アトピー性皮膚炎の症状が落ち着いた後に、皮膚に黒ずみが残ってしまい悩まれる方もいらっしゃいます。
炎症を繰り返した部位や掻いてしまった部位に、茶色や黒っぽい色素沈着が見られることがあります。
これらは炎症後の自然な反応として生じるもので、時間とともに薄くなる場合もあれば、長期間残る場合もあるとされています。
アトピーによる黒ずみの原因を理解し、適切な予防とケアを行うことで、色素沈着を最小限に抑えることが期待できます。
アトピー性皮膚炎で黒ずみができる原因とメカニズム
アトピーの黒ずみは炎症後の色素沈着と掻破による刺激が主な原因です。
黒ずみが生じるメカニズム
アトピー性皮膚炎で黒ずみができる最も大きな原因は、炎症後色素沈着(PIH:Post-Inflammatory Hyperpigmentation)と呼ばれる現象です。これは、皮膚に炎症が起きた後に、その部位にメラニン色素が過剰に生成され、沈着することで起こります。
炎症が起こると、皮膚は自らを守るためにメラノサイト(色素細胞)を活性化させます。メラノサイトはメラニン色素を産生し、これが表皮や真皮に沈着することで、黒ずみとして見える状態になります。
アトピー性皮膚炎では、炎症を繰り返すことが多いため、同じ部位で何度もメラニン色素が生成され、黒ずみが濃くなったり、広範囲に広がったりする可能性があります。
掻破による影響も大きな要因です。かゆみにより皮膚を掻いてしまうと、その物理的な刺激がメラノサイトを刺激し、メラニン色素の産生を促進します。掻くという行為自体が、炎症を悪化させ、色素沈着を引き起こす悪循環を生み出します。
特に、強く掻いたり、爪を立てて掻いたりすることで、皮膚の深い層まで傷つけてしまうと、真皮にまでメラニン色素が沈着し、より消えにくい黒ずみとなる可能性があるとされています。
摩擦による刺激も色素沈着の原因となります。衣類や寝具との摩擦、タオルで強くこすることなどの日常的な刺激が、メラニン色素の生成を促す場合があります。
紫外線の影響も見逃せません。炎症が起きている部位や、炎症が治まったばかりの部位に紫外線が当たると、メラニン色素の生成がさらに促進され、黒ずみが濃くなったり、定着しやすくなったりする可能性があります。
皮膚のターンオーバーの乱れも関与しています。健康な皮膚では、約28日周期で表皮の細胞が入れ替わり、メラニン色素も自然に排出されます。しかし、アトピー性皮膚炎により皮膚のバリア機能が低下していると、このターンオーバーが正常に機能せず、メラニン色素が排出されにくくなる可能性があります。
慢性的な炎症による影響も重要です。長期間炎症が続くと、メラノサイトが常に活性化された状態となり、メラニン色素が過剰に産生され続けます。これにより、黒ずみが濃く、広範囲に残る可能性が高くなります。
黒ずみができやすい部位
アトピー性皮膚炎で黒ずみができやすい部位は、症状が出やすい部位や摩擦が起きやすい部位と一致することが多いとされています。
首は最も黒ずみができやすい部位の一つです。アトピー性皮膚炎の症状が出やすく、また衣類との摩擦も多いため、色素沈着が起こりやすいとされています。特に首の前面やしわの部分に黒ずみが見られることが多いです。
肘の内側や膝の裏側も、アトピー性皮膚炎の好発部位であり、黒ずみができやすい部位です。関節部分は動きによる摩擦が多く、また汗がたまりやすいため、炎症が起こりやすく、結果として色素沈着も生じやすくなります。
脇の下も黒ずみができやすい部位です。摩擦が多く、汗もかきやすいため、炎症が起こりやすく、色素沈着につながりやすいとされています。
手首や足首も、衣類との接触が多く、掻きやすい部位でもあるため、黒ずみが生じやすいとされています。
顔では、目の周りや口の周り、頬などに黒ずみができる場合があります。顔は紫外線に当たりやすいため、炎症後の色素沈着が起こりやすく、また目立ちやすい部位です。
体幹部では、背中や胸、お腹などにも黒ずみができる場合があります。これらの部位も、衣類との摩擦や汗による刺激で炎症が起こりやすく、色素沈着につながる可能性があります。
アトピーの黒ずみは炎症と掻破による色素沈着が主な原因です。
アトピーの黒ずみの種類について、次に詳しく見ていきましょう。
アトピーによる黒ずみの種類と見分け方
アトピーによる黒ずみには表皮性と真皮性があり、深さにより改善のしやすさが異なります。
