強いかゆみに耐えきれず掻きむしってしまい、気づいたら血だらけになっていたという経験をされた方もいらっしゃるかもしれません。
アトピー性皮膚炎の方にとって、掻破による出血は決して珍しいことではなく、特に症状が悪化している時期には起こりやすいとされています。
血が出るほど掻いてしまうと傷が深くなり、感染のリスクも高まるため注意が必要です。
アトピーで血だらけになることを防ぐ方法と、万が一なってしまった場合の適切な対処法を理解することで、症状の悪化を最小限に抑えることが期待できます。
アトピーで血だらけにならないための予防方法
アトピーで血だらけにならないためには炎症とかゆみのコントロールが最も重要です。
血だらけになる前の対策
血だらけになるまで掻いてしまうことを防ぐためには、まず炎症とかゆみをコントロールすることが最も重要です。炎症が起きていなければかゆみも生じず、掻破による出血も起こりません。
医師から処方された薬を適切に使用することが基本です。ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの抗炎症薬を、医師の指示通りに使用することで、炎症を抑えることができます。症状が落ち着いているからといって自己判断で薬を中止すると、炎症が再燃しかゆみが強くなる可能性があります。
保湿を徹底することも重要です。皮膚が乾燥するとバリア機能が低下し、外部からの刺激を受けやすくなります。1日2回以上、こまめに保湿剤を塗布することで、皮膚の状態を良好に保つことができます。
入浴方法にも注意が必要です。お湯の温度は38〜40度程度のぬるめに設定し、長時間の入浴は避けます。熱いお湯は体温を上昇させ、かゆみを増強させる可能性があるためです。入浴後は5分以内に保湿剤を塗布することが推奨されます。
刺激となるものを避けることも大切です。化学繊維の衣類、刺激の強い洗剤、香料の強い製品などは避け、肌に優しい素材や製品を選ぶことが推奨されます。
室内環境を整えることも効果的です。適切な温度と湿度を保つことで、かゆみの発生を抑えることができます。室温は20〜25度程度、湿度は40〜60%程度に保つことが推奨されます。
ストレス管理も見逃せません。ストレスはかゆみを増強させる要因となるため、十分な睡眠、適度な運動、リラックスする時間を持つなど、ストレスを軽減する工夫が重要です。
症状が悪化する前に行うべきこと
症状が悪化する兆候を早期に察知し、対処することで、血だらけになるまでの悪化を防ぐことができます。
かゆみが普段より強くなった、皮膚の赤みが増した、乾燥がひどくなったなどの変化に気づいたら、すぐに対応することが重要です。保湿を増やす、処方された薬を使用する、早めに医療機関を受診するなどの対策を取ります。
掻きたい衝動が強くなってきたら、掻く前に対処することが大切です。冷やす、保湿剤を塗る、手を動かして気を紛らわすなど、掻く以外の方法でかゆみに対処します。
季節の変わり目や、ストレスが多い時期など、症状が悪化しやすいタイミングを把握しておくことも有効です。そのような時期には、予防的に保湿を強化したり、早めに医師に相談したりすることが推奨されます。
定期的に医療機関を受診することも重要です。症状が安定している時期でも、定期的に経過を診てもらうことで、悪化の兆候を早期に発見し、対処することができます。
アトピーで血だらけにならないためには炎症とかゆみのコントロールが最も重要です。
それでも掻いてしまう場合の対策について、次に説明いたします。
血だらけになるまで掻いてしまうのを止める方法
アトピーで血だらけになるまで掻いてしまうのを止めるには物理的な対策とかゆみへの対処を組み合わせることが有効です。
爪のケアと手袋の活用
掻いても皮膚が傷つきにくくするために、爪を短く切ることが基本です。爪を短くすることで、掻いた際の皮膚へのダメージを最小限に抑えることができます。爪は週に1〜2回程度、こまめに切ることが推奨されます。
爪を切る際には、爪切りではなく爪やすりを使用することも一つの方法です。爪切りで切った後は角が残りやすく、その角で皮膚を傷つける可能性があります。爪やすりで丸く整えることで、傷つけるリスクを減らすことができます。
