ぶことが推奨されます。成分表示を確認し、メントール、カンフル、サリチル酸などの刺激成分が含まれていないものを選びます。
UV効果のあるリップクリームも有効です。紫外線は唇にダメージを与えるため、外出時にはUVカット機能のあるリップクリームを使用することが推奨されます。ただし、紫外線吸収剤ではなく、紫外線散乱剤(酸化チタン、酸化亜鉛)を使用した製品の方が刺激が少ないとされています。
保湿剤の塗り方も重要です。1日に何度もこまめに塗ることが効果的です。朝起きた時、食事の後、入浴後、就寝前など、定期的に塗る習慣をつけることが推奨されます。
塗る際には、指先で優しく塗ることが推奨されます。スティックタイプのリップクリームを直接塗る場合には、力を入れすぎず、優しく塗布します。
唇が非常に荒れている場合には、リップクリームを塗った後、上からラップを当てて数分間パックすることで、保湿効果を高めることができます。
食事や歯磨き時の注意点
食事の際には、刺激の少ない食品を選ぶことが推奨されます。酸味や辛味の強い食品は避け、温度も熱すぎず冷たすぎない適温のものを選びます。
食後は口の周りを清潔に保つことが重要です。食べ物が唇に付着したままになると、刺激となる可能性があるため、食後は濡れたタオルで優しく拭き取ります。ゴシゴシこすらず、押さえるように拭くことがポイントです。
食後すぐに保湿剤を塗り直すことも効果的です。食事により保湿剤が取れてしまうため、食後のケアを習慣づけることが推奨されます。
歯磨きの際には、歯磨き粉が唇に付着しないよう注意します。歯磨き後は、口をしっかりすすぎ、唇に歯磨き粉が残らないようにします。
低刺激性の歯磨き粉を選ぶことも有効です。界面活性剤や香料の少ない製品、子ども用の優しい製品などを試してみることも一つの方法です。
歯磨き後も保湿剤を塗ることが推奨されます。歯磨きにより唇の水分が失われている可能性があるため、ケアを忘れないことが重要です。
口をすすぐ際のうがい水も、アルコールフリーのものを選ぶことが推奨されます。アルコールを含むマウスウォッシュは刺激が強いため、避けることが望ましいとされています。
日常生活での注意点として、唇をなめない、噛まない、触らないという3つの基本を守ることが重要です。これらの癖がある場合には、意識的に改善する努力が必要です。
マスクの着用も、状況により有効です。乾燥した環境や風の強い日には、マスクをすることで唇を保護することができます。ただし、マスクの素材や長時間の着用による蒸れが刺激となる場合もあるため、肌に合った素材を選ぶことが重要です。
部屋の湿度を適切に保つことも推奨されます。特に冬場は加湿器を使用するなどして、湿度を40〜60%程度に保つことで、唇の乾燥を防ぐことができます。
十分な水分補給も大切です。体内の水分が不足すると、唇も乾燥しやすくなります。1日に1.5〜2リットル程度の水分を摂取することが推奨されます。
アトピーがある唇には低刺激性のリップクリームでこまめに保湿し、刺激を避けることが基本です。
日常的なケアを続けても改善しない場合の対応について、最後に説明いたします。
唇の症状が改善しない場合の治療と受診のタイミング
アトピーによる唇の症状が改善しない場合は医療機関で適切な治療を受けることが重要です。
医療機関での治療として、唇のアトピー症状に対しては、いくつかの治療選択肢があります。
ステロイド外用薬が処方される場合があります。唇は皮膚が薄く吸収率が高いため、弱めのステロイド外用薬が選択されることが多いとされています。使用方法や使用期間については、医師の指示に従うことが重要です。
タクロリムス軟膏も選択肢の一つです。ステロイドではない免疫抑制剤の外用薬で、顔や首など皮膚の薄い部位に使用されることが多く、唇にも使用できる場合があります。
保湿剤の処方も受けられます。医療用の保湿剤(ヒルドイドソフト、ヒルドイドローションなど)は、市販の保湿剤よりも保湿効果が高い場合があります。
抗ヒスタミン薬の内服が処方される場合もあります。かゆみが強い場合には、かゆみを抑える内服薬により、掻破を防ぐことができます。
ビタミン剤の処方を受けることもあります。ビタミンB群の不足が口角炎などの原因となる場合があるため、必要に応じて処方されます。
細菌感染や真菌感染を合併している場合には、抗生物質や抗真菌薬が処方されることがあります。ひび割れから細菌が侵入したり、カンジダ菌が増殖したりすることで、症状が悪化する場合があるためです。
アレルギー検査を受けることも有効な場合があります。特定の食品や物質に対するアレルギーが唇の症状の原因となっている可能性がある場合、血液検査やパッチテストなどにより原因を特定することができます。
早期受診が必要な症状として、以下のような場合には早めに医療機関を受診することが推奨されます。
保湿などのホームケアを続けても症状が改善しない場合、症状が悪化している場合は受診が必要です。特に、ひび割れが深くなり出血する、腫れが強くなる、痛みが増すなどの変化がある場合には注意が必要です。
黄色いかさぶたができる、膿が出るなど、細菌感染を疑う症状がある場合には、速やかな受診が推奨されます。
食事の際に強い痛みを感じる、口を開けることが困難になるなど、日常生活に支障をきたす場合も受診が必要です。
唇の症状が長期間(2週間以上)続く場合も、受診を検討すべきタイミングです。
水ぶくれができる、激しい痛みがあるなど、口唇ヘルペスなど他の疾患が疑われる場合には、早期の受診が重要です。
日常ケアと医療の両立について、医療機関での治療を受けながらも、日常的なケアを継続することが重要です。処方された薬を適切に使用しながら、保湿や刺激の回避などの基本的なケアを怠らないことが、症状の改善と再発予防につながります。
定期的に経過を診てもらうことも推奨されます。症状が改善した後も、定期的に受診し、治療の継続や中止のタイミングについて医師と相談することが大切です。
生活習慣の見直しについても、医師に相談することができます。唇をなめる癖、食事の内容、使用している化粧品や歯磨き粉など、症状に影響を与えている可能性のある要因について、アドバイスを受けることができます。
心理的なサポートも重要です。唇の症状により、人前で話すことや食事をすることに不安を感じる方もいらっしゃいます。そのような場合には、遠慮なく医師に相談することが推奨されます。
アトピー性皮膚炎による唇の症状は、適切な治療とケアにより改善が期待できます。セルフケアだけで改善しない場合には、早めに医療機関を受診し、専門的な治療を受けることが重要です。唇の健康を保つことで、食事や会話などの日常生活をより快適に送ることができます。
アトピーによる唇の症状が改善しない場合は医療機関で適切な治療を受けることが重要です。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
| 2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
| 2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
| 2019年4月 | 赤穂市民病院 |
| 2021年4月 | 亀田総合病院 |
| 2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
| 2023年2月 | いずみホームケアクリニック |