黒ずみの程度による分類
アトピー性皮膚炎による黒ずみは、色素沈着の深さや程度により、いくつかのタイプに分類されます。
表皮性の黒ずみは、メラニン色素が表皮層(皮膚の浅い層)に沈着しているタイプです。比較的薄い茶色から茶褐色の色をしており、皮膚のターンオーバーとともに徐々に薄くなる可能性があります。数ヶ月から1年程度で自然に改善する場合が多いとされています。
真皮性の黒ずみは、メラニン色素が真皮層(皮膚の深い層)まで沈着しているタイプです。濃い茶色から青みがかった黒色をしていることが多く、表皮性の黒ずみと比較して改善に時間がかかります。数年単位で残る場合もあり、完全に消えないこともあるとされています。
混合型の黒ずみは、表皮と真皮の両方に色素沈着があるタイプです。部分的に改善しても、一部が残るという経過をたどることがあります。
黒ずみの色の濃さや範囲も様々です。軽度の場合は薄い茶色で範囲も限定的ですが、中等度から重度になると、濃い茶色や黒っぽい色で、広範囲に及ぶ場合があります。
炎症の程度と期間により、黒ずみの濃さや範囲が決まる傾向があります。強い炎症が長期間続いた部位ほど、濃く広範囲の黒ずみができやすいとされています。
改善しやすい黒ずみと改善しにくい黒ずみ
改善しやすい黒ずみの特徴として、まず薄い色の黒ずみが挙げられます。淡い茶色や黄褐色の黒ずみは、表皮性である可能性が高く、比較的短期間で改善する可能性があります。
範囲が限定的な黒ずみも改善しやすい傾向があります。狭い範囲に限局した色素沈着は、広範囲のものと比較して改善しやすいとされています。
炎症が治まってから間もない黒ずみも、適切なケアにより改善しやすい可能性があります。炎症後すぐに紫外線対策や保湿などのケアを始めることで、色素沈着の進行を防ぎ、早期改善につながる場合があります。
改善しにくい黒ずみの特徴として、濃い色の黒ずみがあります。濃い茶色や黒っぽい色、青みがかった色の黒ずみは、真皮性である可能性が高く、改善に長期間を要するとされています。
広範囲に及ぶ黒ずみも改善が難しい傾向があります。首全体、広い範囲の体幹部など、広範囲に色素沈着がある場合は、完全に元の肌色に戻すことが難しい場合があります。
長期間(数年以上)経過した黒ずみも、メラニン色素が定着してしまっている可能性があり、改善が難しい場合があります。
繰り返し炎症を起こしている部位の黒ずみは、新たな色素沈着が加わり続けるため、改善が困難です。まず炎症をコントロールすることが、黒ずみ改善の前提となります。
ただし、改善しにくい黒ずみであっても、適切なケアや治療により、ある程度薄くすることは可能な場合があるとされています。完全に消すことは難しくても、目立ちにくくすることは期待できます。
黒ずみには表皮性と真皮性があり、深さにより改善のしやすさが異なります。
アトピーの黒ずみを予防する方法について、次に説明いたします。
アトピーの黒ずみを予防するための日常ケア
炎症のコントロールと掻破の防止、紫外線対策がアトピーの黒ずみ予防の基本です。
スキンケアでの予防方法
黒ずみを予防するために最も重要なのは、炎症をコントロールすることです。炎症が起こらなければ、炎症後色素沈着も起こりません。医師から処方された薬を適切に使用し、症状を安定させることが、黒ずみ予防の第一歩です。
保湿を徹底することも重要です。十分な保湿により皮膚のバリア機能を保つことで、炎症の予防につながります。1日2回以上、こまめに保湿剤を塗布することが推奨されます。
掻かないようにすることも、黒ずみ予防には不可欠です。かゆみを感じても掻かない、掻きそうになったら冷やす、爪を短く切るなどの対策が有効です。特に就寝中の無意識の掻破を防ぐため、手袋を着用することも一つの方法です。
紫外線対策を徹底することも重要です。紫外線は色素沈着を促進するため、日焼け止めの使用、帽子や長袖の着用などにより、紫外線から皮膚を守ることが推奨されます。
日焼け止めは、低刺激性で紫外線散乱剤(酸化チタン、酸化亜鉛など)を使用したものを選ぶことが推奨されます。SPF30〜50程度、PA+++以上の製品を選び、2〜3時間おきに塗り直すことが効果的です。
炎症が起きている部位や、炎症が治まったばかりの部位は、特に紫外線対策が重要です。これらの部位は色素沈着が起こりやすい状態にあるため、しっかりと保護することが必要です。