手袋を着用することも効果的な対策です。特に就寝中の無意識な掻破を防ぐために、寝る時に綿の手袋を着用することが推奨されます。綿の手袋であれば通気性も良く、蒸れによる不快感も少ないとされています。
日中も、かゆみが強い時期には手袋を着用することを検討できます。薄手の綿の手袋であれば、日常生活にもそれほど支障をきたさずに使用できる場合があります。
子どもの場合には、ミトンタイプの手袋や、袖が長めのパジャマを着せることも有効です。腕を曲げても手が顔や体に届きにくくなり、掻破を防ぐことができます。
包帯やガーゼで患部を保護することも選択肢です。掻きむしりやすい部位に包帯やガーゼを巻くことで、直接掻けないようにすることができます。ただし、蒸れや圧迫による刺激に注意が必要です。
かゆみが我慢できない時の対処
かゆみが我慢できない時には、掻く以外の方法でかゆみに対処することが重要です。
冷やすことは、最も即効性のあるかゆみ対処法の一つです。冷たいタオルや保冷剤をタオルで包んだものを患部に当てることで、一時的にかゆみを軽減できます。ただし、氷を直接当てることや、長時間冷やしすぎることは避けるべきです。
保湿剤を塗ることも有効です。かゆい部位に保湿剤を塗ることで、一時的にかゆみが和らぐ場合があります。保湿剤を冷蔵庫で冷やしておくと、冷却効果も加わりより効果的です。
たたく、さする、つまむなど、掻く以外の刺激を与える方法も一つの対処法です。ただし、強くたたいたり、つまんだりすることは、皮膚へのダメージとなるため、優しく行うことが重要です。
気を紛らわすことも効果的です。手を使う作業をする、運動する、誰かと話すなど、別のことに意識を向けることで、かゆみから注意をそらすことができます。
深呼吸やリラックス法を試すことも有効な場合があります。かゆみにはストレスや緊張が関与することもあるため、リラックスすることでかゆみが軽減される可能性があります。
抗ヒスタミン薬を服用することも選択肢です。医師から処方されている場合には、かゆみが強い時に服用することで、かゆみを抑える効果が期待できます。
夜間の掻破対策として、就寝前に保湿を徹底する、手袋を着用する、爪を短く切る、室温を適切に保つなどの対策を組み合わせることが推奨されます。
寝る前にぬるめのお風呂に入ることも、体温を適度に下げ、リラックス効果により睡眠の質を向上させる効果が期待できます。
寝具を清潔に保つことも重要です。シーツや枕カバーをこまめに洗濯し、ダニやハウスダストを除去することで、かゆみの原因を減らすことができます。
アトピーで血だらけになるまで掻いてしまうのを止めるには物理的な対策とかゆみへの対処を組み合わせることが有効です。
それでも血だらけになってしまった場合の対処法について、次に説明いたします。
血だらけになってしまった時の応急処置と止血方法
アトピーで血だらけになってしまった時はまず止血と清潔な処置を行うことが重要です。
血だらけの状態での正しい止血方法
掻きむしって血だらけになってしまった場合、まず落ち着いて適切な処置を行うことが重要です。
止血の基本は、清潔なガーゼやタオルで患部を優しく押さえることです。強く押さえる必要はなく、軽く圧迫する程度で十分です。通常、数分で止血できることが多いとされています。
出血している部位を心臓よりも高い位置に保つことも、止血を促進する効果があります。例えば、腕から出血している場合には、腕を上げた状態を保ちます。
止血後は、患部を洗浄することが重要です。流水で優しく洗い流し、汚れや血液を除去します。石鹸を使用する場合には、低刺激性のものを選び、しっかりと洗い流します。
洗浄の際には、ゴシゴシこすらず、流水で優しく洗うことがポイントです。こすることで傷を広げたり、再び出血したりする可能性があります。
洗浄後は、清潔なタオルで優しく水分を拭き取ります。押さえるように拭き、こすらないことが重要です。
消毒液の使用については注意が必要です。アルコール系の消毒液は刺激が強く、傷に染みて痛みを感じることがあります。また、傷の治りを遅らせる可能性も指摘されています。基本的には、流水での洗浄で十分とされています。
やってはいけない処置
血だらけになった時に、やってはいけない処置もあります。
傷口を強くこすることは避けるべきです。出血を止めようとして強くこすると、傷を広げたり、皮膚をさらに傷つけたりする可能性があります。
汚れた手で触ることも避けるべきです。手についた細菌が傷口から侵入し、感染を引き起こす可能性があります。処置をする前には、必ず手を洗うことが重要です。
民間療法や根拠のない治療法も避けるべきです。傷口に塩を塗る、アロエを塗るなどの方法は、刺激となり症状を悪化させる可能性があります。
傷口を乾燥させすぎることも避けるべきです。適度な湿潤環境を保つことで、傷の治りが早くなるとされています。
市販の刺激の強い薬を自己判断で使用することも避けるべきです。傷の状態により適切な薬が異なるため、医師に相談することが推奨されます。
アトピーで血だらけになってしまった時はまず止血と清潔な処置を行うことが重要です。
止血後の傷のケア方法について、次に説明いたします。
血だらけの傷を早く治すためのケア方法
アトピーで血だらけになった傷を早く治すには適切な保護と感染予防が重要です。
傷のケアと使用すべき薬
止血と洗浄が終わったら、傷口を適切に保護することが重要です。
医師から処方されている外用薬がある場合には、それを使用します。ステロイド外用薬や抗生物質入りの軟膏など、傷の状態に応じた薬が処方される場合があります。
保湿剤を使用することも傷の治癒を促進します。ワセリンや白色ワセリンは、傷口を保護し、適度な湿潤環境を保つ効果があります。
傷口にガーゼや絆創膏を貼る場合には、傷口が乾燥しすぎないよう注意が必要です。最近では、傷を湿潤環境に保つことで治りが早くなるという考え方(湿潤療法)が推奨されることが多くなっています。
ハイドロコロイド素材の絆創膏は、傷から出る体液を保持し、湿潤環境を維持する効果があります。ただし、感染の兆候がある場合には使用を避け、医師に相談することが重要です。
ガーゼを使用する場合には、1日1〜2回交換し、清潔を保ちます。ガーゼが傷口に張り付いて剥がしにくい場合には、無理に剥がさず、水で湿らせてから優しく剥がします。
衣類や寝具が傷口に触れる場合には、柔らかい綿素材のものを選び、摩擦を最小限にします。
傷の治りを妨げる行為
傷の治りを早めるためには、以下のような行為を避けることが重要です。
掻くことは最も避けるべき行為です。傷がかゆくても掻いてしまうと、傷が広がり、治りが遅くなります。かゆい場合には、冷やすなどの方法で対処します。
かさぶたを無理に剥がすことも避けるべきです。かさぶたは傷を保護する役割を持っており、無理に剥がすと再び出血したり、傷が広がったりします。
傷口を乾燥させすぎることも治りを遅らせます。適度な湿潤環境を保つことが、傷の治癒を促進するとされています。
刺激の強い石鹸やボディソープで洗うことも避けるべきです。低刺激性のものを選び、優しく洗うことが推奨されます。
紫外線に当てることも避けるべきです。傷や炎症がある部位に紫外線が当たると、色素沈着が起こりやすくなります。外出時には、衣類や日焼け止めで保護することが推奨されます。
感染予防も重要です。傷口を清潔に保ち、黄色い膿が出る、赤く腫れる、熱を持つなどの感染の兆候がある場合には、速やかに医療機関を受診することが必要です。
栄養バランスの良い食事を取ることも、傷の治りを促進します。タンパク質、ビタミンC、亜鉛などは、傷の治癒に重要な栄養素とされています。
十分な睡眠も重要です。睡眠中に皮膚の修復が行われるため、質の良い睡眠を十分に取ることが、傷の治りを早めることにつながります。
アトピーで血だらけになった傷を早く治すには適切な保護と感染予防が重要です。
傷の状態により、医療機関の受診が必要な場合もあります。
血だらけの状態で受診すべきタイミングと治療
アトピーで血だらけの状態が続く場合や感染の兆候がある場合は早急に医療機関を受診することが重要です。
早期受診が必要な危険なサイン
以下のような症状がある場合には、早急に医療機関を受診することが推奨されます。
広範囲に出血がある場合、止血が困難な場合は、すぐに受診が必要です。特に、数分間圧迫しても止血しない場合には、注意が必要とされています。
感染の兆候がある場合も、早期受診が重要です。黄色い膿が出る、傷の周りが赤く腫れる、熱を持つ、痛みが増す、発熱があるなどの症状は、細菌感染を示唆します。