摩擦を避けることも予防につながります。タオルで体を拭く際には、ゴシゴシこすらず押さえるように拭く、衣類は柔らかい綿素材を選ぶなど、日常的な摩擦を最小限にすることが推奨されます。
美白成分を含む化粧品の使用には注意が必要です。炎症が起きている時期や、皮膚が敏感な状態では、美白成分が刺激となる可能性があります。症状が安定している時期に、医師に相談しながら使用することが推奨されます。
生活習慣での注意点
生活習慣を整えることも、黒ずみ予防に役立ちます。十分な睡眠を取ることで、皮膚のターンオーバーが正常に機能し、メラニン色素の排出が促進される可能性があります。
バランスの取れた食事も重要です。ビタミンC、ビタミンE、ビタミンAなど、皮膚の健康に必要な栄養素を適切に摂取することが推奨されます。これらのビタミンは抗酸化作用があり、色素沈着の予防に役立つ可能性があります。
ストレス管理も大切です。ストレスは症状を悪化させる要因となるため、適度な運動、趣味の時間、リラックスする時間を持つなど、ストレスを軽減する工夫が推奨されます。
喫煙は皮膚の血行を悪化させ、ターンオーバーを乱す可能性があるため、避けることが推奨されます。
過度のアルコール摂取も、かゆみを増強させる可能性があるため、適量を守ることが重要です。
定期的な医療機関の受診も、予防につながります。症状が安定している時期でも、定期的に経過を診てもらうことで、炎症の兆候を早期に発見し、対処することができます。
炎症のコントロールと掻破の防止、紫外線対策が黒ずみ予防の基本です。
既にできてしまったアトピーの黒ずみの改善方法について、次に説明いたします。
できてしまったアトピーの黒ずみの改善方法と治療
アトピーの黒ずみは時間とともに薄くなる場合もありますが、適切なケアや治療により改善を促すことができます。
ホームケアでの改善方法
既にできてしまった黒ずみに対しても、日常的なケアにより改善を促すことができる場合があります。
継続的な保湿は、黒ずみ改善の基本です。保湿により皮膚のターンオーバーを正常化することで、メラニン色素の排出が促進される可能性があります。
紫外線対策を徹底することも重要です。黒ずみがある部位に紫外線が当たると、さらに色素沈着が進む可能性があるため、日焼け止めや衣類により保護することが推奨されます。
ビタミンC誘導体を含む化粧品の使用も、選択肢の一つです。ビタミンC誘導体には、メラニン色素の生成を抑制する作用や、既にできたメラニン色素を還元する作用があるとされています。ただし、刺激を感じる場合には使用を中止し、ご相談いただくことが推奨されます。
トラネキサム酸を含む化粧品も、色素沈着の改善に役立つ可能性があります。トラネキサム酸は、メラニン色素の生成を抑制する作用があるとされています。
ただし、これらの美白成分を含む化粧品は、炎症が起きている時期には使用を避け、症状が安定している時期に使用することが重要です。
ピーリング効果のある化粧品の使用には注意が必要です。古い角質を除去することで、メラニン色素の排出を促進する効果が期待できますが、アトピー性皮膚炎の方の肌には刺激が強すぎる場合があります。使用する場合には、医師に相談することが推奨されます。
自然に薄くなるまでの期間について、表皮性の黒ずみであれば、適切なケアを続けることで、数ヶ月から1年程度で薄くなる可能性があります。真皮性の黒ずみは、改善に数年を要する場合や、完全には消えない場合もあります。
医療機関で受けられる治療
医療機関では、より専門的な治療を受けることができます。
ハイドロキノンクリームは、強力な美白作用を持つ外用薬です。メラニン色素の生成を抑制し、既にできたメラニン色素を減少させる効果があるとされています。医師の処方により使用することができますが、刺激が強い場合もあるため、医師の指導のもとで使用することが重要です。
トレチノインクリームは、ビタミンA誘導体の一種で、皮膚のターンオーバーを促進する作用があります。ハイドロキノンと併用されることが多く、色素沈着の改善に効果が期待できるとされています。ただし、刺激が強いため、医師の管理のもとで使用する必要があります。
ビタミンC誘導体の外用薬も、医療機関で処方される場合があります。市販の化粧品よりも高濃度のものが使用でき、より高い効果が期待できる可能性があります。