傷が深い場合、傷口が開いて閉じない場合も、受診が推奨されます。このような場合には、縫合が必要になることもあります。
掻きむしりを繰り返し、症状が改善しない場合も、治療方針の見直しが必要な可能性があるため、受診が推奨されます。
全身状態が悪い場合、強い痛みがある場合、日常生活に支障をきたす場合なども、早期受診のタイミングです。
じくじくとした滲出液が多量に出る場合も、感染のリスクが高いため、受診が推奨されます。
受診時に伝えるべき情報
医療機関を受診する際には、以下の情報を伝えることで、適切な診断と治療を受けやすくなります。
いつから血だらけの状態になったか、どのような経緯で出血したかを伝えます。
現在使用している薬(外用薬、内服薬)があれば、その情報を伝えます。お薬手帳があれば持参することが推奨されます。
症状の経過(良くなっているか、悪くなっているか、変わらないか)を伝えます。
他に気になる症状(発熱、痛み、かゆみの程度など)があれば伝えます。
自宅で行った処置があれば、その内容を伝えます。
医療機関での治療内容として、血だらけの状態に対しては、症状の程度に応じて様々な治療が行われます。
感染がある場合には、抗生物質の外用薬や内服薬が処方されます。黄色ブドウ球菌などの細菌感染を治療するために必要です。
炎症が強い場合には、ステロイド外用薬が処方されます。炎症を抑えることで、かゆみも軽減し、掻破を防ぐことができます。
かゆみが非常に強い場合には、抗ヒスタミン薬の内服が処方される場合があります。特に夜間の掻破を防ぐために、眠気を伴うタイプの抗ヒスタミン薬が選択されることもあります。
傷の保護のために、適切な被覆材が使用されることもあります。ガーゼ、包帯、ハイドロコロイド素材の絆創膏などが、傷の状態に応じて選択されます。
重症の場合には、入院治療が必要になることもあります。広範囲に渡る重度の掻破、重篤な感染症、コントロール困難なかゆみなどの場合には、入院での集中的な治療が検討される場合があります。
繰り返さないための管理として、血だらけの状態を繰り返さないためには、根本的な症状のコントロールが重要です。
定期的に医療機関を受診し、症状に応じた適切な治療を継続することが推奨されます。症状が落ち着いている時期でも、保湿などの基本的なケアを怠らないことが重要です。
生活習慣の見直しも効果的です。十分な睡眠、バランスの取れた食事、ストレス管理などにより、症状の安定を図ることができます。
環境整備も重要です。室温と湿度を適切に保つ、ダニやハウスダストを減らすなど、症状を悪化させる環境要因を除去することが推奨されます。
掻破の癖への対処も必要です。爪を短くする、手袋を着用する、かゆみが強くなる前に対処するなど、掻いてしまう前の対策を継続することが大切です。
心理的なサポートも重要な場合があります。掻破がストレスや不安と関連している場合には、カウンセリングなどの心理的なサポートを受けることも選択肢の一つです。
アトピー性皮膚炎で血だらけになることは、適切な予防と早期の対処により、ある程度防ぐことができます。それでも症状が悪化した場合には、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。掻きむしりによる悪循環を断ち切り、症状を安定させることで、より快適な生活を送ることができます。
アトピーで血だらけの状態が続く場合や感染の兆候がある場合は早急に医療機関を受診することが重要です。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
| 2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
| 2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
| 2019年4月 | 赤穂市民病院 |
| 2021年4月 | 亀田総合病院 |
| 2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
| 2023年2月 | いずみホームケアクリニック |