内服薬として、トラネキサム酸やビタミンCの内服が処方される場合もあります。これらは体の内側から色素沈着の改善をサポートする効果が期待されます。
レーザー治療も選択肢の一つですが、アトピー性皮膚炎の方の場合、レーザーの刺激により炎症が悪化するリスクがあるため、慎重な判断が必要です。症状が完全に安定している時期に、限定的に行われる場合があります。
ケミカルピーリングも、色素沈着の改善に用いられる治療法ですが、アトピー性皮膚炎の方には刺激が強すぎる場合が多いため、一般的には推奨されません。
治療効果には個人差があり、また治療期間も数ヶ月から数年と長期にわたる場合があります。根気よく治療を続けることが重要です。
黒ずみは時間とともに薄くなる場合もあり、適切なケアや治療により改善を促すことができます。
アトピーの黒ずみケアを行う際の注意点について、最後に説明いたします。
アトピーの黒ずみケアで注意すべきポイントと受診のタイミング
刺激の強い美白剤や民間療法は避け、アトピーの黒ずみが改善しない場合は医療機関にご相談ください。
避けるべきケア方法として、まず強くこすることは絶対に避けるべきです。黒ずみを早く消そうとして、スクラブやピーリング剤で強くこすると、かえって刺激となり、色素沈着を悪化させる可能性があります。
市販の強力な美白剤を自己判断で使用することも避けるべきです。アトピー性皮膚炎の敏感な肌には刺激が強すぎる場合が多く、炎症を引き起こし、結果として色素沈着を悪化させるリスクがあります。
民間療法や根拠のない美白方法も避けることが推奨されます。レモン汁を直接塗る、重曹でこするなどの方法は、皮膚に強い刺激を与え、症状を悪化させる可能性があります。
刺激となる成分として、アルコール濃度の高い化粧品、香料の強い製品、合成界面活性剤を多く含む製品などは、避けることが推奨されます。
美白効果を謳う化粧品でも、ハイドロキノンやトレチノインなど、医師の処方が必要な成分を高濃度で含む海外製品などは、自己判断での使用を避けるべきです。
症状が改善しない場合の対応として、適切なケアを数ヶ月続けても黒ずみが改善しない場合や、逆に濃くなる場合には、医療機関を受診することが推奨されます。
黒ずみが広範囲に及ぶ場合、非常に濃い場合、日常生活に支障をきたすほど気になる場合なども、受診を検討すべきタイミングです。
黒ずみのある部位に炎症が再発した場合には、まず炎症のコントロールを優先する必要があります。炎症が続いている状態で美白ケアを行っても効果は期待できず、かえって悪化するリスクがあります。
適切な相談のタイミングとして、黒ずみケアを始める前に、一度医療機関を受診し、現在の皮膚の状態や適切なケア方法について相談することが推奨されます。
定期的に経過を診てもらうことも重要です。黒ずみの改善には時間がかかるため、定期的に受診し、ケア方法の見直しや治療の調整を行うことが、効果的な改善につながります。
心理的な負担が大きい場合にも、遠慮なく相談することが推奨されます。黒ずみにより外見への不安やストレスを感じることは、決して珍しいことではありません。医療機関では、症状の改善だけでなく、心理的なサポートも含めた総合的なケアを受けることができます。
アトピー性皮膚炎の黒ずみは、適切なケアにより改善が期待できる場合も多いですが、完全に元の肌色に戻すことは難しい場合もあります。現実的な目標を設定し、焦らず根気よくケアを続けることが重要です。
何よりも大切なのは、新たな黒ずみを作らないことです。炎症のコントロール、掻破の防止、紫外線対策などの予防的なケアを継続することで、黒ずみの増加を防ぐことができます。
刺激の強い美白剤や民間療法は避け、改善しない場合は医療機関にご相談ください。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や治療に関するご相談は、医療機関にご相談ください。
監修医師

略歴
| 2014年10月 | 神戸大学博士課程入学 |
| 2019年3月 | 博士課程卒業医師免許取得 |
| 2019年4月 | 赤穂市民病院 |
| 2021年4月 | 亀田総合病院 |
| 2022年1月 | 新宿アイランド内科クリニック院長 |
| 2023年2月 | いずみホームケアクリニック |




